第27話 ご褒美ください、志原田さん 4

「ふう、ごちそうさま」

「満足そうだね、湊くん」

「うん。思っていたよりずっと美味しいラーメンだった」


 そこまで伸びていなかったし、ラッキーだ。

 ごはんも進んだ、ラーメンライス、実に美味し。


「志原田さんは、それで足りるの?」

「そりゃねー。多分君が思ってるより満足感あるよ?」

「米がないのは僕辛いな……」

「ワタシもおにぎりくらいは食べるからね」


 今日はないだけ、と注釈を加えながら、志原田さんはお茶を口にした。

 僕もプシュッと炭酸飲料のボトルのふたを開けた。


「ふぃ~。美味い」

「うーん……どうしよっかなー」

「どうしたのさ、志原田さん」


 勢いよくジュースを飲み干す僕を見て、何故か志原田さんはジト目だ。

 どうにも志原田さんって、僕が食事をしているときにこういう顔している気がするんだよな。


 多分、僕の食べ方とかに気になる所があるのかな。

 これは、身嗜み的に注意報発生かな?


「あ、僕炭酸飲んだ後にゲップなんてしないからね?万が一するときにはちゃんと一目のつかない所でするし」

「うん、そういうのは大丈夫だよー。湊くん、食べ方汚くないし」

「ら、ラーメンをすすって食べるのは」

「それはむしろ普通でしょー」


 うぅ、だったらなんだろうな、気になるな。


「色々と説教しようと思っていたけれどね、助けてもらったから言うのはちょっとね~」

「いや、もうご指摘なら、この際ちゃんと言ってもらった方が……」

「えー。どうしよっかなー」

「そこをなんとか……ってなんで僕説教をお願いしているの?」

「ちぇ~バレた。とりあえずね、湊くんが一番気にすることじゃないから、大丈夫だよ」


 そう言って、志原田さんは、自身の髪をかき上げる。

 流れの癖のついたショートヘアはその動きに合わせて揺れた。


「今日はありがとうね、湊くん」

「感謝の言葉はもう貰ったよ。志原田さん」

「さっきはちょっと不貞腐れちゃったし。今度は心からの感謝」


 僕への感謝を言葉にする志原田さんは、なんだか嬉しそうだ。

 そういう感情を向けてくれるのは、ちょっとばかし誇らしい。


 僕以外には、基本冷たいわけだから。

 こうやって、楽しく会話できることは僕も嬉しいのだ。


「これからも、仲良くしてくれると嬉しいなー」

「そりゃ勿論、志原田さんさえ良ければね」

「それでー、一つお願いがあるんだけど」


 そこで、志原田さんは一度言葉を切る。


「本当に、糸美川さんじゃなくて、ワタシと仲良くしない?」


 真剣な表情で、志原田さんは僕へと提案した。

 

「あ、勿論。糸美川さんと友達やめろー、とかじゃないよ?でも、ワタシの方を優先して欲しいかな~なんて」

「ごめん、それは無理かな」

「それは、なんで~?」


 けれど、僕はそのお願いを断った。

 それは、僕が糸美川さんを裏切られないというだけではない。


「出来れば、二人と一緒に仲良くしたいから」

「我儘だね、湊くん。でも、それは、無理だよ」

「それは、どうして?」

「……ナイショ」


 僕が問いかければ、今までとは違って、ほんの少しだけ考え込んでくれて。

 それでも、彼女は糸美川さんを避ける理由については、答えてくれなかった。


「でも、そうだな~。糸美川さんが君を優先しないなら、ワタシがもらっちゃうけれど?」


 彼女が触れられたくないことに振れただろうに、彼女は穏やかに、僕の事を心配してくれている。

 うん、やっぱりさ、僕、志原田さんのこと、嫌いじゃない。


 いいや、むしろ好感が持てるかな。

 だから、お節介かもしれないけれど。


 糸美川さんのためだけでなく、志原田さんのためにも。

 僕の問題なんて、パパッと解決してしまうことにしよう。


「あのさ、志原田さん、一つお願いして良いかな」

「なに~糸美川さんと仲良くしろは、無理だからね。むしろ湊くんのこと嫌いになるから」

「それは、嫌だなー。僕、志原田さんに好かれたいよ」

「うわ~恥ずかしいこと言ってる。自分はワタシに対して、好きじゃなくて嫌いになりたくないって言ってる癖に~」


 志原田さんは、こちらを揶揄う素振りを見せながらも、ちょっと照れている。

 うん、悔しいけれど、志原田さんも間違いなく"美少女"だ。


 僕は"美少女"な男子と付き合いたいとかそういう思いは無しに、仲良くなりたいとそう思えるから。


「僕が、今の状況を変えることが出来たら、ご褒美が欲しいんだ」

「ご褒美……って。それに、今の状況ってなに?」

「僕が、クラスメイトに距離を取られていること。そのせいで、糸美川さんが困っていること」

「ワタシとしては~。糸美川さんが湊くんを選べばいいだけだと思うケド?」

「それじゃ、駄目なんだ。僕達の達成したい目標から遠ざかっちゃうから」

「目標?」


 僕は、ぎゅっと拳を握って自信満々に志原田さんに突き出した。


「そう、目標。僕達には目指すことがある。志原田さんにも、あるでしょ?したいこと」

「それは……まあね」

「なら、問題が解決したら、ご褒美として志原田さんの目標を教えて欲しい。僕だけじゃなく、糸美川さんにも」

「それってー。ご褒美になるの?」


 志原田さんは、訝し気に僕に問いかけるけれど、僕は笑顔で返答した。


「当然。普通は恥ずかしくて聞けないでしょ、そんなこと」

「それも、そっかー」

「というわけで、ご褒美、お願いしても良いかな?」


 ぐいっと、再度拳を志原田さんに突き出して。


「しょうがないなー。欲しがりさんのお願い、聞いたげるよ。湊くん」


 控えめに拳を合わせて、志原田さんは破顔した。

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