第44話 後方崩壊 即席指揮官リチャーズ

 俺達が後方に着くと、すぐに隊の乱れの原因が分かる。リーダーが不在、つまりはマイラーが怪我をして動けないでいた。


 前方はステートリッヒたち黒地二人が三パーティーを引っ張って立ち回っているし、中央は俺とダリルが基本的に指示を、それに意外と参謀役が合っているのかトマスも指示を出す。

 後方はと言うと、マイラーが倒れ連携がちぐはぐだ。マイラーを含む三人が倒れている。俺はまずは立て直しを図る。


「みんな距離を空け過ぎだ! まずはパーティーごとに集まり、前衛と後方支援の役割をしっかり守るんだ! 基本は魔法使いは後方に回れ! ケガ人は俺とファンナで見る」


 みんなは俺の発言に戸惑いを見せながらも指示は聞いてくれた。この場にいるはずのない俺が急に指示を出せば頭の中で混乱が生じる。しかしこの状況があまりにも良くないのは、みんなも十分に理解はしているようだ。


「……油ひく、松明の火で……火の煙幕つくる! ……油にフレイム、それもいい……」


 ファンナの指示でみんなが火の煙幕を作り出す。流石はファンナ! 彼はアックスの戦い方を見て、それを参考にしたんだ。

 俺達はすぐにケガ人の元へと行き、一人ずつケガを確認しながら隊の中央まで移動させる。自力で歩ける者もいれば、かつがないといけない者もいる。


「マイラー意識をしっかり!」


「ぅう……」


「すまん。しくった……」


「それはいい。マイラー、ポーションはあるか?」


「ある……俺のカバンの中……」


 マイラーのケガを見つつ、カバンを漁る。彼は腕と脚に怪我を負っている。他の二人を見ていたファンナが戻って来る。


「……リチャーズ、一人は大丈夫。……けど一人重症……意識ない、毒、もらっている……」


「ポーションは?」


 予めファンナに俺のポーションを二本預けてある。


「……一本使った。……もう一人、助からない……だから……」


 ファンナはポーション一本を俺に返した。


「ファンナ、ありがとう」


 マイラーに俺のポーションを使ってもいいが……ここはまだ序盤だ。本人が持っている物で済むならそれに越したことはない。


「マイラー、毒はもらってないよな?」


「すまん……」


「マイラー! なぜ早く言わない!? 毒消し薬は?」


「持ってない……」


 くそっ! おそらく毒をもらってから三分以上はたっている。俺のドクトールAは時間が空けば空くほど効果が極端に薄れる。貴重な毒消し薬だ。どうする?

 ……いや、効き目が薄れるだけで、必ずしも効果がないわけではない。ここでマイラーに死なれちゃ困る。


「マイラー、これを飲め! 毒消し薬だ」


「……いいのか? ……貴重だろ」


「いい……まだお前に死なれちゃ困るんだ!」


「悪い……」


 マイラーは俺の手から受け取ると飲んだ。


「まずいな……」


「薬って、そういうもんだ」


 マイラーのカバンからポーションを見つけ出し、半分を飲ませて半分を腕と脚の傷口にぶっかけた。そして包帯をキツく締めて出血も抑える。彼は戦況を見たいと言い、ファンナが肩を貸した。


「みんな……もう少し絞れ。お互いのパーティー同士距離は空けるな……。二人で一匹ずつ確実に仕留める。そういう気持ちでやるんだ」


 マイラーが力なくだが、指示を飛ばすとより一層団結力が生まれた。各パーティーは確実にオオサソリを一匹ずつ仕留めていく。ファンナに教わった火の煙幕も上手く利用している。

 俺はファンナの代わりにマイラーを支えることにした。怪我人がいるこの場にオオサソリが迫ってきたとしたら、俺の剣技ではとてもじゃないが対応できないからだ。


「……リチャーズ、もう片付く……」


 ファンナの言葉に引っ張られ、俺は前方のステートリッヒがいる方を見る。彼は武器を収めてパーティーに声をかけている。状況把握に安否確認をしているようだ。

 ダリルやアックス達は息のあるオオサソリがいないか、確認し回っているようだ。後方の俺達の方も順調に片付いていく。


「マイラー、もうすぐだ。もうすぐで終わるぞ」


「……そうか。それは……良かった」


 マイラーは前方を見えないほどにぐったりとしている。


「おい、マイラーしっかりしろ!」


 急にマイラーが重くなり、俺の肩が下がる。俺はしゃがんでゆっくりとマイラーを地面に座らせた。


「おい! ……おい!? おい、マイラーしっかりしろ!!」


 彼の返事はない。

 ファンナはしゃがみ込み、マイラーの脈を探りあてると小さく首を横に振った。


「そんな……」


「……リチャーズ、出来ること……十分した……」


 ファンナは俺の肩に手を掛けた。

 周りの連中もマイラーの状態に気づいて、一人また一人と集まって来る。その頃には後方のオオサソリはほぼ退治し終えていた。


 後方の様子を見にステートリッヒが来た。「とっさの判断、ご苦労」と俺に声をかける。

「マイラーさん! マイラーさん!」と彼のパーティーメンバーが何度も叫ぶが、決して返事は帰ってこない。


「酷だが……おちおちとこの場で嘆き続けている訳にはいかない。準備が出来しだい、次に進むぞ」


 しばらく黙って見守っていたステートリッヒが言った。一人が涙を拭いながら「マイラーさん、見ててください! 俺たち必ずクエスト成功させてみせます」と、安らかに眠っているマイラーに言った。

 マイラー、そしてもう一人の犠牲者ロベルトは洞窟の端に寄せて、パーティーメンバーを中心に黙祷もくとうを捧げる。


 覚悟はしていた。必ず被害があると覚悟はしていたが、こうもあっさりと仲間が倒れるとは……マイラー、ロベルト……二人の死は決して無駄にはしない。


「……リチャーズ、行く。……ここから、もっと過酷……」


「ああ、ファンナ分かってるよ」


 俺は左腕に巻いている青い髪のエルフ『ネロン』から借りたバンダナに手をかざす。


「……それ?」


「ああ、これ? これはお守りだよ! ファンナは知ってるかな? ほら、十歳頃の時にさ、エルフのお姉さんが村に来ただろ。青い髪の。その時に借りたものなんだ。俺の一番のお守り……」


「……なんだか、嫉妬……」


「……え? なんか言った?」


「……別に……」


 ファンナはそそくさとダリルのパーティーに戻った。


「リチャーズ、大丈夫だった?」


「エリィ、アックス。そっちは大丈夫だったか?」


「問題ない。前方で何人か怪我人は出たが、毒は誰も貰ってないし動けてもいる」


「そっか、良かった」


「マイラーさん……」


 エリィは両手の指を絡ませて、祈りを捧げる。


「さて、後方のリーダーがいなくなるな」


 アックスが言った。


「……え? まさか、変なこと思ってないよな?」


「その、まさかだ!」


 周囲の視線がなんとなく俺に集まっているような……。

 青髪の剣士カサンドラが、カシャカシャと籠手やすね当ての金属が擦れる音を鳴らしながら駆け寄って来る。


「ステートリッヒが副リーダーはお前がやれと言ってる。後方は任すと。隊列も組み直すそうだ」


「いやいやいや、カサンドラさん、それは無理があるのでは? 僕は白地ですよ?」


 嫌だ。副リーダーなんてぜったいに嫌だ! 責任が重大すぎる!


「これは決定事項だ! それに現場に入ってしまえば白地も黒地も関係ない。一番向いてる奴がリーダー、副リーダーになればいい!」


「ステートリッヒが……?」


「いや、これは私の意見だ。期待してるぞ」


 カサンドラはそう言うと俺の頬に手を置き、撫でるように滑らせる。

 ブルッときた〜、お姉さん手つきエロすぎ。それに胸元開けすぎだ! 鎖帷子くさりかたびらを中に来ているみたいだけど、胸元まったく隠れてないよ。豊満な胸、それが俺の気を誘う。


「リチャーズ! ま〜た、あんた鼻の下伸ばしてー」


「いや、違うんだ、エリィ! これはだな。そういうことじゃなくてだな……」


「なんだ? 私に興味があるのか? このクエストが達成できた時のご褒美にどうだ」


 そう言うとカサンドラは右手で豊満な胸をさらに強調させる。


「……え!? いいんですか?」


 俺の手つきが無意識にやらしくなる。


「リチャ〜ズ〜!」


 エリィの拳が俺の顔面に。ぐはっ! おお、いいパンチだ。


「ふふ、ここは賑やかでいい。リチャーズ君、では後方を頼むぞ」


「はい! 任せてください」


 俺はすっかりカサンドラのペースにはまる。彼女はふりふりとわざとらしくおしりを振りながら、前方の隊に戻った。


「あんた、鼻血出てるよ……」


「これはエリィが殴ったからだろ」


「どうだかね〜……手つきがやらしかったわよ。この変態!」


 あんないいお姉さんがいたら、誰だって変態になるわい。

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