共闘

 無粋で無遠慮なくせに、何とも律儀な暴漢どもだな、と再三、息を吐く。


「新選組、中島登」


 苦笑混じりに名乗ってやれば、暴漢どもは気色ばんだ様子でさらに力を入れて身構えた。


「伊東先生の仇だ! 覚悟しろ!」


 後から刀を抜いたほうの男が、気合いを入れるように叫ぶ。


 伊東。わずか一瞬考えて、それからああ、伊東甲子太郎か、と納得した。


 伊東甲子太郎。一時期は新選組の参謀も務めた男だ。しかし当初こそ攘夷を目的として互いに手を結んでいた間柄だが、幕府先鋒であった新選組に対し、伊東は討幕すら辞さない過激な勤王派たる一面を持ち合わせていた。これにより伊東は、御陵衛士という、歴代天皇の墓を守衛する任を得て新選組を離脱し、新たに高台寺党を立ち上げた。挙げ句、局長であった近藤の暗殺まで企んだものだから、新選組に返り討ちにされ、死んだ。そういう男だった。


 薄暗がりの中、よくよく目を凝らしても、登は暴漢二人に見覚えはなかった。とはいえ二人の様子から考えれば、生前の伊東に世話になった者たちなのだろう。


「お前ら、知ってるかい」


 登はいつでも踏み込めるよう足を引き、姿勢を低め、居合でもするように左脇に刀を構える。が、左手は鞘にかけることなく添えるだけだ。いつもの通り、抜くつもりはない。


「最後の隊長ってことにはなってるが、伊東が死んだ時、この相馬はまだ入隊したばかりで右も左も知らないひよっこだったんだぜ」


 視界の隅、同じく刀を手に立ち上がろうとしていた相馬が、眉をひそめたのが見える。


 だが登は気に留めず、皮肉に口の端を上げて、「まあ、俺は仔細を何かも知った上で、高台寺党の奴らを斬ったけどな」言った途端、畳を蹴って暴漢どもに先手を仕掛けた。


 つもりだったのだが。


 踏み込もうとしたその時に、突然横から伸びてきた刀の鞘尻に足を取られ、あわや転びそうになって登はたたらを踏んだ。


「な、ん――っぶねぇな! 何すんだよ!」


 隣に文句を言うと、迎え撃つ間を外した暴漢どもも、つんのめったように体を揺らす。


 相馬だけは怪訝に眉根を寄せ、相変わらずの一切抑揚のない声で登に答えた。


「効率が悪い」


 せっかくの二対二を一人で踏み込むな、とでも言いたいのだろう。


「うるっせぇな。やっこさんらの目的は伊東の仇討ちであって、お前じゃなく俺が」

「責任を持つべきは、私だ」


 言い合っていると、一足先に我に返った暴漢どもが「何をごちゃごちゃと!」と踏み込んでくる気配がする。


 舌打ちをして体勢を整えかけたが、それより一瞬早く、相馬が登を押し退けるようにして裸足のまま庭へ跳び下りていった。勢い付けて暴漢を一人押し返したところで、そんな相馬に、横からもう一人の暴漢が斬りかかろうとするのが見える。


「どの口が言ってんだ!」


 登は文句を言い募りながら、やはり裸足のまま庭へ跳んだ。それこそ二対一に追い詰められかけた相馬をかばう形で、暴漢の前に身を滑り込ませ、迫った白刃を鞘で弾き返す。


「相馬、お前なあ、せっかく俺が二人とも引き付けてやったんだから、後詰めで不意を衝いて片方を倒すとか、何かそういうことしろよ!」

「いや。本気で中島一人で相手取ろうとしていただろう」

「そう見えたとしても、お前が手ぇ貸せば済んだだろうが」

「間を逃がせば、手を出すなと言われそうだった」


 背中合わせにそれぞれの敵と対峙しながら、会話を交わす。


「どうだかな。何にしたって、これが俺のやり方だ」

「妙に捨て鉢になる悪癖が、悪化している」

「別に。結局勝つんだから、いいんだよ」

「馬鹿らしい」

「相馬。その物言いは腹が立つから、改めろ」

「私が心配になるから、やめてくれ」

「その物言いは、何かむず痒くなるからやめろ」

「どうしろと言うんだ……」

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