第8話 そして私は手札を伏せる

 まずは、冴ちゃんのイラストです。


 https://kakuyomu.jp/users/kurosirokaede/news/822139841869308500



 冴ちゃんは……最終的にはこのイラストよりもっとやつれてしまいます。



 そして冴ちゃんの最愛の人だった“あかりちゃん”


 https://kakuyomu.jp/users/kurosirokaede/news/822139841869353073



 冴ちゃんに向かって、少し無理して微笑んでいる感じです。


 二人とも痛いなあ……(:_;)


 では、本編をどうぞ! <m(__)m>



 ◇◇◇◇◇◇


『冴茶ソ』が売れている。


 期間限定ではあったが、地元のスーパーの店頭にも並ぶくらいの勢いで!

 そしてそれが……『まろやか音』の成約にも繋がっている。


 勢いづいた商品は人々の耳目を集める。


 を見越した社長は早々と代理店制度を敷き、私はその説明会や指導の任まで与えられた。


 とにかく忙しい!!


 髪を振り乱さんばかりに!!


 でもその忙しさへ私は自ら飛び込んで行った。


 その結果、私は一種の“野獣”となった。


 ……男ならこれを『疲れマ◇』と言うのだろうが……


 あかりを産む事を……まるで口実にするかの様に……


 私はオトコの上に乗っかった。


『オトコの下になる』のはもう御免だったから!!


 寝ても覚めてもても……私は髪を振り乱し、どうかするとみっともない声を上げる。


 こんな私は……間違いなく半狂乱なのだと思う。


 でもそれが……今の私の“生きるすべ”だ。


 しかし、そうやって凌いでも……


 真夜中に私は不意に素面しらふになって目が覚めて……


 ついさっき、ベッタリとを受けた……殆ど知らないオトコの横で


 あかりを想って肩を震わせ忍び泣いた。


 ああ!!

 もうこんな事は……

 終わりにしよう……


 私は……あかりの身元を探す事にした。


 それは彼女自身が隠そうとしていた事をのが目的では無い!!


 私はただ、あかりの傍で!!


 警察は……間違いなく彼女の身元を突き止めた筈なのに……興信所に依頼しても……それは『ブラックボックスの中』だった。


 だから私は……“過去の私”を振り捨てた時に、私と“交渉事”をした“特殊な”興信所へお金を積む事にした。



 ◇◇◇◇◇◇


 ようやく離婚が成立した社長は“女の子の居る店”にも飲みに出掛ける様になった。


 本当に良かった!


 事務所に寝泊まりする様になった社長の面倒を見ながら私は思う。


 このあいだ……この社長室でサシ飲みしている時に彼は言った。


「別れた女房から『アンタとの間に子供ができてなくて本当に良かった。背中にキズのある親なんて、子供が不憫すぎる』と言われたのは堪えたこたえた」と……


 私はもう……

 あかりを産む事は諦めたから……

 何も言葉を返さなかったけど……


 彼には……今度こそ良い伴侶に巡り合って欲しいと強く願う。


 こういう風に思う私は……ひょっとしたら彼の事を好きのかもしれないな。


 けれど、あかりを産む事を諦めたら……そんな想いも……男への興味も……あっさりと抜け落ちてしまったのだ。

 街で出会う幼子には、つい心惹かれてしまうけど……


 そう言えば……社長室に鎮座している、あの派手なジュークボックスは動くのかなあ……

 あのジュークボックスのガラス製のブースの上は……他の棚に比べて埃が少ないから……社長が動かしているのかもしれない。



 ◇◇◇◇◇◇


 日高敦子さんが総務部長をなさっているこの会社も……昔、“飛び込み”して受付で断られた。

 その会社の応接室に通された私は敦子さんと商談をしている。


「冴子さんのアドバイスを元に淹れさせたの。この『冴茶ソ』の冷茶はどうかしら?」


 私は出されたお茶を利いてみる。


「とても良く出来ていると思います。冷蔵庫も清潔が保たれていますね」


「そんな事も分かるの?」


「はい。ただ非常に残念なのですが……御社が入居しているビルの貯水槽はまるでダメです」


「その弱点は、『まろやか音』なら解消できますか?」


「解消できます。勿論、面倒な『お茶淹れ』の手順も不要です」


「それは良かったわ! ご存知かもしれないけど、の社員には『冴茶ソ』のファンがたくさん居るのよ」


「ええ、存じ上げております。ひとえに日高部長のお声掛けの賜物です」


「そうではないわよ。『冴茶ソ』が美味しいから。だからでは『まろやか音』を導入する事にしました。まずは10台ですけど。お見積りを出していただけますか?」

 この問いに私は即答した。


「次回のフィルター交換……約2年後になりますが、それまでは7台分のレンタル料で結構です。設置工事費も戴きません」


「即答なさっても大丈夫なのですか?」


「はい! 御社は“上得意”であられますから」


 本当はこれから社長を説得しなければならないのだが、これは私の“最期”の大口物件だ!

 この条件をびた一文ビタイチ変えさせてなるものか!!


「では、正式なお見積り書は後日お届けいたします。それから……御社の水の分析と『まろやか音』の調整に多少の日数を要します事をどうかご了承下さい」


 そう断って……私はガラスの湯呑を美しい緑に染めている『冴茶ソ』をいただいた。


『冴茶ソ』はやはり美味しい。


 その美味しさが、私をここまで連れて来てくれた。


 私は谷川の奥様に心の中で感謝を申し上げながら、空になった湯呑を茶托の上へ戻す。


 でも私は……


 私はただ単に、“生きる理由”をマッチポンプの様に作っているだけではないのか??


 まだ梅雨が明けていないのに、気の早い夏の日差しがテーブルの上で遊んでいる。


 あかりを亡くしてはや1年が経とうとしている……


 ああ!こんな風に時間を飛ばしてしまってはダメだ!!


 これじゃあ!


 あかりへの愛を!!

 証明できない……


 だから私は !


 自分の時を


 止めなければ


 ならない。










『こんな故郷の片隅で  ~『冴茶ソ』篇~』 終わり

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