第七話 勇者クリスの失態 

 勇者クリス視点



「ちっ、お前は何でこんなに気が回らないんだ!」

「いや、勘弁して下せえ。こんなに雑用を任せれていたら、仕事も遅くなるってもんでさあ」



「元パーティーのリクってやつはすぐにテントを出して、素材も一方にまとめてすぐに料理を作ってたんだぞ! お前は何でこんなに愚図なんだ!」

「そんなこと言われても困りますぜ。盗賊を探していると聞いて、募集に応募したのに中身は雑用係の仕事だなんて、聞いてませんぜ!」



「うるさい! お前は言うことを聞いていればいいんだ」



 勇者クリス達はカミスの街を抜けて、次の街、ババロで雑用係を募集して、Dランクダンジョン「樹海ダンジョン」に来ていた。


 勇者パーティーは人気があるため、すぐに雑用係兼ポーターは見つかると思っていた。


 だが、冒険者ギルドにパーティー募集の知らせを出しても、応募者が来ない。

 仕方がないので、雑用係ではないパーティーの募集をし始めるクリス。


「ちょっと。どういう事? 私たちの戦力は足りているはず。雑用係を探すんじゃなかったの?」


 魔法使いのサラが勇者クリスに詰め寄る。

「ははは。別に雑用係を募集する必要はないんだ。盗賊を探しているとでも嘘をついて、後で見つかったやつに雑用係をさせればいい」


「クリス! 名案ですわ。そうしましょう。ここはカミスに比べて、なんか田舎くさい街ですわ。とっとと離れましょう」

「俺は何でもいいが、飯のうまい奴がいい」


「リクのつくる飯は格別にうまかったわ。なんで追放したのよ……」


 勇者クリスは今更文句を言うオルキッドやサラに内心不満を持つ。

 リク、リク! リクが何だって言うんだ。あいつがいても戦闘で何も役に立たない。

 リクのおどおどした顔が思い浮かぶがあんな奴はどうでもいいとすぐに頭から消す。


 ちなみにクリス達の冒険者ランクはCランクだ。最初は飛ぶようにランクが上がり、勇者の再来だともてはやされたが、今はCランクで止まっていた。


「ふぅ。勇者の再来だと言われていたからこのパーティーに来たものの、ランクは頭打ち。これなら別のパーティーに行った方がいいかもしれませんわ」

「おい、ミナミ何か言ったか?」

「いいえ、何でもありませんわ」


 勇者クリスのパーティーは重苦しい雰囲気に包まれていた。

 カミスの街に来るまでに食べた飯が格別にまずかったこともこの空気の一因だ。

 早くもリクを追放したことを後悔し始めていたが、誰もそのことを言わなかった。


 そして見つかった盗賊を連れて、Dランクダンジョン「樹海ダンジョン」に向かう一行。


「おい! 樹海ダンジョンは地面が柔らかくてぬかるんでいると何故言わなかった! 靴の替えはないのか!」


「そんなの、自己責任ですることでさあ。それに各自、環境に合わせて長靴を持つなんて当たり前のことでさあ」


「うるさい! 前のパーティーの雑用係は環境に合わせて、しっかりと替えを持ってきていたぞ。お前は雑用係だろ!」


「はあ? 盗賊を探していると聞いてパーティーに来たんでさあ」


「良いから、雑用係をしろ!」


 更には盗賊という割には罠の解除が遅い。

 否、リクの「ゴミ拾い」がチート過ぎたのだ・


 リクなら「ゴミ拾い」で罠ごと回収してしまえるが、盗賊にそんなスキルはないので手作業で解除しなければいけない。


「おい。盗賊、解除くらい数秒でやれ」

 聖騎士のオルキッドが肩を怒らせ、武器を突き付ける。

「ひい」


 盗賊はその雰囲気におびえて、罠の解除をミスしてしまう。

 そのため、樹海ダンジョンの道から大きな岩が転がってくる。

 五人は這う這うの体で腰を抜かしながら逃げ出す。


 リクやアナリスが見たら、腹を抱えて笑っていただろう。

 勇者パーティーとは思えないみっともなさだった。


「盗賊! お前は満足に罠も解除できないのか!」

「ひぃ。だってこの騎士の御仁がわっちを脅して……」

「言い訳はいい!」


 碌に樹海ダンジョンの攻略が進まず、夜になり、夜飯を食べることにした五人。

 三人は盗賊にテントの設営や、着替えの服を出させたりして何も動こうとしない。

 唯一、手伝いをしたのは魔法使いのサラのみ。


「あんたのとこのパーティーはいつもこんな、なんでさあ?」

「うん。前の雑用係の子が一人で文句も言わずに頑張ってた。追放されちゃったけど」

「最悪でさあ」


 ようやく夜飯を食べることにした一行。

「パンが硬すぎる! スープはないのか!」

「チーズや干し肉も硬すぎますわ。せめて煮込まないと」

「……飯がまずい」

「……」


 盗賊はイライラし始める。普通冒険者はこれを食べることが当たり前なのだ。

 それなのにサラしか手伝いに来ず、仕事以外の事もやらされる。

 飯がまずいなんてどうでもいいことだ。


 盗賊は我慢の限界に来ていた。


「へえ。そこまで言うんだったら、自分たちでもできますでさあ?」

「当たり前だ!」

「じゃあ、わっちはここで抜けさせてもらうでさあ。ああ、この事はギルドに報告させてもらいますわ」

「おい、何を言って!」


 盗賊は持たされていたアイテムを全て地面にたたきつけ、全力で樹海ダンジョンを駆け抜ける。幸い、未だ二層だったのですぐに抜けることができた。


 盗賊は冒険者ギルドに駆け込み、サラ以外の勇者パーティーの所業をギルドに報告する。冒険者同士のトラブルは基本口を挟まないが、盗賊を募集して、雑用係をさせるという悪質な手法が問題視された。


「これであいつらの評判は地に落ちたでさあ。あっ、前にいた雑用係はよくあんな奴らの世話してたでさあ」


 盗賊は顔見知りの冒険者を摑まえて、今日起きたことを話していく。

 ババロの街は田舎くさい、と聖女が言っていたと伝えるとババロの街に住んでいる冒険者や住人はイライラし始める。


 こうして、勇者パーティーの信頼は地に落ち始めるのであった。









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