入れ替わり
N氏が若さを手に入れるには、段階的に機械と身体を交換する必要があった。
そして、N氏はそれを行った。
N氏はたくさんのチューブに繋がれてベッドに横になっている。眠っている姿を傍から見ると彼は20歳といった様子だが、実年齢は80歳を超えている。彼の体のちょうど半分は機械に置き換わっている。眼球や腕、膀胱までも機械に置き換わった。
N氏の隣の病室にはN氏の老いた体と機械の体を交換したアンドロイドが眠っている。このアンドロイドは有名な博士が作ったもので、素晴らしいアンドロイドだった。しかし、問題が起きた。彼は自我を持ち、人類に反旗を翻した。世界各地でテロを起こしたが、彼は警察に捕まって射殺される事となった。そしてスクラップすんでの所で、N氏はそのアンドロイドを買い取り、新しい体にする事に決めたのだった。
私は各病室を周り、患者の様子を見て回った。どの患者も様態が良くなっていたが、N氏は未だ麻酔から覚めず眠っていた。少し私は焦りを覚えた。手術は無事に終わったが、何かボタンの掛け違いで目を覚まさなかったらどうすればいいだろう。私は一抹の不安を覚えながら次の病室に入った。
アンドロイドは目覚めていた。彼は上体を起こしてこちらをゆっくりと向いた。私は急いで病室から逃げ出すと、出口に向かいながらすぐに警察に電話した。電話口の警察は始めこそ事態を飲み込めていていなかったが、次第に緊急事態とわかったようで軍隊を要請すると言った。私が次にするべき事は?
私はアンドロイドの病室に戻った。少なくとも彼は積極的に人を殺める様なアンドロイドではない。彼なりの信念があり、それを行動に移しているだけだ。私は額に大粒の汗をかきながらこの凶悪アンドロイドに向き直った。
「自分がどこにいるか、わかりますか?」
「いや、頭がぼうっとする。」
私は彼のベッドの横にある椅子に腰を下ろして彼の手を握った。軍隊が来るまでもう少し時間を稼がなくてはいけない。私は汗をぬぐった。
「ここは病院です。貴方は手術をしたんですよ。」
「よくわからない。」
「何を覚えていますか?」
「ここは病院…。いや、段々意識がはっきりしてきたぞ。」
私はその言葉に総毛立つのを感じたが、その時、病室の外で幾つもの足音がした。病室の扉が勢いよく開けられるとライフルを持った軍人が姿を現し、私の隣にいるアンドロイドに銃口を突き付けた。
「何をしている! 私は…。」
アンドロイドは言い終わらぬうちに蜂の巣にされる事となった。
この事件が一通り終わると、N氏が無事か確かめに病室を訪れた。N氏はすでに目を覚ましているようだった。
「ここは?」
「ここは病院ですよ。手術は無事、成功しました。見違えるようですよ。」
「すまないが、何が何だがわからない。」
「あなたはアンチエイジングのために、あのアンドロイドと体を交換したんですよ。」
「なるほど。」
N氏は機械となった自分の腕をまじまじと眺めていた。それはどこか新しいものを見る時の目つきではなく、失ったものを懐かしむかのような目つきだった。
「まさに第二の人生という訳だ。」
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