第9話 将軍、回顧して曰く

「おらあああ!!!」


「甘いっ!」


「ぎょへえええ?!!!」


「っ、上手いな!」


大袈裟に吹っ飛ばされるフリをして、剣先で掬い上げた砂で目眩しか!


「いやァ、なんのことやら……っとぉ!」


上段に構えて……、股間に蹴り!


「ぬん!」


股下の筋肉を膨張させて受ける!


「ウヒョー!エロい太もも!サイッコー!」


そう言いながらも、雑に剣を振り下ろしてくるので、それは悪手だろうと思いつつ弾く。


弾かれた剣は勢いよく飛んでいき……、旦那様お得意の『闇魔法』で、空間を捻じ曲げられた黒い渦に吸い込まれ……。


「ッ!」


……私の頭の後ろに作られた渦から、勢いを維持したまま飛んできた。


「えぇ……?それも避けんの?タツジンはこれだから困る」


相変わらずの、「奇剣」だな。


一撃一撃が全て「奇襲」の、弱者の剣法だ。


才能がない人間の、才能を補う為の、初見殺しの剣だ。


「主人よ、悪くない戦いだった。だがやはり、地力が足りていないな」


「だから訓練してるんだョ……♡」


「足りん。戦士として身を立てるならば、この倍は訓練をせねばなるまい」


「いやいや、俺ァ自分の身を守れたら良いさ。敵を殺すのはお前の役目だ、デストラン」


「ふふふ……、そうだな」


剣は姑息で気持ちが悪いのだが……、このお方は、好きだな。


正直なところ、愛している。


「うお、メスゴリの訓練後の腋やっべ♡」


この、私の腋の臭いを嗅ぎながら、私の尻を撫でてくる男が、私は好きなのだ。


そも、私に発情できる男が稀だからな。


今までは男娼を相手にしてきたが……、生っ白い肌をした男娼共は、私の筋肉と顔を見ると悲鳴を上げ、一物は萎んで、事ができないで終わる。


仮に勃っても、大きさがな……。


しかし、主人は良いぞ?


一物は立派で、長持ちで。身体も頑丈で体力がある。私の血の滾りを鎮められるほどにな。


顔も整っていて好みだし、何より、私を相手にしてもギンギンに発情してくれる。


貴族なのも良い。


成り上がり者とは言うが、それでも辺境伯の名は大きい。


先代の豚野郎はまだしも、先先代のキョアーク「外征卿」など、我々武人達の間では語り草だった……。


先先代の新大陸遠征の功によって、男爵から辺境伯にまでのし上がったのがワルバッドという家門だからな。


その名誉あるキョアーク殿の孫に仕えるのであれば、それもまた大きな名誉だ。


しかも、「将軍」……、全軍の指導者だと?


この上ない、この上ない名誉だぞこれは。


今後は、ワルバッド辺境伯軍の精強さや作戦の素晴らしさが、全て私の名誉となる。


キョアーク殿と同じく、子供の寝物語で謳われるような英雄になるのだ、この私が!


信じられるか?私がだぞ?


ゲスな父親!賭け事のタネ銭にするために、優しかった母のドレスすら売り払ったゴミクズ!


日々を酒と賭け事で浪費し、何も為さずにスラムのクズとして死んだ、あの父親のような!そんなゲスにならぬように、私は心身を鍛え上げた!


そして、証明するのだ!あのゲスの血ではなく、私は私の才能と力のみで評価され、英雄になるのだと!


……ところが、この世は、私が思ったよりもクズが多い。


どこに行っても、こう言われるのだ。「女だから」、と!


手っ取り早く、その地の軍の騎士団長を叩きのめしても、「その力は正義ではない」だの何だのとはぐらかし、誤魔化して、私を栄誉ある立場に立たせない!


何が、「正義」だ!何が、「勇気」だ!


力こそ全てだ!戦場で首を落とされながら正義を語ったとして、敵軍は味方を殺すのをやめてくれるのか?自分達の街を焼き、女を犯し、金品を奪うのをやめてくれるのか?!


違うだろうが!まず、力だ!力がなくては、守ることも奪うこともできやしない!!!


……その点、主人は「良い」。


わかっている、全てを。


力がなくては、何も選べないと言うことを。


平時では金食い虫の軍を保持して、力を常に側に置く意味を。


そして、この世で最も力ある存在である私を、将軍に据えた!


私の力を分かってくれる、ただ一人の理解者だ!


「んお"っ……♡主人よ、それ以上はダメだ、貴様に抱いて欲しくなってしまう」


「じゃあ抱かせろよ、丁度屋敷の呪陣を改良したところなんだ。ぶっ飛ぶくらいに気持ちよくなれるぜェ〜?」


「しかし、こんな昼間から……」


「良いんだよ!やりたい時にやりたいことをやれば!格式、しきたり、どれも関係ねえ!俺が正義だ!」


「ふっ……、仕方がないな。言っておくが私は、最近は領地の見回りで貴方の側を離れる事が多く、ムラついている。じっくり、相手してもらうことになるぞ……♡」




「……ん、ああ。眠っていたのか」


まさか、気をやり過ぎて、気絶させられたのか?


戦場で気を失う程の攻撃を受けたことは、ここ最近ではほぼないのだが、まさか褥で失神させられるとはな。


……この私を倒せるのは、主人だけということか?


ふふっ、それは……、良いな。実にいい。


私は、男女の機微など理解せんが……、恐らくはこれが、「愛おしい」という感情なのだろう。


快楽だけではなく、私に全てを与えてくれる主人。


「好きだ……♡」


「俺もだよ、デスちゃん!」


いつのまにか隣にいた主人に抱きしめられる。


……なるほど。


弱者共が言う、「守りたいもの」とは、このようなものを指すのだな。


守りたいものを守るためなら、何をしてもいいんだろう?正義のためなら、不条理も正当化されるのだろう?


ならば私は、全てを殺して、主人に捧げようじゃないか……。


主人の正義の名の下に、な。

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