第8話:暴走!赤い鉄仮面



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### **第2話:暴走!赤い鉄仮面**


**特命から数日後。日本代表合宿所は、静かな狂気に包まれていた。**


大門 哲(65)の存在は、チームにとって劇薬というより、もはや時限爆弾だった。

彼のラグビー哲学は、ただ一つ。「ボール(ホシ)を確保せよ」。

その執念は凄まじく、練習中、ボールを持った選手は敵味方の区別なく、背後から忍び寄るサングラスの男に怯えなければならなかった。

「団長!味方です!」「確保に敵も味方もない!」

そんな不毛な会話が、グラウンドの日常と化した。


そんな中、大門は新たな「捜査」を開始する。

それは、若き司令塔・大空 翼への、執拗なまでの「尾行」だった。


翼が戦術ミーティングで華麗なパスルートを解説すれば、最後列で腕を組み「そんな甘い包囲網でホシが捕まるか」と呟く。

翼がキック練習をすれば、ゴールポストの裏に仁王立ちし、「弾道が低い。これでは威嚇射撃にもならん」とダメ出しをする。


翼のストレスは限界に達していた。

「あの人、俺のやることなすこと全部否定するじゃないか…!」


事件は、紅白戦の日に起こった。

ヘッドコーチの鈴木は、大門を「グラウンドの安全確保のため」という名目で、場外の監視役(という名のベンチウォーマー)に任命した。


試合が始まると、翼率いるAチームが、芸術的なパスワークでBチームを翻弄する。

「美しい…まるでオーケストラだ」

鈴木コーチが悦に入る。


だが、その時だった。

**ブロロロロロ…!**

どこからか、地を這うようなエンジン音が聞こえ始めた。


選手たちが訝しげに顔を上げる。音は徐々に大きくなり、やがてグラウンドのすぐそばから聞こえてきた。

そこには、**赤い鉄仮面・スカイラインDR30**が、ボンネットから煙を上げながらアイドリングしていた。運転席には、もちろんサングラス姿の大門がいる。


鈴木コーチが血相を変えて駆け寄る。

「団長!何してるんですか!車をグラウンドに入れるな!」


「鈴木…。現場の判断に口を出すな」

大門は無線機(のフリをした水筒)を手に、冷静に呟いた。

「…包囲網が突破された。これより、俺が奴らの逃走経路を塞ぐ。総員、俺の援護を頼む」


「総員って誰のことですか!?」

鈴木コーチの絶叫も虚しく、大門はアクセルを踏み込んだ。


**ギュルルルルッ!!**

スカイラインはタイヤを軋ませながら、猛然とグラウンドに乱入した。

選手たちは悲鳴を上げて四方八方に散る。芝生の上をドリフトしながら、赤い鉄仮面はボールを持つ選手を執拗に追いかけ回す。

それはラグビーの試合ではなく、完全に西部警察のカーチェイスシーンだった。


「危ねえ!」

「なんだこれ!?」


ボールを持っていた翼は、猛スピードで迫りくる鉄仮面に恐怖し、思わずボールを放り投げて逃げ出した。

その瞬間、大門は車を急停車させ、運転席からショットガン…ではなく、巨大な捕獲網を取り出した。


「確保ぉぉぉっ!!」

放り投げられたボールは、放物線を描き、見事、大門の構える網の中に収まった。


グラウンドは静まり返る。

選手も、コーチも、練習を見に来ていた数人のファンも、全員が口を開けてその光景を見ていた。


大門はサングラスの位置を直し、捕獲したボールを片手に、満足げに言い放った。


「…事件解決だな」


その日の練習が中止になったのは言うまでもない。

若きジャパンの選手たちは、この時初めて悟った。

この男は、ルールブックも、常識も、物理法則すらも無視する、本物の「怪物」なのだと。


暴走機関車ならぬ、**暴走する赤い鉄仮面**。

エンペラーてつの捜査は、誰にも止められない。


(第3話へ続く)

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