第36話 モコターン達、回顧して曰く
僕、モーコギン・ミニットは、「偉大なるハーン(大王)」こと、エビライ・ミニットの血を引く女だ。
僕は今、ワルバッド王の持つ街が一つ、カストラと言うところに、部族の仲間達全員で向かっていた。
全員というのは……、全員と言うことだね。
「モーコギン!我ら、モコターン全部族、総数『八万人』で街に向かい、問題がないのか?!」
僕の兄、ミニット氏族のイカライ・ミニットが馬上で叫ぶ。
「問題ないよ!ワルバッド王は無限に等しい富を持っているから!」
「剛毅じゃのう!」
「すごいねえ!」
「略奪できないのが残念だな!」
側にいるのは、別の氏族の長達。
プチット氏族のカリャーゲ・プチット殿。
チッチャ氏族のメンカツ・チッチャ殿。
ミクロー氏族のタケテン・ミクロー殿。
皆、冬を越せないからとモコターン全体で話し合った。
氏族会議で決まったのが、西のワルバッド王を頼ることだったけれど……。
これで正解だね!
「遠慮とかっていう文化はない感じ????」
「エンリョ……?とは、何かな?とにかく、モコターンの全氏族を呼んだよ!」
何故か若干怒っているワルバッド王に、僕は臣下の礼をした。
それに続き、有力四氏族の長、副氏族十六族と、どんどん現れて、順に礼をし、ワルバッド王に贈り物をした。
特別な山羊……カシミニアという種が幼齢の時にのみとれる毛を紡いで作った秘宝である「カシミニア布」や、ユニコーンの角など、特別なものをそれぞれの部族が献上する。もちろん、若く美しい女や、年若い少年もだ。
僕達は、王に全ての秘宝を渡して、慈悲を乞うた。
疫病の被害はひどいもので、モコターンの行ける圏内の街人達を皆殺しにし、モコターンすらも何千人も殺した。
僕達はもう、ワルバッド王の慈悲に縋るしか、生きる道はないのだ。
すると、ワルバッド王はこう言った。
「諸君らの秘宝、そして誠意の気持ちは十分に受け取った。ジャーク・ワルバッドは、モコターンを助けよう。まずは、宴を始める。モコターンの全ての民は、この地で休み、肉を食うが良い」
と……。
僕達は、安心して、膝から崩れ落ちた。
やっと、助かるんだ!
そう思っていると……。
続々と、家畜の肉が運び込まれてきた!
大きな牛、肥えた豚、丸々とした鳥!
モコターンが一人丸ごと入るくらいの大鍋に並々と油が注がれて、その油で肉や野菜が煮込まれる!
煮込まれた肉や野菜は、茶色の穀物を衣のように纏っていて、サクサクとしている。確か、揚げ物?とか言うんだっけ?
その他にも、家畜の丸焼きや、山のように盛られたパン、森の甘い果実がずらりと並ぶ。
大鍋は、万を超えるほどもあり、そこら中で肉が焼かれて、スープと酒が配られた。
温かいスープと肉は、戦士だけでなく、女子供や老人の分まであった。
普通、歓待するならば、戦士達の分だけだ。強く勇敢な戦士こそが、多く食べるべきだから。飢えて死ぬのは女や老人から。その次が子供だ。
女子供と老人は、余ったものを食べる。それが普通だ。
だが、ワルバッド王の慈悲は、天にまで届くほど。
女子供と老人にも、煮えたばかりの温かなスープを与えて、「菓子」とかいう甘いものまで配られた。
近頃は食べ物が少なく、皆飢えていた。
疫病で穢れた土地は多く、その地の草を食んで育った家畜もまた、穢れるから……、僕の部族も多くの家畜を処分することになった。
そんな状況では、部族でも重要な立場にあり、女でありながらも上級の戦士であった僕も、食事はあまりしていなかったくらいだ。
だからか、女子供は、涙を流して喜んだ。ワルバッド王に平伏し、感謝の言葉を述べた。
そして凄いのは、やはり、ワルバッド王の力!
八万ものモコターン全てに、家畜の肉を腹一杯に与えた!
これは、凄まじいことだ。
モコターンは騎馬と共に生きる部族。街人達のように、食料を蓄えるということはあまりできない。
それでも、万単位の人々に、一度にご馳走を振る舞うことは難しいと、それくらいは僕達でも分かる。
ワルバッド王は凄まじかった。
そうして宴が続き……、夜。
夜になっても、ワルバッド王の街は、闇に包まれることがない。
街灯、などという光る柱が沢山あり、夜中でも明るい。
そして次の日の朝、モコターンの天幕の前には……。
「な、何だ、これはっ?!」
「ド、ドラゴン……というやつか?」
「大きい!これは、獣か?モンスターか?!」
「モンスターにしても、こんなにも大きいものは見たことがない!」
とてもとても大きい、魚のような、獣のような存在が横たわっていた……。
「ワルバッド王!これは一体?」
兄、イカライが、巨獣の前に立つワルバッド王に問いかける。
すると、王は答えた。
「これは、『クジラ』という。海に住む、この世で最も大きな獣だ」
尤も、ドラゴンなどのもっと大きなモンスターもこの世のどこかには居るらしいからアレだが……、いやでもドラゴンは喋るから食うのはなあ……。などとブツブツ言いながら、巨獣の体を手で叩く王。
見れば、獣は、辛うじてだがまだ生きている。
僕達の頭よりも大きな瞳がこちらを覗き込んでいる……、白亜の巨獣。
「このクジラを、これから解体して、モコターンの民に与えよう。……モコターンでは、大きく立派な獣を屠殺して振る舞うのが、『寛大な王』と言うものなんだろう?」
……なんだ、この、男は?
凄い、凄過ぎる!
街人なのに、モコターンを見下していない!野蛮な馬賊だと、下に見ていない!
それでいて、モコターンのやり方で、モコターン以上の力を見せてくる!
僕達のことを理解した上で、従えに来た!
……勝てない、絶対に!
先先代の強き王も確かに尊敬すべき存在だった。強いと言うことは、ただそれだけで素晴らしいから。
だが、今代、ジャーク王!これは、強いだけでなく……、怖い!そう、怖いのだ!
街人達は、人間は、誰もが僕達を蔑む。
小さく、弱く、頭の悪いハーフリング(半人)だと、そう言って罵る。
先先代のワルバッド王もそうだった。まあ、戦場で敵を罵るのは当たり前のこと故、誰も気にしなかったと伝え聞いているけれど。
けど……、ジャーク王。彼は、僕達のことを、過小にも過大にも見ていない!
僕達のやり方を理解した上で、僕達を従えて、自分の力の一部としようとしているんだ!
『支配者』としての器が、他のどの王とも違う!
僕は、僕達は、自然と平伏の構えを取っていた。
本能的に、僕達全員が、「敗北」を悟ったからだ。
言い訳のしようがない。
僕達は、ジャーク王に従わされた!
そして……、このお方になら、「王」を任せられると、確信した!!!
「「「「ジャーク王!我らモコターン、御身に忠誠を誓います!!!」」」」
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