第5話 Georgia on My Mind

 日にいくつも


 お腹がいっぱいになってくる。


 それは“快楽の市松模様”の黒いところ


 そうなると、咀嚼そしゃくとなり


 例えば、今、両腕を埋めている枕が揺れるのを

 目の端で捉えてしまう。

 ……市松模様の白が来るまで。


 あぁ !

 吸いたいのは

 タバコ !

 肺の奥にしみる

 ガツン! としたやつ


 こんなフラッシュバッグを見てしまった。


 現実はオフィスの給湯室。


 ライトグリーンのタバコの箱から1本抜いて、

『LV』を模したデザインのネイルで挟んで火を点ける

 バカげた女が目に入ったからだ。


 それは繋がらない会話の報酬の中……




「ってか、全然最近イケてないし……」


「今日みたいに、何人も人が居るのが珍しくなったからね」


「今度、テレワークの時も1時間に1回Z●●mやるってさ」


「何考えてんだろ?」


「ハゲの考えることなんてエロいことに決まってんじゃん」


 こう言いながら女は吸い口にルージュのくっついたタバコの灰を急須の中へ落とす。


「そこのお茶缶取って!」


 狭い空間にの女が数人いると

 気持ちの悪いパヒュームの喧嘩になる。


 運悪く『高機能オゾンミスト発生装置』の上に、金色の玉露の缶が置いてあったものだから、私は『パヒュームの喧嘩』のとばっちりを食ってしまう。


 今の私は作業着で機械のを探っている。

 今日は指を切らずに基板を引き出せた。


 と、給湯室の電器ポットのアラームが鳴る。


 こちらからは見えないが、急須の中に玉露をザラザラと入れて、上から熱湯をぶっかけているらしい。


 もったいない話だが、元々タバコの灰混じりのお茶だ。


 淹れる者も戴く者もそれ相応というところか


 その彼女たちの目には、私は“単なる物体”として映っているようなので


 彼女たちは会話を再開した。


「で、最近イケてないのよ」


「カレシは?」


「アレは……ヤルこと、ルーティンだしさ」


「ルーティンだっていいじゃん。


「私は今はウザくて自分で水やる方がイイ」


「こうたびたび『宣言』が出るとさぁ~ 何もできんよね」


「アンタ、こないだ康子と駅前のロータリーで缶チュやってたでしょ?」


「見られた? 店閉まってるから、まるで中高生のガキになってんのよね」


「ガキは缶チュやったらされるって」


で?」


「つまんね~! それオヤジベタだから」


「じゃあオンライン合コンは?」


「なにそれ?」


「あ~なんかそういうサイトいっぱいあるよね」


「確かに場所選ばないし、ウケそう」


「私はこないだツレの関係で初参加したんだけどさ……」


「初参加して?」


「お持ち帰りされたっていうか、した」


「えっ?」


「どういう事?」



 私は


 フッ! とハンダを吹いた。

 彼女たちは話を止め、こちらを見る。


 さて、を止めるかどうか……


 しかし


「すみませ~ん!お茶お願いします」


 と、外野が入ってきたので彼女たちは散開した。


 後は


 私と機械の二人っきり



 物体としての二人は、『抱き合い』、『対話』する。


 私に似つかわしい。


 スタンダードな曲たちに侵された私の頭の中で“Georgia on My Mind”が静かに流れている。


 まるで機械コイツとチークを踊るみたいに……


 気が付けばここのフロアカーペットも

 ブルーグレーの濃淡市松だった。







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