第1話 想い人は私の時を止めた②

 待ち合せの場所へ自分の足で行くときは、私はかなり早めに到着して、実は様子を見ている。

 なのに私が“港街ゆうえん地”へ行ってみると……いったいどれくらい前から来ていたのか、エンランス脇のちょっとした植え込みの前で彼女は立っていた。


 オレンジのワンピースに大ぶりのピアスで、シンプルなストローハット。


 ただ、緩くウェーブを掛け、流してはいるが前髪パッツンと姫カットの名残りがあるのと ……風に乗って、がしたので、それと分かった。


 私はと言えば、彼女の“お好み”に合いそうな白シャツにケミカルウォッシュのジーンス、キャップにポニーテールだ。

 と、待っている彼女と目が合った。


 彼女の表情全体が、パーッと明るくなったのが遠目からでも分かった。


『なんだ。普通にしてれば、可愛いじゃない』


 それが彼女の第一印象だった。


 私を見つけて駆け寄ろうとし、足がちょっとギクシャクした彼女を私はベンチに座らせた。


「あのさ! サンダルは慣れたのを履かなきゃ!」

 との私の言葉に舌を出す彼女へ


「テヘペロはいいから」と返して 、背負っていたリュックを下ろし、仕事バイト用の絆創膏セットを出す。


 彼女のサンダルを脱がして親指に触れると、足がピクン!と揺れる。


「動くと貼れない。踵にも貼った方がいいね。もちろん両足とも!」


 彼女が少し悲しそうな顔をするので

「なるだけ目立たない大きさのを貼るから」となだめた。


 ベンチに座ったままサンダルを履き、具合を確かめている彼女に聞くべき事を……私は思い出した。


「初めまして、冴子です。あなたは何とお呼びしますか?」


 肩に小さなショルダーバッグを掛けただけの彼女は、その肩紐に両手でつかまったまま小さく答えた。


「あかりです。『あかりちゃん』と呼んでいただけると、嬉しいです」


「ん、『あかりちゃん』ね! さて、あかりちゃん、何から始める?」



 ◇◇◇◇◇◇


 コーヒーカップのグルグル回るやつ。

 私は苦手だ。

 なんだか自分が洗濯機に放り込まれている気がする。

 それから次はジェットコースター。

 彼女はノリノリで叫んでいるが、私は安全バーが冷や汗でじっとりするほど握り締める始末だ。

 散々な目に遭った後、降り口のモニターに満面の笑みのあかりと情けない表情の私が写っている。

 どうやらこのモニターの映像を記念写真にするらしい。


買うの?」


 すっ飛んで行く彼女を引き留めようとしたが、さっさと写真を買われてしまった。


「冴子さんは買わないんですか?」


「誰が! あの顔は私の黒歴史!」


 こう吐き捨てた私の腕に、彼女はクスクスと笑いながら掴まって来る。


「そうなんですかぁ~? 見たくなったら言って下さいね」


 あかりは憮然とした私を見てこんな風に面白がった。



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