第24話 エリスの一日②
※エリス視点
私たちがクシャーン城にもどり、ひと月ほどが過ぎた。南方にいち早い夏がそこまで来ようとしている。
クシャーン城に新体制がひかれ、それがうまく回ろうとしている。
レオン様は公明正大で贅沢を好まない。
また兵士たちの信頼も厚い。
大森林で得られた獲物を兵士たちに気前よく分け与えている。
私には概ね順調に思えた。
その日、私はついにイザベラ様のもとを訪れることを決意し、実行に移すことにした。
朝食のあと、私は愛読書である「老騎士と庭師の少年」を胸にイザベラ様の私室を訪れた。
私はこんこんとイザベラ様の私室の扉をノックする。
人の気配はするので、イザベラ様が部屋にいるのは確実だ。
ごそこそ室内を蠢く音がする。
何をしているのだろうか?
私はしばらく待つ。
ゆっくりと百を数えた。
私はもう一度ノックをする。まだ室内で何かがうごめいている。
これは何かがおかしい。
もしかしてイザベラ様は白き審問会の暗殺者に襲われているのでは。
心配になった私は扉を開け、室内に入る。
そこにはイザベラ様と何故かレオン様がいた。
レオン様は何故か上半身裸で、イザベラ様は銀色の髪を振り乱しながら服のボタンをとめている。
服の隙間からイザベラ様の形の良い胸の谷間が見えた。
イザベラ様は慌てながら、服を整える。
二人は何をしていたのだろうか?
また無事で何よりだ。
「ど、どうしたのですか? エリスさん」
銀色の髪を撫でなおしながら、イザベラ様は私に尋ねた。
「その、これを描かれたのは一度様ですよね」
私は聖書ともいえる一冊の本をイザベラ様に差し出す。
レオン様は素早く服を着て、では軍議はまた後でと言い部屋から出て行った。
そうか、レオン様とイザベラ様は軍事会議を行われていたのか。
イザベラ様は客将であり、その豊富な知識で参謀としてレオン様に協力していた。
しかし軍事会議を裸で行う必要があるのだろうか。
まあそのことは横に置いておこう。
「私、この素晴らしい芸術に出会い救われたのです」
私は告白する。
私はこの本のお陰で薬物の誘惑から脱することができたのだ。
まだあの渇きと疼きはわずかに残るが、それでもかなり良くなって来ている。
イザベラ様は私の差し出した本を見て、大きく目を見開いた。
「まあこれはたしかに前に私が書いたものです。これを芸術といってもらえるとはこんなにうれしいことはないですわ」
イザベラ様は私が差し出した本を受け取ると愛おしいそうに撫でた。
「エリスさん、あなたがこれほど芸術に造詣が深いとは思ってもみませんでした」
優しくイザベラ様は言う。
それから私たちは芸術について語りあった。
イザベラ様は老人と少年の愛をテーマに物語を紡がれるこたが多い。
私はそれも素晴らしい題材だと思う。
「イザベラ様、年の離れた兄と弟との愛の物語は書かれないのですか?」
私は試しに訊いてみた。
それは私が読んでみたいと思っていた題材であった。
私の言葉にイザベラ様は大きく目を見開く。
「兄弟の禁断の愛ですか、それは素晴らしい題材ですね」
イザベラ様は机の上にある紙に羽ペンでなにやら書き連ねる。
「エリスさん、素晴らしい閃きをありがとうございます」
イザベラ様に礼を言われて、私は有頂天になった。
この時の私の言葉がきっかけでイザベラ様は名作「子爵家の兄弟」を書くのである。
イザベラ様と尊い時間をすごした私は城の食堂で昼食をとることにした。
この日のメニューはクシャーン城特製のウサギ肉のシチューであった。ウサギ肉は骨が多いがとても美味しいので私の好物であった。
ウサギ肉のシチューを食べている私の横に麦わら色の髪をした豊満な胸の女性が腰かける。
「こんにちはエリスさん」
ダリア嬢は私に可愛らしい笑みを向ける。
女の私から見てもダリア嬢は本当に可愛らしいと思う。
「こんにちはダリア嬢」
私は挨拶する。
それにしてもあらたまって何だろうか。
「エリスさん、同じアナイティスの名をもつものとして頼みがあるの」
小声で囁くようにダリア嬢は私に言う。
家門の持たないレオン様はアナイティスの姓を名乗ることを私たちに許された。
ダリア嬢、ヴィクト、そして私がアナイティスの姓を名乗っている。
私たちはレオン様と同じ辺境伯家の人間になったのだ。
血はつながらないが、私たちは同じアナイティス家一門となったのである。
特にダリア嬢はこれでレオン様の正式な妻としてクシャーン城の人間には認識されている。
「このクシャーンにはクラリスもシシリアもいません」
ダリア嬢は当たり前のことを言う。
クラリスもシシリアも王都にいるのだから、クシャーン城にいないのは当たり前だ。
「レオンの夜の相手をするのは主に私なのです」
ダリア嬢は言った。
レオン様の妻なのだから、それは当たり前ではないか。
ダリア嬢はシチューを食べる私にぐっと顔を寄せる。
よく見ると目の下に青いクマができている。
睡眠不足なのだろうか。
「イザベラ様がたまに手伝ってくれますが、間に合いません。そこでエリス、あなたに頼みがあるのです。あなたも私たちと同じようにレオンの相手をして欲しいのです」
それは思いもよらない頼みであった。
私のような元暗殺者がレオン様の愛を注いで頂いてもいいのだろうか。
「同じアナイティス家のものとして、頼みたいのです。レオンはああ見えて心を許したものにしか体を許しません」
ダリア嬢は私の耳元で囁く。
クシャーン城の街にも娼館はいくつかある。
ヴィクトやアラミスが連れ立って娼館に行っていたのを覚えている。
しかしレオン様は娼館にいくことはまったくなかった。
俺にはダリアがいるからとヴィクトに言っていたのを覚えている。
「分かりました、ダリア嬢」
私が承諾するとダリア嬢は満面の笑みをうかべた。
「今日はゆっくりねむれるわ」
とダリア嬢は言った。
その日の夜、私はレオン様のお部屋に忍び込んだ。
「どうしたのだいエリス」
レオン様は私に尋ねる。
私は夜伽に参りましたと伝える。
「それはいけない」
レオン様は私を部屋から出そうとする。
前にシシリアに聞いたことがある。
レオン様は言い訳を与えてあげるとそれに従うのだという。
私は自分の首に首輪をつける。その首輪には鎖がつけられている。
その鎖をレオン様に握らせる。
部屋から追い出そうとしていたレオン様はその鎖を握ると生唾を飲みこんだ。
レオン様に鎖を握られて、私の下腹部がじんじんと疼く。
レオン様がくいっと鎖をひっぱる。
私は引っ張られて、レオン様に抱きつく。
「私は犬です。犬にはしつけが必要です。レオン様は犬をしつけるのです」
私は犬の真似をして、レオン様の頰をなめる。
犬の真似をしていると頭がくらくらするほどの快感が走り抜ける。
これは前々からレオン様にして欲しいと妄想していたことだ。
「そうだね。エリスはしつけのなっていない悪い犬だ。さあしつけてやろう」
私は首輪をレオン様に引っ張られて、ベッドの上に寝かされた。
私はその日の夜、レオン様に思う存分にしつけられた。
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