第2章 旅立ちの冒険者たち
第21話 旅立ち 芋だらけの村を背に
俺は晴れて十五歳になった。実戦形式の課題もすべてクリアし、立派な冒険者になるべく旅立ちの日を迎えようとしている。
エルフからもらったベルト付きのポーチは腰につけ、そこにこの村では貴重な細長い瓶に入ったポーションを、まるで弾丸を込めるかのように仕切られたポケットに一つ一つ差し込む。
革でできたショルダーバックの中には予備の服や食料と水、それにこの村から王都周辺までが描かれた地図を入れ、村が旅立ちの日のためにと大量に仕入れた中古の剣は腰に
家を出る際にそれとなく伝えたが、親父は相変わらず俺に無関心なままだった。「風邪をひくなよ」ぐらい言ってほしいものだが、「ああ」って言うだけで、それ以上の言葉はなかった。前世では学校の生活がなんや就職がなんやと親に鑑賞されてウザかった記憶があるが、無関心なのもまたひどく寂しいものだ。
俺なんかが……とは思うが、将来もし家族を持つことができたとしたら、その時は付かず離れずのちょうどいい距離感で子供に接しようと思う。子供に与えるものは与え、やりたいことは尊重してやらせる! そうだな……住むのもこんなド田舎な貧しい村ではなくて、家は大きくなくてもいいから、もっと王都に近い町に住もう。そしてお嫁さんは、やはりエリィだ! むふふ、きっと毎日が楽しいんだろうな〜。
妄想を膨らませながら歩いていると、いつの間にか村の出口まで来ていた。すでにエリィとアックスはいた。二人はこちらに向かって大きく手を振っている。辺りには他のパーティーメンバーや見送りのために来た大人たちがわんさか集まっていた。
「リチャーズ、こっちよ〜!」
俺は駆け足で二人の所へと向かった。エリィは布屋さんらしくこの日のために仕立てた淡いグレーのフード付きのマントを装備し、可愛らしいスカートに革のロングブーツを履いている。アックスは自分で金属を叩いて作ったお手製の籠手を装備し、薄い金属の胸当てを身に着けている。
「いよいよだね! なんだか緊張するよ〜」
「そうだね。エリィ、アックス、いよいよだ!」
「おう! ってか、エリィ荷物多くないか? そんな荷物じゃあ、いざって時に走り回れないぜ」
「これ? 見かけほどリュックは重くないわよ。それにこの量は普通でしょ〜、逆にアックスが少なすぎるわ。そんな装備で大丈夫なの?」
「問題ないだろ。必要ならば次の村で買えばいいし」
「次の村って……この辺境の村から次の町まで行くのにどれぐらいかかると思ってるのよ。それに村から支給されたお金は限られているのよ。大事に使ってよ。まったく〜」
「ぐへへへ……ずいぶんと呑気な連中だな〜。俺達は先に行くぜ。早々と成果を出すためにも王都へ直行だ! 呑気にしてられないぜ。じゃあな、アックスにバカ女、それにリチャーズ君!」
後ろから声をかけてきたのはダリルだ。彼は両腰に剣を一本ずつ携えていた。いつの間にか二刀流に変えたのか? それとも予備の剣だろうか?
「ダリル……道中気をつけてな。それにもう誰かをいじめるなよ」
「けっ! そんなつまんねぇことはしねえよ!」
「つまんねぇことって……散々俺をいじめてただろ」
「ぐへへ……若気の至りだ、悪かったな!」
ダリルはそう言うと俺の肩にポンと手を置いた。横目で見ると手には細かい傷がいくつも刻まれているのが分かる。たしか試合をした時にはなかったはずだ。いったいどんな特訓をしたのだろうか。
彼は子分のケイレスにトマス、それにファンナという成績は優秀だが根暗な魔法使いをパーティーメンバーにした。俺を含め気弱そうに見える奴はだいたいがダリルのいじめの対象になっていたが、不思議とファンナは対象外だった。おそらくいじめたとしても反応があまりにも乏しいからだろう。
それにしてもダリルがファンナを選ぶなんて意外だ。彼はほとんどの実技試験では優秀な成績だが、こと対人戦闘に関してはからきし駄目だ。戦闘を好まない性格柄からか、対人試験では一度も勝った所を見たことがない。
彼以上に優秀な奴は他にもいる。例えばここ数十年の中で村一の火力があると噂の火炎魔法使いのレイドや、数ミリ単位で風をコントロールできると噂の風魔法使いのキャロライン、遠投でどんな距離でも的を射抜けると噂のジャイロなどだ。どいつも俺の知る限りではダリルと組むのは本望のはずだ。
それを押しのけてファンナを選んだ。ダリルになにか考えがあってのはずだが、いったい彼の何に惹かれたのだろうか……?
「……」
――ぎょ!? いつの間にかファンナは俺の隣にいた。前髪に隠れがちな瞳で彼は俺を見つめている。こんなに背が高かったけか……ダリルと同じぐらいありそうだ。女性みたいな線の細さ、魔法使いだからいいのかもしれないが、この体で冒険者って本当に大丈夫なのだろうか?
「おい、ファンナ! 行くぞ」
「あ……はい……」
ファンナは細い足で距離を離されたダリルたちの元へと駆けて行く。
「リチャーズ、どうしたの〜?」
「いや、エリィ。そういえばファンナって俺と同い年だけど、一度も会話をしたことがなかったなって、そう思って……」
「う~ん、魔法の授業の時は私も一緒のクラスだったけど、ほとんど話したことないわね。どういう声かも思い出せないくらいよ。ファンナっているのかいないのか、いまいち分からないんだよね〜」
「ダリルはどうしてファンナを選んだんだろう?」
「冒険者のメンバーに必要だと思ったからだろ。昼夜ともにするが、メンバー同士仲良しでないパーティーもいるわけだしな。それにファンナは優秀だろ?」
アックスが答えた。
「実戦での戦闘以外はね。う〜ん……なにか引っかかるんだよな〜……」
「リチャーズ人のこと気にしてる場合じゃないぞ。俺達もそろそろ行こうぜ!」
「ああ、そうだね!」
「ねぇリチャーズ、さっきから気になってたんだけど〜……その腕に巻いてる布はなにかしら?」
「ん……これか? これはエルフさんがエリィの傷口に巻いてた布だよ。バンダナかな? いつの日か会った時に返すんだ!」
「リチャーズ……なんかそれ所々赤いけど、それって……」
「ああ、これ? エリィの血だよ。あれから一度も洗ってないんだ」
「――ぇえ!? やめなよ! 気持ち悪い。なんで私の血が染み込んだのを持ってるのよ〜」
「やめろ、エリィ。これはエルフさんに会った時に返すんだよ!」
「そんなの迷惑よ! ほら、はずしなさい! 私が捨てとくわ〜」
「いやだ! エリィがなにを言ってもはずさない! これは俺のお守りなんだ」
「もう、気持ち悪い!」
「――おい、なにやってるんだ。二人とも早く行くぞ!」
俺とエリィがやり合っている間にアックスはすでに村の外へと向かっていた。
「ぁあ、アックス待って、一緒に出ようよ!」
アックスの背に追いつき、俺達はあと一歩で村の外に出る所で横並びに並ぶ。
周りに女性の大人たちや、子供達、エリィの弟のトネルにデノンもいる。みんなからは旅立ちを祝して歓声が送られる。
「なんだか緊張するね〜」
「手でも繋ぐか?」
「おお! いいね〜アックス!」
俺達三人は手をしっかり握りあった。右手にアックス、左手にエリィ、お互いの顔を見合う。
「よーし、行くよ! いい? 『せーの』で一歩だよ」
「おう!」
「分かってるわ!」
「よし!」
「「「せーのぉ!」」」
こうして俺達は大いなる冒険の一歩を踏み出した。
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