第2話
ラグナルズドッティル領は南にある帝国の飛び地として古くからの開拓領かつ魔物の巣食う未開領域との境界として年中魔物との戦に明け暮れる武骨な気質を持つ自治領である。また、冬には港が凍り付くため交易こそ盛んではないが地域固有の神代遺跡が数多く存在する地域であるため神代の技術を研究する神学の一大地でもある。
そんなラグナルズドッティル領を統治するラグナルズドッティル家は古くから続く実力主義で知られる武人家系であり、そんな一族が代々居を構えてきた城塞都市領都ヤルンベルグ。それをを見下ろすように港から伸びたトンボロをそのまま荘厳な城塞としたヤルンベルグ城の鐘楼から魔物の襲来を知らせるけたたましい銅鑼の音が春の曇った昼空に鳴り響いていた…
「襲撃ー!襲撃ー!北の山地のより飛竜の群れが出現!数およそ15!」
「魔導弓第一師団及び都市防衛隊は1種対空戦闘配置!」
「陸戦隊は地上の脅威の出現に備えて各駐屯地にて臨戦準備せよ!」
町の守備兵たちが慣れた手つきで雑談を交わしながら持ち場についていく。
次第に町へと接近してその爬虫類のような柔らかいうろこに覆われた人間ほどの大きさの飛竜達が都市防衛設備の射程圏内に入る。
「それにしても、最近多くなったな…魔物の出現、それに数か月前にずっと北の方に落ちてった飛来物はどうなってんだろうか…」
都市城壁のバリスタについていた兵士の一人が隣の兵士に話しかける。
「ああ、まぁただこの町まで来るのは空を飛べる飛行種ばっかだしよぉ、今日もこうして元気に生きてんだ…別になんたってことねぇだろ!そんなことより聞いたか?エイナルの坊主のとこの子供、男子だったってよ!」
「へぇ!めでたいな!あいつももう一人の父親なのか…」
そんなたわいない世間話がなされる中、守備兵たちは淡々と飛竜の群れに弾幕を浴びせ、町へと取りつかせるまでもなく次々と撃ち落としていく。
…ヤルンベルグ城執務室。
「領主さま!この度の襲撃、死者なし、負傷者成し、被害軽微でございます。」
守備兵隊長からの報告がブリタ執務室へと届く。
「了解、ご苦労だった。哨戒班のみ引き続き監視を継続、その他は戦闘配置を解除するよう伝えておいてくれ。」
「はっ!」
事の結果を聞き終えて執務机に向きなおったブリタは机上に広げた地図をにらみ、眉間にしわを寄せる。そしてしばらく考え込んだ後、壁際に控える一人の兵士を向いて口を開いた。まるで処女雪のようであれどたくましさを感じさせる隆起を持つ体に、黒髪に赤目というこのあたりでは見られない特異な風貌を紫がかった黒い軍服に収めた青年に。
「ここしばらく、断続的に魔物どもが領内を犯す頻度が過去に比べて格段に跳ね上がっている。特務部隊の出撃許可を出す。北の山脈を調査してきてくれ。…ヘイムル特務隊長。」
「御意。3人ほどの少数で強行偵察をかけようと思いますが、よろしいですか?」
「承知した。…しかし、お前を拾ってもう17年か。早いものだな…どうだ?良い相手などはいないのか?」
「それでは出立の準備を進めてまいります。...それと。母上、仮にも私はこの領地の防衛の一端を担うものです。そんなものにうつつを抜かしている暇はありませんよ?」
そんな言葉と同時に執務室の扉が閉じられる。
「そうか…本当は、恩義などに縛られず自由に生きてほしいのだがな…」
ヘイムルが出て言った執務室に残ったのは冷たい書類のインクの匂いとブリタのそんな独り言だけだった。。
執務室を出たヘイムルは即座に特務隊の練兵所へ向かい、なじみの隊員2人を呼びつけた。どの隊員もヘイムルとともに訓練を積んだ十年来の仲間である。
翌日の早朝、ヘイムルはまだ山頂に雪をかぶる北部山脈へ向けて愛馬のミュルクルにまたがり出立した。
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