酒と格ゲーとちょっと恋

@hisatsuna

親友だろうが

「クソ、あの野郎やろうマジで腹立はらたつ」

 テーブルにこぶしとす。衝撃しょうげきでビールグラスが左右さゆうれる。

「あー、もう。たおれちゃうたおれちゃう」

 右斜みぎななかいにすわおんながタバコ片手かたてにグラスのれをめるものだから、はいがひらっとビールにく。石原いしはらさとみを彷彿ほうふつとさせるくちびるられた光沢こうたくのある口紅くちべにひかってより一層いっそうはらつ。はらつままにおれはそのビールをあおる。ネクタイをゆるめ、スーツの上着うわぎをそのあたりてた。

「いいじゃないの、親友しんゆうだったんでしょ?」

 他人事たにんごとのように。だが、当然とうぜんだ。彼女かのじょはただの同僚どうりょうでしかない。しかも前職ぜんしょくの。おれのこのごととは関係かんけいない。だがいもあいまって余計よけいはらつ。このあとくらいだ。いや、ってるせいでへんなことをかんがえている。あたまって、思考しこうをリセットする。

 ビールをして、おれおんなゆびさす。

「いいかカナコ、親友しんゆうだろうがやっていいこととわるいことがある。でもこれはあきらかにわるいことだろ?」

阿曇あずみくんそういうとこあるよ。事情じじょういてないじゃないの、なんかふか理由りゆうがあるのかもよ」

 彼女かのじょ無責任むせきにんにそういながら自分じぶんのビールをし、すれちがいざまの店員てんいんつかまえて追加ついかのビールを二本にほん注文ちゅうもんする。店員てんいんあきらかに彼女かのじょ胸元むなもとうえからのぞいていた。うらやましい。ハエをはらうようにまえり、邪念じゃねんをはらう。ちがう、いまおれおこっているんだ。

 オマタセシマシタ〜、ととり二皿ふたさらたがいのまえかれる。仕方しかたがない、いかりは小休止しょうきゅうし。おまかせセット、六本ろっぽん一皿ひとさら千二百円せんにひゃくえんやすいんだかたかいんだかよくからないが、タレのかかったかわとり頬張ほおばる。まあ……美味うまい。カナコも美味おいしいね〜とべている。べているあいだたがいあまりはなさない雰囲気ふんいきなので、むかしおもかえしていた。


あついな〜」

「だな〜」

 渡辺わたなべと、舗装ほそうされたあぜみち並走へいそうしていた。ひとはまばらで、いまよりはまだすずしかった高校こうこうなつ自転車じてんしゃいで健康けんこうあせをかいていた。

「コンビニでアイスっていかん?」

「かまわんよ」

 どちらがったかおぼえていないが、二人ふたりはそのあしでコンビニへかった。自転車じてんしゃのマークのかれた駐輪場ちゅうりんじょうらしきところに二人ふたり自転車じてんしゃめて、コンビニへはいった。すずしい店内てんない下敷したじきをあおあつさを緩和かんわさせながらアイスケースから一番いちばんやすいアイスを取りとりだした。

「おまえそれきだな〜」

「うるせー、一番いちばんやすいんだよ」

「おまえんち貧乏びんぼうだもんな」

普通ふつうだわ、普通ふつう

 レジで会計かいけいませたあと、ひろ駐車場ちゅうしゃじょうながらおれたちは輪止わどめにすわってアイスを頬張ほおばった。ぼおっとしてると渡辺わたなべいてくる。

かえったらなにする?」

親父おやじ最新さいしんかくゲーったんだけど、かえるまであそんでいいって」

「マジ? やったじゃん」

「あんま得意とくいじゃないんだよね〜」

大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶたのしんだモンちだって」

 まあそれもそうか。そうっておれたちはアイスをえるまでどうでもいい会話かいわをしていた。この時期じき一番いちばんたのしかったかもしれない。だが格闘かくとうゲームにかんしてはおれ下手へたなわけではなく、こいつが上手じょうずすぎた。いまならかる。

「あ、いた! ワタルくんもいる!」

 自転車じてんしゃったリンがこちらをつける。いつもこのコンビニでたむろしてたから、リンはおれたちをさがすときかならずこのコンビニにた。リンは自転車じてんしゃからりて、渡辺わたなべきつく。

「おいおい、もうそんなとしじゃないだろ」

 渡辺わたなべはそうって、リンをがしてあたまをなでる。ああ、渡辺わたなべ、リンと仲良なかよくしてくれてありがとう。渡辺わたなべいもうとのやりとりをおもすと、せつなくなってくる。


「で、どうすんの?」

 カナコがはなしかけてきて、現実げんじつもどされる。とりさらからで、づいたらビールがまえにあった。ビールにくちをつけながら、スマホを電話でんわアプリをげる。

電話でんわする」

「でなかったんでしょ」

いまならるかもしれん!」

 そんなわけはないのだが、とりあえずかけてみる。すうコール、おかけになった電話でんわ電源でんげんはいっていないてき音声おんせいながれる。

「ほら」

 カナコをにらみつけると、嘲笑あざわらうようにタバコのけむりきかけられる。けむりはらったさきにあるなまめかしいみをてしまうとどうでもよくなる。下心したごころ満載まんさい自分じぶんにためいきをついて、スマホをひっくりかえしてテーブルのうえく。

「まさかいてかれるとはおもわなかったよ」

 渡辺わたなべ一人ひとりでアメリカにってしまった。格闘かくとうゲームの大会たいかい日本にほんトーナメントを勝ちかちぬき、世界せかいトーナメントへの挑戦権ちょうせんけんた。絶対ぜったい応援おうえんしにくから! とったのに、あいつは日程にっていすらおしえてくれなかった。ネットで大会たいかい検索けんさくしてつけたころにはもう観戦かんせんチケットはれていた。おれ仕方しかたなくオンライン観戦かんせんチケットを購入こうにゅうしたが、親友しんゆう勇姿ゆうし地球ちきゅう裏側うらがわからしか応援おうえんできないのがくやしかった。

「まあまあ、元気げんきだしなよ」

 カナコはそうっておれのビールを差しさしだす。ほらほら、とジェスチャーする。仕方しかたなくそのビールをす。ちいさい拍手はくしゅ。もう二杯にはいねがいしま〜す、とカナコはグラスをかかげた。おくにいた店員てんいんげてこえたことをアピールする。カナコは満面まんめんみをかえすことで、すべての無礼ぶれいゆるされる。

 おれはカバンからアイコスをした。アイコスにスティックをんで、起動きどう振動しんどう確認かくにんする。えるまで二十秒にじゅうびょうはなすのもだまっているのも微妙びみょう時間じかんだ。カナコはおれのアイコスをにぎつめてから、つめる。すこつめっている時間じかんがあった。

めたんじゃなかったっけ?」

 おれがアイコスをくちくわえると、カナコがいてきた。

「ああ、さっきまでな」

「ふーん」

 うそをついた。カナコは開封かいふうみで何本なんぼん消費しょうひされたタバコのはこていたから、見透みすかされているとはおもう。

 ふと、カナコがおれ右肩みぎかたさする。すこおどろいていてしまったが、カナコが微笑ほほえんでこちらをてくるのでかたした。大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶ、とって彼女かのじょおれなぐさめた。

 まえにビールがかれる。ラストオーダーになりまーす、と店員てんいんげられる。おたが見合みあい、なに注文ちゅうもんいことを確認かくにんするとげてもう結構けっこうだとアピールする。ありがとうございまーす、と店員てんいんっていった。

「あ、アイスたのめばよかった」

 カナコがメニューをながめながらった。

「コンビニのほうがやすい」

 おれはタバコのけむりはなからただよわせながらった。それをたカナコははなからてる! とわらった。おれ不敵ふてきみをかえしてやった。ドヤがおともうかもしれない。

おとうともいっつもおなことってたな~」

 そういながらカナコはかおかくすようにスマホをかかげ、なにかを調しらはじめた。しばらくの沈黙ちんもくのち、スマホのかげからこちらをる。

「⋯⋯で、このあとどうする? 明日あしたやすみだよね」

 カナコは上目遣うわめづかいでいてきた。


***


 あたまがガンガンする。うつせにたベッドからましてがろうとするとバランスをくずしてちてしまった。完全かんぜん二日酔ふつかよいだ。

「え、大丈夫だいじょうぶ!?」

 おおきなおとこえたせいか、カナコがはしってきたようだ。がりかえると、バスローブ姿すがたのカナコがそこにいて、びっくりする。

 まわりをるとあきらかにホテルだったが、ではないようだった。全体的ぜんたいてきにベージュを基調きちょうとした色合いろあいで、部屋へやあかるい。ビジネスホテルかもしれない。

 背後はいごを振りふりかえるとてつわくまどがあった。カーテンをける。

 飛行機ひこうき。そこは飛行機ひこうきならんでいた。

「どこ!?」

 安心あんしんしたカナコはかみかわかしに洗面台せんめんだいもどっていた。かがみしにこちらをて、ドライヤーのおとにかきされないようこえってこたえる。

羽田はねだだよー」

 は、羽田はねだ!?

「なんで羽田はねだ!?」

おぼえてないのー?」

 たあたりから記憶きおく曖昧あいまいだ。十三時じゅうさんじ便びんおれたちはロサンゼルスにかうらしい。とりあえずテーブルにおいてあるペットボトルのみずけ、一口ひとくちむ。なにがどうなってカナコと二人ふたりでロサンゼルスへくことになるんだろう? 必死ひっしになっておもそうとするが、居酒屋いざかやあとからの記憶きおくなにてこない。しばらくすると、着替きがわったカナコが洗面室せんめんしつからてきてパンフレットをす。

「ほら、はやくしないとあさごはんべれないよ」

 ゆびさしたさきには、朝食ちょうしょくバイキング十時じゅうじまでと記載きさいされている。時計とけいると九時くじぎようとしていた。おれあわててがり、身支度みじたくをした。

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