第23話 ファンナの行い② 薬草探し

 翌日、俺は村の外の野草を調べに行った。俺達がどうこうしたからってケディーのお母さんの病気が治るはずはないが、野草をスキル『図鑑』で調べて、少しでもケディーのお母さんの病状を和らげるような薬草がないかどうか探し回った。

 今朝は試しに俺が持ってきたポーションを与えてみたが、思った通りで効果はほとんど示さない。ひどい床擦れを多少は良くしたぐらいだ。


「リチャーズ、これなんかはどうだ?」


 アックスが手に持ってきたのはキシミナソウに似た青い花びらの野草だ。


「アックス〜無闇やたらに抜かないの! 自然は大切にするものよ」


 そう言ったのは隣にいたエリィだ。


「どれどれ……」


 俺は手をかざしてスキル『図鑑』を発動させる。



◎アカネカネ 〈ミナ科〉特徴的な針金のように細い茎は見た目以上に丈夫。枯れた大地でも花を咲かせることができるほど悪環境にも強い植物。

 ・20〜40cm ・乾燥地帯



「だめだ。キシミナソウと同じミナ科だけど、特に役に立ちそうにないよ」


 俺のスキルは子供向けの図鑑程度の情報しか得られない。もしかしたらスキルで読み取れていない情報もあるかもしれないが、薬学に詳しくない俺たちはこのスキルに頼るしか方法はない。


 この日は村を離れてかなり遠くまで見て回ったが収穫はなかった。元々は枯れた大地が占めるこの地域だ。村の周辺と離れた岩場にポツポツと自然があるぐらいで、大きな期待に答えるような薬草はそうそう出てこないだろう。

 徒労に終わるなんてことも考えられるが、何もしていないでいるよりは何かをした方がいい。それは幼いケディーのためでもあるし、それを気に掛けるファンナのためでもある。


 ***


 明くる日、俺の行為に一つの進展があった。


「リチャーズこれなんかはどう? 昨日は見なかった植物だよね〜?」


「エリィ、これは確かに見かけなかった。何やら期待できそうだよ」


 俺がそう言って手をかざしたのは、岩場の隙間に生えている植物。高さ一メートルぐらいで茎の太さは直径二センチはある。茎の太さに似つかわしくない小さな黄色いつぼみをいくつかつけている。


 早速スキルを発動、手のひらに光を帯びたかと思いきや、俺はすぐに手を離してそのまま後ろに倒れた。


「リチャーズ!? 大丈夫?」


 心配するエリィとアックスの声掛けに俺は答える。


「こ、こ、これ! 毒だよ!? 茎に毒がある!」


「――え!? 大丈夫なの? 手のひら見せてみて」


「大丈夫大丈夫! 表面には毒がないから。茎にある程度の刺激を与えるとヒビが入り中から毒液が出るみたい」


 それを聞いたアックスはまじまじと茎を見た。


「茎は割れてなさそうだな」


「ふぅ〜……良かった〜。私達は毒消しを持ってないし、少しでも間違えてたら命取りだわ。リチャーズごめんね……私がもっと注意してれば……」


「エリィ、注意もなにも見た目じゃ分からないよ。特にこのドクコナドは毒々しい感じはしないからね」


「ドクコナド?」


「そう、ドクコナド。この植物の名前だよ。ふふふ……」


「どうしたの? 笑って?」


「ドクコナドはそれだけじゃないよ! 毒だけじゃない」


「……どういうこと?」


「ドクコナドは茎の部分に毒があるけど、反対にの部分は毒消しの効果があるんだ! ケディーのお母さんに毒消しなんて効果がないかもしれないけど、試してみる価値はあるよ」


「――ほんと!? それなら採取を急ぎましょ! って言っても、茎に毒があるから慎重にだね」


「ああ、慎重にだな!」


 俺たちは茎に触れないように土を掘り起こして、根を切って持ち帰った。



◎ドクコナド 〈クコナ科〉直径二センチの茎を傷つけたり、ある程度の衝撃を与えると白い粘性の毒が染み出る。触れた時に痛みは生じないがそのうちマヒ症状が起き、場合によっては壊死することもある。反対にから染み出る液体には虫や植物の毒を和らげる効果のある成分が含まれる。

 ・50~150cm ・全地域 ・×毒



 ケディーの家の前で、俺はドクコナドの根の切り口から染み出る液体を試しに舐めてみた。


「ちょ、ちょ、ちょっと〜そんなに躊躇ちゅうちょなく舐めても大丈夫なの? いくら根に毒がないとしても茎には毒があるんでしょ!? 精製しないといけないとか何かしらあるかもしれないでしょ〜」


「エリィそうは言っても、これをどう精製したら毒消しになるかなんて分からないんだし、試してみるしかないよ」


「それで、リチャーズどうなんだ?」


「とりあえずは舐めても問題なさそう。しびれはないし、ほんのりと甘さを感じる。アックスも舐めてみる?」


「どれどれ……。ほんとだ、甘いな」


「アックスまでも……」


「エリィ、大丈夫だって俺のスキルで毒がないのは分かってるんだしね。とはいっても健康体のままじゃ効果があるか分からないな……いっそ毒にかかってみようかな」


「ちょちょちょ、それは駄目よ!? さすがにそれは止めるわよ!」


「あはは……冗談だってば」


「リチャーズの場合は、本当にやりそうで冗談にならないのよ〜」


「あはは……」


 俺は茎から染み出る白濁している液体を絞り出し、それを瓶に入れた。そのままだと飲みにくそうだったので、水で少し薄めてからケディーとファンナが見守る中お母さんに飲ませてみた。


 実はお母さんは毒に侵されていて、このドクコナドの毒消しで治りました……なんて、そんな都合よくは行かないだろうな。それでも少しでも可能性があるなら試してみるしかない。一つ分かるのはケディーのお母さんは衰弱しきっていて、確実に死に向かっているということだけだ。


 明くる日、ケディーのお母さんの容態は変わる気配がなかった。この日もドクコナドの根の部分の液体を飲ませた。俺達はもっといい薬草がないか、さらに村の遠くまで探しに出かけることにした。ファンナは「僕も行く……」と言ったが、ケディーとお母さんのそばにいてあげてとエリィは制した。


 そんな日々を一週間迎えた時だ。薬草を探しながらエリィは俺に唐突に聞いてきた。


「ねぇリチャーズ……」


「ん? どうした?」


 俺は背を丸くして野草を眺めていた。体を起こしてエリィを見る。風でエリィの髪はなびき顔にかかるとそれを手で抑えた。この日はアックスは雨漏れがするケディーの家の修理をしていて、薬草探しには同行していなかった。


「……ねぇ思ったんだけど、リチャーズのスキルでお母さんの病状って分からないかな?」


「試してもいいけど、おそらくはなにも分からないと思うよ。ほら、昔エリィがひどい腹痛の時にさ、俺の『図鑑』で観たことあるだろ。あの時は食中毒かもしれないし調べてみようってなってさ……でも何も分からなかった。俺の『図鑑』じゃあ医療診断なんて大層なことはできないんだよ。分かっても種族が分かる程度、ヒトかエルフかってね。その人の個人的なこと……身長や体重、それに胸の大きさ……とか、そういったものは何も分かりはしないよ」


「……リチャーズの変態!」


 エリィはそう言うと自身の胸を手で抑える。俺の視線は無意識にエリィの胸にロックオンしていたようだ。ほんのりと顔を赤らめるエリィがとてもかわいい。


「あはは……」


「それはそうだけどね……試しにやってみてほしいの。私の腹痛程度では分からなかったけど、大きな病気とか毒とか……そういったのは分かる場合もあるかもしれないよ」


「……うん、そうだね。いいよ。一度試しにやってみよう。分からないとは限らないしね」


 俺達は薬草探しはそこそこにして、ファンナたちのいるケディーの家へと帰った。

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