第20話 志原田さんってどんな人?

「それで、さっきの相手と何かあったの?糸美川さん。勿論、話したくないなら話さなくてよいけど」

「そうですね、別に隠すようなことではありませんので、聞いていただけますか」

 

 ここまでのことについて、話したいのならば聞くよと促すと、糸美川さんはおずおずと、語り始めた。


 "彼女"……うん、彼女でいいだろう、名前は志原田優というらしい。

 僕達と同じ今年私立能美高校へと入学した新入生のようだ。


「初対面で、私と同じく、女性の恰好をされている男性として、挨拶をさせていただきました」

「割と普通のコンタクトだね」

「すぐさま、『ワタシの次に可愛いね』と言われました」


 うわぁい、好戦的だ。

 とはいえ、基本的に謙虚で控えめな応対をしている糸美川さんは、特にその言葉に噛みつくこともなく、流したらしい。


 本来なら、それで終わり。

 だというのに、向こうから何故か絡んでくるらしい。


 糸美川さんが園芸部への入部を決めると、対抗するかのように彼女も入部したとのことだった。


「一体何が気に食わないのか、何がしたいのか。ハッキリ言っていただければいいんですけれど」

「それは、困ったね」

「本当にそうなんです」


 糸美川さんは、人騎士話すと嘆息した。

 今の話だけ聞いていると、何らかの意図があるのは間違いない様だけど、それが何かを考えるすべは僕らにはなさそうだ。


 うーん、何か手はないかな……あ、そうだ。


「あのさ、志原田さんの友人に話を聞くのはどうかな?」

「残念ながら、無理ですね」


 僕の提案に、糸美川さんは頭を振った。


「彼女、ああ見えて孤立している……というより好んで一人でいるようなんです」

「おおう、孤高のギャル」

「なんですか、それ。というより湊君、彼女の事ギャルと認識しているんですか?」


 僕が思わず漏らした言葉に、ジト目をくらってしまった。

 いやまぁ、ふんわりゆるやかダウナー系ギャルとは思いました、はい。


「……湊君、意外とそう言うの好みなんじゃないですか?」


 糸美川さん、心の声を読まないでよ。


「大丈夫、さっきも言ったでしょ。現実にはいないから、あくまで空想上の存在としての分類だから。そして脱オタする僕には関わりのない属性だよ」

「強弁されると少し怪しいですが……さておき、これまでは、私に時々ちょっかいをかけてくるくらいだったんです。ですので、彼女がどういう人物なのかはとんと分からず」

「そうか……ってあれ?」


 結局彼女の真実に近づくことは出来ない、そういう結論に至ろうとしたところで、はたと気づく。


「じゃあなんで、志原田さん僕に興味示しているの?」

「それが分かれば、苦労はしません」


 糸美川さんは再度、深いため息をついた。


 

 そろそろ昼休みも終わるということで、教室へと戻ることにした。


「とりあえず、屋上のスペアキーのことを先生に報告しておきましょうか」


 にこりと笑いながらも、黒いオーラを放つ糸美川さん。

 志原田さんも、怒らせちゃいけない人を怒らせている気がするなぁ。


 糸美川さんの控えめな態度を甘く見て、攻めているようにも思える。

 本当の姿を見れば、諦めると思うんだけれども。 


「それじゃ、職員室で鍵の返却だね」

「あ、湊君。私一人で行くから結構ですよ。先生へ伝えることを踏まえると、時間もかかるでしょうし」

「え、そんな気にしなくても」

「いいえ、湊くん、次の授業準備できていないでしょう?ようやく通常授業に復帰なんですから。しっかり備えてください」


 笑顔で、糸美川さんは僕に直接教室に向かうよう促した。

 うん、ここはありがたく受けることにしよう。


 ……僕に興味がある、か。

 僕は糸美川さんと一旦分かれて、廊下を歩きながら、志原田さんの事に思考を巡らしていた。


 好んで一人でいるらしく、執着しているのは糸美川さんだけということであれば。興味があるのは僕そのものではなくて、"糸美川さんと仲良くしている僕"に興味があるということかな?


 うん、この考えはしっくりくるな。

 概ね間違ってはいなさそうだ。


 となると結局は、何故志原田さんは糸美川さんに対してあのような態度をとるのかということになるわけで。

 ううん、思考の堂々巡りだな。


「糸美川さんて、なんで彼と一緒に居るのかな」

「そうだね、なんだか怪しい関係なんじゃない?」

「ちょっと、しー!」


 教室へ入ると。女子生徒の会話が聞こえた。

 僕に聞かれてまずいと思ったのか、慌てて会話を打ち切って、別の話題で会話を始めた。


 やっぱり、変に思われているのかな、僕。

 登校初日から休んだからなのか。それとも僕が、オタクだから、なのかな。


 暗い考えが僕の中を巡り、慌てて頭を振る。

 そのまま聞こえないふりをして、僕は席へと着き、次の授業準備をすることにした。


『勝手に決めつけられるのが、苦手なんだ』


 糸美川さんに語った、僕自身の言葉を思い出す。


 うん、そうだな。

 次に志原田さんと会話する機会があったなら。


 糸美川さんが嫌がらない程度に、話をしてみることにしよう。

 彼女の話を、聞いてみよう。

 授業に備えながら。僕は心の中で、そう決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る