第39話 スタンダップ・トゥー・ザ・ビクトリー

「むうっ!」


「はぁ、ははははは!楽しいでござる!楽しいでござるよ!あはは、ははは!はははははははは!!!!!」


実力は……、五分といったところか!


ザンガンデリンスに隙はない。


堅実で、現実的で、正確で堅牢だ。


しかし、侍女……、カナタと言ったか?


カナタには、爆発力があった。


達人であるザンガンデリンスでも、一瞬気を抜けば、オークの重装鎧ごと断ち切られかねないような……、「凄味」があるのだ。


パッと見ではカナタがあしらわれているように見えるが、それでもカナタは右腕と左脚だけはノーダメージで保持しており、いつでも素早く踏み込んで刀を振り下ろせる状態。


このままザンガンデリンスが削り殺すか、カナタが踏み込んで斬るかの二択だな。


……にしても、凄いな。


ザンガンデリンス。


一撃一撃が、人間にとっては文字通りに「必殺」の威力を持つ攻撃を、ほんの牽制技のように何度も放つ。


実際に戦車を見たことはないから分からないが、恐らくは戦車を殴って破壊できるくらいの腕力がある存在が、大砲のような威力の攻撃を何度も正確に繰り出す訳で。


突きの時の風切り音は、音速を超えているからか、破裂音になっている。


正直俺は、何やっているか分からないレベルだ。


恐らくは突きを連射(もう速さが機銃並なので)しているのだろうな……、とは分かるが、一撃一撃が速過ぎて普通に見えない。


俺、この女によく勝てたな……。戦う前にめっちゃ口説いて、戦い自体も素手での殴り合いにしていたから、かなり加減してくれていた部分があるんだろうな。ヤリチンで助かった……!


そんなザンガンデリンスの、相手を殺すための戦い。並の戦士ならば、数秒も保つまい。そのくらいの強さだ。


一方で、カナタ・ツルギベ。


こちらも、並のオークは超えているパワーで、殺人的な斬撃を繰り返し放っている。特に恐ろしいのは、時折に放たれる「劔辺流」の秘剣の数々。魔力を乗せて放たれた斬撃は、ザンガンデリンスですら回避を選択せざるを得ない。


この世界の謎パワー、魔力は、この世界のガバガバ設定の全てを補うために存在している。


人体がそんなに硬い訳なくね?はい、魔力を纏って強化してるんです!


魔法の威力デカ過ぎない?エネルギー保存の法則は?はいはい!魔力は不思議な力なんです!


こんなスピードで武器を振り回してよく壊れないね?はーい、魔力を武具に流して強化していまーす!


と、まあ、こんな感じ。


だがそれを極めて、極めて……、極め尽くしたのが『劔辺流』だ。


やっていることは正直簡単なんだよ。魔力を武器に込めて、放出している。それだけ。


けど、それだけの現象をやるのには……、戦士としての十分な才能と、更に魔法使いになれるほどの魔力量を持ち、その上で十年を超える厳しい訓練をしないといけない……。


基礎を突き詰めた結果が『劔辺流』で、そして武術の基礎を極めるってのはマジで本当に大変なことなのである。


……よく、「ファンタジーなんて銃やミサイルには敵わない!」みたいな態度の奴がいるが、こいつらとは銃やミサイルがあっても戦いたくないな。


ザンガンデリンスならばライフル弾くらいなら筋肉で弾くし、カナタは発射を見てから避けるくらいの芸当はやる。


ミサイルで広範囲を刈り取ろうとしても、その辺の岩を投げて迎撃したり、或いは、走って攻撃範囲から逃れるくらいはできるんだよな、こいつら……ってかこの世界のプロ戦士共。


それほどまででなくとも、エリート戦士なら普通に銃くらいには対処もできるはずだし、現代知識で完全無敵!とは行かないんだよな……。


もちろん、雑兵の皆さんは銃で撃たれたら対処できずに死ぬ程度なので、銃が無駄ってことではないけどね。


無双の戦士、それこそこの二人でも、大量の兵士を揃えてチクチク遠距離攻撃を続ければ、それなりに堪えるはずだしな。飽和攻撃すればワンチャン……?ってな感じ。


本当の戦場だと、相手にもそこそこに強い騎士とかたくさんいる訳だから、勝負に絶対はないよ。マジで。


「おおおあ!!!!」


「ッ!」


おっと……、そうこうしているうちに、段々と場が煮詰まってきた。


ザンガンデリンスはほぼ無傷、疲弊はしているが、着実にカナタにダメージを与えていた。


カナタは……、そろそろ立っているのもキツそうだ。左腕が折れたらしく、だらりと垂れ下がっている。


「ぬぅん!!!」


そんなカナタを更に追い詰めるように、ザンガンデリンスの猛攻。


人間の心肺能力ではとても不可能な、無呼吸一分間での連打、連打。ここで勝負を決めるつもりらしい、後先を考えないフル稼働だ。


総金属製、柄に当たっても致死ダメージを受ける巨大なハルバードが、遠心力という名の破壊力を込められて、回転する。


それはまるで、小さな竜巻。ミキサーの中の刃だ。


そして……。


「獲ったぞ!!!」


「んぎゃっ?!」


ザンガンデリンスの放ったハルバード、その柄頭が、カナタの頭を砕いた。


クリーム色の脳漿が飛び散る。


即死だろう。あーあ、かわい子ちゃんなのにな、もったいねえ……。


「きは、ひひ!」


……あ?


「劔辺流、地獄変!」


「なっ……、ぐうおおおお!!!」


脳味噌砕かれた筈のカナタは、そのまま赤黒い斬撃波動を放つ。


モロに当たったザンガンデリンスは、胸から左腕にかけて大きく斬り裂かれ、膝をついた。特に、咄嗟に出した左腕は、斬り落とされている。


「いけないでござるよ、残心しなくてはァ!!!!」


そのまま、死に体のザンガンデリンスに、攻撃し始めるカナタ。脳漿は垂らしっぱなしだ。


何だ、こいつ?


不死身なのか……?


いや、考えるのは後だ。


このままでは、ザンガンデリンスが死ぬ。


ザンガンデリンスは俺の嫁の一人だし、最大戦力の一つだ。死なせる訳にはいかない。


「おい、その辺りで……!」


「まだだッ!!!!」


は?


ザ、ザンガンデリンス……?!


ま、まだ、まだ立てるのか?!


すげえ、化け物かよ……!


残った右腕で、ハルバードを構えたザンガンデリンスは、叫ぶ……。


「私の名前は……、ZanGa(巌峯)・Gand(断つ)・dell(まことの)・Reans(鐵)……!オーク族最強の戦士!!!!」


オーク語で自分の名前を叫ぶ、ザンガンデリンス。


どんだけだよ、これだから戦士って生き物は……!


「く、く……!ははは、ははははは!!!あーはははは!!!!!その意気や良し!!!!!拙者は禍那多!劔辺禍那多!!!!屍鬼へと堕ちた、魔道の侍!!!!!!」


あ……、そうか!


こいつ、屍鬼!アンデッド……、グールか!!!!


グールは、転化する要因は色々あるが、原因は何だったとしても基本的に不死身だ!


「ザンガンデリンス!!!」


俺は思わず叫んだ。


だってそいつ、死なない、殺せないんだもん。


どうするんだ、ザンガンデリンス?気合いで何とかなる相手じゃ……、あ?


ザンガンデリンスのハルバードが……、光っている?蒼黒の……、魔力の光だ!


これ、おい、まさか……。


「……?!!!お、鬼め!!!貴様、劔辺の技を!!!!」


「ザンガンデリンスは……、頭も良い!!!!」


振り下ろされた、魔力の溜まったハルバードは……。


草原に巨大なクレーターを作り、全てを吹っ飛ばした……。

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