通過点
「おい、その包みを見せてみろ!」
乱暴に登の手から奪い取り、無遠慮に風呂敷を剥いていく。
「あっ、あっ、破らんといてくださいよ!」
慌てた声で制止をかけながらも、登はあっさり手を離して小包を二人に差し出した。
巡査どもが、制止を無視して息巻き、包みの下から出てきた小さな桐箱を勢い良く開く。中から現れた一通の文を、やはり乱暴な手つきで広げて目を通す。
「まさか、何かの密書じゃないだろうな!」
登は「あああ」と表面上慌てた声を上げながらも、冷静に巡査どもの顔色を眺めていた。
――会津様の名を出しただけで、警邏担当のような下っ端巡査がここまで慌てるとは。会津と新選組は切っても切れない間柄だ。だからこそ、新政府側が土方の噂を相当警戒しているらしいことが、手に取るように伝わった。
しかし、登がそんなことを考えた直後。
「……何だこれは……」
巡査二人は揃いも揃って、肩透かしを食らったように呆けた顔をした。
当然だ。文の内容は、何ということもない。登が相馬の家で筆を借りて適当に書いた、遠い親戚に金を無心するだけのものなのだから。
「あのぉ」登は恐る恐る、窺うように巡査どもに上目を向けた。「うちが中見るわけにもいかんので、アレなんやけど。場所、どの辺かわかります?」
先とは打って変わり、巡査どもは小間使いにされている登を不憫にでも思ったか、広げた文を丁寧に包みなおし、改めて小箱の中に納めた。
「無礼をしたな」
差し出されたそれを受け取り、登がへこりと頭を下げると、二人はばつ悪そうに互いの視線を交わし合う。
「会津の隠居がいる場所といえば、小石川じゃなかったか」
「ああ、そう聞いている」
そうしてぽつりと、登が最も欲していた情報を与えてくれた。
「こいしかわ? どの辺ですやろ。どっち向かって歩いてったらええですか?」
そうか小石川か。内心でうなずきながら、登はあくまで知らないふうを装って問いを重ねた。そうしてああだこうだと道順を説明してくれる二人に首を振りながら、ゆるりと口元をほころばせる。
「なるほど、ほんま助かりました! どうもありがとうございます」
「もう迷うなよ」
巡査たちはしっしと手を払いつつも、どこか親しみのこもったような苦笑いで登を見送った。それに丁寧に頭を下げ、登は皇居に背を向けて歩き出す。
登はせせこましいような歩き方は変えず、ただ浮かべていた笑みを神妙にひそめた。
小石川。思いがけず、相馬の家のある滝野川からの道すがらにあった地域だ。まさか通りがかっていたその場所に会津様がいたとは思いもよらず、そっと息を吐く。高鳴りそうになる鼓動を抑え、気を引き締める。
会津様のおわす周辺なら、駿府の慶喜公の周囲がそうあるように、旧幕府軍に属していた同志がいる可能性は高い。巡査どもの態度を見れば、場合によって監視のような新政府側の人間もいるかもしれないが……あわよくば、顔見知りの誰かが見つかるかもしれない。
できればそうあることを願いながら、登は足を急がせた。
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