第6話 オタク男子と美少女??? 1

 校舎へと戻った僕たちは、一度職員室へ訪れた。

 糸美川さんが先生と話しをして、鍵を借りている。


 園芸部だけが、こうして屋上への鍵を借りることが出来るということなのかな。

 こうやって、関係ない生徒は立ち入れない様に管理しているのだろう。


「お待たせしました、湊君」

「こちらこそ、屋上案内お願いします」

「もう、そんなにかしこまらないで良いですよ、湊君」

「そ、そうかな?」

「ええ、もう少し気楽にしてくださいね」


 いやー、わざわざ放課後の時間を使って、学校案内をしてくれる糸美川さんには感謝してもしきれないので、こういう態度にもなってしまうのだ。


 僕の返答にも、笑顔を絶やさないし。


「それでは、早速向かいましょう」


 僕を先導するように、糸美川さんは廊下を歩きだす。

 その背を追いながらも、僕はついつい彼女の髪へと目を向けてしまう。


 ただ歩いているだけだというのに、それはサラサラと流れている。


「湊君?どうかしましたか?」

「あ、ごめん。なんでもないから、大丈夫です」

「もしかして、お疲れですか?明日にしましょうか」


 ぼーっと彼女の髪を見続けて、僕は歩く速度が遅くなっていたらしい。


 僕が付いてきていない気配を感じたのだろう、糸美川さんは振り向いて、こちらの体調が悪いのではないかと気を使ってくれた。


 なんだろう、ほんのちょっとしか会話していないというのに、滅茶苦茶意識していないか、僕。


「だ。大丈夫。糸美川さんにそんなにお世話になるわけにはいかないよ。案内よろしくね」

「そうですか?無理はなさらないでくださいね」


 慌てて問題ないと伝えると、糸美川さんはくるりと回って、再度歩きだした。

 僕も今度はその背にしっかりとついていく。


「病み上がりが一番危ないと言いますから、体調には十分注意してくださいね、湊君」

「心配してくれてありがとう、糸美川さん。気を付けるよ」


 歩きながら、再度僕の事を心配してくれる糸美川さん。

 その厚意に感謝しつつも僕は、一つの事を考えていた。


 なんていうか、僕、かなり脱オタク、達成していないか?

 ここまでの会話、我ながら満点だと思うんだけど!


 こうやって、糸美川さんと交流を続けていって、ゆくゆくは――――


「糸美川君!」

「うわっ!?」


 ドンッ!


 妄想を遮ったのは、一人の男子生徒の声。

 彼は、僕に接触をして抜き去り、糸美川さんの進行方向をふさぐように、立っていた。


「糸美川君。聞いて欲しいことがあるんだ!」


 僕達の前に立つ彼は、開口一番、そう言った。

 いや、正確には追い抜く際にも声はかけていたけれど。


 というか、彼女の後ろにいる僕の事は、目に入っていないらしい。

 ぶつかったことに関して、何も言わないし。


「お話しすることは、ありませんが」


 僕の位置からでは、彼女の表情はうかがえない。

 それでも糸美川さんの声が強張るのを感じて、僕も少し身構えた。


「大丈夫だよ、糸美川君。こちらの話を聞いてくれるだけでいいんだ」

「お断りします。今、忙しいですし」

「何、すぐに済むさ、それでね糸美川君」


 糸美川さんは冷たい声で拒絶したけれど、目の前の男はそれを意にも介さず話し続ける。


「俺と、付き合って欲しい」


 糸美川さんが遮る隙も与えず、男はそう口にした。

 いやはや、ここには僕もいるというのに、お構いなしとは吃驚だ。


 驚きつつも男に視線を向けたけれど、こちらに気づく様子はない。

 どうやら本気で僕のことは目に入ってないらしい。


「あの、先日もはっきり伝えたはずです。貴方と付き合うことなんて出来ないと」


 そんな告白を糸美川さんはバッサリと切り捨てた。

 

 秒殺じゃん。

 ていうか先日断ったってことはだ、一度目の告白、入学してから一週間以内で行ったってこと?


 声をかけるのも早すぎるし、かけなすのも早すぎる。


 この短い期間で2回告白をする積極性は結構すごいのかもしれないけれど。明らかに強めに拒否されてるのに、押し通そうとするのは駄目だよなぁ。


「いや。ま、待ってくれ」

「ごめんなさい。今からクラスメイトを屋上へ案内するころなんです。失礼させていただきますね」


 男は食い下がろうとしたけれど、糸美川さんは話は終わりと切り上げた。

 そして、ここでようやく男は僕の存在に気づいたらしい。

 

 ゆっくりと糸美川さんを超えて、視線が僕へと向けられた。


 目ぇ怖っ!


 物凄い睨まれてしまった。

 あのですね、大丈夫ですよ、ただのクラスメイトですから。


 とはいえね、断られた以上はですね、さっさと帰っていただけませんかね。

 僕の心の声も空しく、男は立ち去らなかった。


 そして視線を糸美川さんへと戻す。


「分かった。それじゃあ糸美川くん。俺と友人になってくれないか?」


 糸美川さんへと視線を戻し、今度は交際ではなく、友情を育もうとでもいうのか、そんなことを提案した。


 いや、まだ諦めないんですか……


「お断りします。貴方と友人になれるとは思えません」


 しかし、そんな言葉も再び、糸美川さんはバッサリと切り捨てた。

 「なりたいとも思いませんし」と小さく付け加えて。


「いや、そんなことはない!俺と君はきっと友人になれる」


 "なりたくない"ではなく、"なれない"と伝えてしまったのがまずかったのかもしれない。

 男は更にヒートアップし始めた。


 これは、流石に割って入って止めるべきだろうか、しかし下手に関わると余計に興奮してしまうかもしれないし。


 僕がどうすべきかを悩んでいる間に、何かを突き付けるかのように、男は糸美川さんを指さして、驚くべき内容を、解き放った。


「そう!なれるさ!だって俺は男で、君も"男"だ!友人になるなんて簡単じゃないか!」


 無駄に力強い声で、男はそう言った。


 ……は?

 おとこ?

 男?

 男性?

 MAN?


 ……糸美川さんが?

 何言ってんだよこいつ!?


 飛び出した無茶苦茶な言葉に、僕は混乱する。


「だから!糸美川くん!」


 興奮した男は、ついにその手を糸美川さんへと伸ばす。

 僕は、動けないでいた、けれど。


「うるせぇ」


 バシッ!

 伸ばされた手にを強烈に払うと同時に、糸美川さんは吐き捨てた。


「しつこいんだよ!てめぇみたいなみたいなやつと関わりたくねぇんだよ!こっちは!」


 今日、出会ってから、この耳で聞いた柔らかく優しげな声とは全く違う、鋭い怒気が、僕にも突き刺さるようだった。

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