第18話 志原田さんはオタクに優しい? 1
……僕に興味がある、かぁ。
それが本当の事なら、小躍りするくらい嬉しいんだけどな。
志原田さんと呼ばれた女子生徒は、そう思えるくらいには魅力的だ。
だがしかし、その表情はこちらからは本気でそう思っているようには思えない。
明らかに僕を値踏みするような視線を向けているし、何より声に力がない。
本当はこちらに興味がないのが伝わってくるようだ。
「そんな風に見つめられると、照れちゃうな~。もしかして、君もワタシに興味津々?」
んなわけないでしょ。
変な状況で僕の方も彼女の事をじろじろと見ていたようだ。
……いかんいかん。
さっき糸美川さんにレクチャーされたばかりじゃないか。
女性の事をあまり見つめ続けてはいけません、と。
ということですぐさま訂正。
「すみません。急に声をかけられたんで、一体どうしたのかと思いました」
「別に謝らなくてもいいのに~」
「いえ、そういうわけにはいかないですよ。じっと注目してしまってごめんなさい」
「もう、堅苦しいな~。もっと気楽に行こうよ~。さっきまでみたいにさ」
さっきまでみたいに、か。
……どこまで話聞かれていたんだろ。
というか屋上の扉が開く気配やは音はしなかったし。
「あ、もしかして、盗み聞きしていたこと怒ってる?それはごめんね。でも二人の方が後から来たんだよ?」
「え?いやだって扉に鍵掛かっていたけれど……それに、姿は見えなかったし」
「ワタシ、予備鍵持ってるから。それで、外側から鍵掛けたの。後は、ほら」
志原田さんは屋上の扉を指で指し示した。
僕はそれにつられるように視線を向ける。
「入口の所には裏側あるからね~。そこでゆっくり日向ぼっこしてたんだ~」
成程、陰に隠れていたから気づかなかったわけか。
「志原田さん、よろしいですか?」
「ん~。良くないかな~」
「……何故、貴方が予備鍵を?」
僕がひとり、彼女の存在に気づかなかったことに頷いていると、糸美川さんが厳しい声で、志原田さんに問いかけた。
志原田さんはそれには取り合わないけれど、糸美川さんはそれを許さず、更に問い詰める。
言われてみれば、許可を取って借りる鍵を何故持っているんだ?
「え~ひみつ。きちんとこの後返しま~す」
「そうした方がよろしいでしょうね。私も先生へ報告しておきますよ」
「え~告げ口?」
「どうとでも受け取ってください。それではこれで私達は失礼します。行きましょう、湊君」
はぐらかす志原田さんを、糸美川さんはチクリと牽制する。
丁寧な口調だけれど、今まで聞いたことのない声色だ。
志原田さんの方も、緩く喋っているけれど、どこか挑発的な雰囲気を隠さない。
一体この二人に何があるというのだろう。
まあこの場はさっさと立ち去れば良いか。
糸美川さんも、話を打ち切ったことだし、今回はこれで終わりかな。
「そっか、それじゃ湊君は借りていくね」
「は?」
「君にさ、色々と聞いてみたいことがあるんだよね~」
しかし、志原田さんは屋上を後にしようとする僕だけを引き留めた。
それに対して、糸美川さんは威を発するが、志原田さんには通用してい無い様だ。
「私達は、これで失礼するとお伝えしたはずですが」
「うん。だから失礼した後に湊君に付き合ってもらおうとしてるだけだけど?」
「私と湊君は一緒に行動しているわけですが」
「そうだね~。ここからはワタシの番ね」
「……ふふっ。面白いことを言いますね」
「えへへ~。大したことは言っていないけどね」
バチバチと、二人の美少女の間に火花が散っているかのようだ。
糸美川さんのこんな姿を見るのは初めてで、戸惑ってしまう。
あの告白していた先輩メガネへの対応以上に激しさを感じる。
そして、その苛烈さは糸美川さんだけじゃない。
対峙している志原田さんも初対面ではあるけれど、何か糸美川さんに含むところがある様子だ。
一体二人の間に何があったというのだろうか。
「誰にも興味無さそうにしていた貴方が、一人に執着するなんて、どういうつもりですか、志原田さん」
「別に糸美川さんには関係ないよね。誰にでも良い顔している貴方には分からないかもだけど」
「うふふ」
「えへへ~」
いや、怖いって。
一触即発、このままでは二人は殴り合いでも始めそうだ。
ど、どうにかして暴力沙汰は避けないと……!
「あ、あの!志原田さん!」
「え~なになに、君から声をかけてくれるなんて嬉しいな~」
とりあえず、志原田さんの方に声をかけた。
彼女はこちらへ振り向き、糸美川さんはこちらへ厳しい視線を……いや、違うからね、糸美川さん。
「ワタシとお話してくれるの?」
「いや、一つ言いたいことがあって」
彼女とは会話をしない、と伝えたところで引き下がるだろうし、そうなれば糸美川さんが更にヒートアップしてしまうだろう。
となれば、上手い事はぐらかすしかない、僕なら、出来ると良いなと思います!
「あのさ、志原田さん」
「うんうん。なにかな?」
「オタクに優しいギャルはね、現実に居ないんだ」
「「……はい?」」
僕のトンデモ発言に、志原田さんだけでなく、二人は言葉を失っているようだ。
ふっふっふっ、自爆覚悟の話題逸らし。
チョイスしたワードはオタクそのもので、自傷ダメージは避けられないけれど、致し方なし。
これで、今のうちにササっとここを後にしよう。
「ふーん。そっかそっか。君はオタクに優しいギャルには興味がないわけだね~」
しかし、志原田さんは、一瞬のフリーズからすぐさま復帰すると、口の端を上げて、僕の方へと距離を詰めてきた。
「それなら大丈夫」
「だ、大丈夫って何がかな、志原田さん」
異様な雰囲気に、僕は思わず返事を返してしまった。
それを聞いて、彼女は嬉しそうに僕の前で立ち止まる。
「ワタシ、オタクに優しい"男の娘"だから」
「……はい?」
今度はボクが言葉を失う番だった。
"男の娘"?つまり、目の前の美少女は、糸美川さんと同じ、男子?
「だからさ、仲良くしようよ、湊くん?」
志原田さんは、僕を試すように、ニッと笑う。
いや、僕オタクじゃないし、脱オタ志望だからね。
僕は糸美川さん相手なら発せられるそんな言葉さえ、出すことが出来ない状態だ。
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