第15話 ポーションの精製① 図鑑が示すレシピ
エルフが村を出てから一ヶ月がたった。俺は一人キシミナソウの群生地やその周辺で植物の採取をしていた。
「よし! こんなもんかな」
「――何してるんだ?」
「わ、わぁ!?」
俺は後ろからの声に驚き転げ、岩に腰を打ち付ける。辺りにはせっかく採取したキシミナソウの茎や花、それに花粉が散らばる。
「痛ててててっ……アックス驚かさないでよ」
「……へえっ……へえっ……くしゅん!! ……く、くそ! キシミナソウか!?」
「あははは……驚かすからだよ」
俺は粘膜を守るために頭をすっぽりと隠すマスク二号を被っていた。ちなみにマスク一号は俺のお手制だが、二号はエリィが作ってくれたものだ。見た目は綺麗に裁縫されてはいるが茶色一色だ。カラフルな布切れを合わせて作った俺の一号の方が素敵だとは思うんだけどな。
アックスがキシミナソウの花粉で目を開けられず痛がっている間に、俺は散らばった花と茎を拾い集める。
「そういえばアックス、なにしに来たんだ? こんな村の外まで」
「お前を探しに来たんだよ! エリィが心配してたぞ。エルフさんが帰ってからなんだか様子がおかしいって」
「様子が?? 俺は特に変わったつもりはないけど」
「俺はお前の様子の違いなんて分からん。エリィが言うには、村の外に出て何時間も帰ってこないと思いきや、ニタニタと不気味な顔をして帰ってくるって。お前、もしかして……親父さんの薬くすねてやってるんじゃないのか?」
「俺がぁ!? あんなクソ親父と一緒にするなよ」
「悪い悪い……ちと言い過ぎた。それにしてもエリィが心配してるんだ。一人で何をしてるかぐらい話したっていいだろ」
「別に内緒にしてたわけじゃないよ」
エリィの容態は左腕はまだ上手く動かせなくとも、少しずつ日常の生活に戻りつつある。毎日とは行かずとも学校に通うようになったし、村の外出こそ禁止されてはいるが、普段からしていた家の手伝いなどもいくらかできるまでになった。
俺はというといつも通り……いや、いつも以上に村の外に出かけることが多くなった。
それにしても様子を見にエリィの家に毎日お邪魔しているのに、なんでその時にエリィは聞いてくれなかったのだろう? アックスに頼むなんてさ。
「エルフさんからポーションを頂いたんだ。それを俺のスキルで見てみると、原料にキシミナソウが使われてると……」
「ふーん、それで?」
俺はアックスと歩きながら話していた。花粉は飛ばされないようにざるに布を被せ、マスク二号は暑苦しいから脱いだ。
「俺は剣術もダメ出し、魔法も使えないだろ。冒険者になる十五歳までに少しでもやれることはやっとこうと思ってさ。エルフさんが去ってから、なにか自分にも出来ることがないかと毎日考えてたんだ……」
「ふむふむ、それで?」
話の容量を得ないのがアックスだ。
「それで思いついたのがポーションの精製さ! 冒険者始めたての頃はお金が回らなくて、回復薬が買えないと聞いたことがあるだろ? エルフさんも冒険は何よりも準備が大事だって。回復薬が買えるようになるまでは無理な冒険はしない方がいいって、そう言ってたんだ。自分でポーションが作れたらその心配はなくなるだろ」
「ずいぶんと簡単に言うな。精製って、それはお前のスキルの〜……なんだっけか? そうそう、『ずかん』とか言ったか? それに精製方法も書いてあったてことか?」
「いーや、残念ながら大雑把な原料しか載ってなかったよ。キシミナソウ以外に、コピーダイヤってのが原料なんだけど、アックス聞いたことある? ダイヤってことは石の一種だとは思うんだけど……」
「コピーダイヤ? 聞いたことはないな。なぁ、お前悪いことは言わない。それはやっぱ無理があるんじゃないか? 頭が良くない俺でも分かるぞ。この村にポーションの精製が書かれた本はないし、知ってる者もいない。だから授業で習うことはまずない。それに精製士って職業があるだろ? あれは資格取るのが超難解だと聞いたことがあるぞ」
「なんだなんだ? アックスにしてはよく知ってるな。珍しくさ」
「エリィが魔法を上手く使えなかった時期にその道も考えてたんだよ。俺はその話を聞いてたから、それで知ってただけだ」
「なに!? そのこと、俺は全く聞いてないよ」
「俺はクラスが一緒だからな。お前に話さないことの一つや二つくらいはあるだろ」
う〜なんだか嫉妬だ。アックスよりも俺の方が距離が近いと思っていたのに〜。
「精製士のことは知ってるよ。別にその職業を目指してるわけじゃない。ただ仲間のピンチに何もできないのは嫌なんだ。何も完璧じゃなくてもいい、少しでもみんなの役に立てるような、そんな技術を身につけたいだけなんだよ。
失敗したら失敗したで構わないさ。その時は
「まぁ親父さんの才能が良いものかどうかはなんとも言えないが……でも、確かにそうだよな! 何事も挑戦だ。よし、のったぞ! 俺もリチャーズの手伝いをするぞ。知能はなくとも俺だって採取ぐらいは出来るだろ。それにあんなことがあったばかりなんだ。ボディガードの一人ぐらいは必要だろ」
アックスは拳を作って、俺の胸の前に置いた。
「ボディガードって……いくらアックスでもワーウルフ相手は厳しいよ。それでもアックスがいてくれると、とても心強いよ! 助かる」
「へへ……俺は何かに挑戦してる奴が好きだからな!」
アックスと握手を交わす。手の厚みが俺の二倍はありそうだ。この拳ならもしかしたらワーウルフも倒せるかもしれない。
それにしてもアックスは自然にカッコつけるし、とても易しい。エリィが取られないように気をつけとかないとな。
この日からアックスと俺は、いろんな植物や石を採取して実験を重ねた。後にエリィも参加するようになり、村の外れで石臼を用意して物をすり潰したり、火を扱って茹でてみたり、ろ過してみたりといろんなことを片っぱしりからしてみた。
効果を見るために俺の体を実験台にした。アックスが近くにいることで少なくなったとはいえ、俺へのダリルのいじめは続いている。ケガに絶えないこの体は効果を見るにはうってつけだ。
――え? 変な趣味に目覚めないかって……確かにな、マゾヒスティックな快感に目覚めないように気をつけないとな。
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