第2話 南の森

学校帰りにスーパーで買い物して帰ろうとした時、突如現れた光に包まれて私は異世界へと召喚されてしまった。


ただ巻き込まれただけなのに、その上不当な扱いを受け王都を追放された。


これからどうしたらいいの…とは思わず、むしろ自由と家事が私の取り柄でもあるため、この状況は喜ばしいことだ。私を縛るものは何も無く、あの場で私が聖女と言われていたのなら、こんな自由な時間はなかったかもしれない。


不当な扱いがこんなに嬉しいとは。


にしても、失礼な殿下に反抗しようとした家臣らしき人は大丈夫なのかな?


最後まで申し訳なさそうな顔をして私を城門まで連れてきてくれたけど。でも、あんな殿下の元でも立派に育つ人がいるんだなぁと呑気に考えながら、私は王都から少し離れた森まで歩いて足を踏み入れた。


南門までご案内しますと言われたから、おそらくここは南の森。学校の行き帰りも買い出しも全て徒歩だったから、足と体力には割と自信がある。野外活動で山道を歩いたけど、運動部以外で私だけが息が上がってなかったくらいに。


つい最近のことなのにもう懐かしく感じてしまう。


にしても……



(空気が美味しい!!!)



都会生まれで都会育ち、都会住みだったから空気がこんなにも美味しいと感じることはもちろんなく、改めて空気のありがたさを感じる。


都会と言えばさっきまでいた王都もこの世界では都会の方なんだろうけど、あんな息詰まった場所より森の方が静かで空気が新鮮。


でも、本当にこれからどうしよう。お金も生きる術に大切な道具もないし…。


あ、召喚されたからにはステータス?みたいなのあるのかな?魔法とか。でも、どうやって見るか分からないから、とりあえず食料探しだ。


これでも家では料理担当だったから、食べられる野菜や木の実などは見分けられるほうだ。


仮に食べ物が見つかったとしても、寝る場所がないと不憫よね。


できることならどこか広い場所を見つけて、こんなに木があるのだから小屋でも建てたいぐらいだけど、それをする道具もない。何をするにしてもやっぱり道具は必要なんだなぁ。


仕方ない。もう少し歩き進めてまずは場所探しから始めよう。





森を歩き始めてどれくらい経ったかは分からない。スマホも腕時計もないなんて、なんて不便なんだろう…。


でも、何度だって言えるぐらいにこの森の空気は美味しくて癒される。家事以外に癒しができたのはいいことなのかもしれない。


そう思いながらもう少し歩き進めると、ひとつ他の草とは違う草がポツンと生えているのが視界に入った。



「これ…薬草かな?あ、あっちにもまた違う草!」



元の世界では草自体をあまりマジマジと見ることはなかったから、なんだか新鮮な気持ち。


気づけば私は夢中で草むらを掻き分けて、薬草らしきものを次々と採取していた。料理の食材探しのような感覚で、異世界の薬草採取をすっかり楽しんでいる。


楽しいことは時間が過ぎるのが早いと言うけれど、本当にその通りだと思う。


まあ、今が何時とかは分からないんだけど…。


植物図鑑とかあったら採取した薬草らしきものたちが、何の薬草か、どんな効果があるのか分かるのになぁ。


まあでも、この調子でいけば異世界生活も楽しめるし何とかなるかも。


なんて微笑みながら歩いていると、とんでもないものが視界に飛び込んできた。


そう、人の足である。



「あのー…大丈夫、ですか?」



近くによると男の人がうつ伏せで倒れていて、高そうな白いローブの裾が少し土で汚れている。このまま放置しておくのも可哀想だし、かと言ってどうして倒れてるかも分からない。


一応息はしてるみたいだけど、少し脈が弱ってる気がする。


とりあえずもう少し広いところに移動させようと、できる限り身体を持ち上げてさっき通ってきた時にあった広めの場所まで引きずっていく。



「ん?」



男の人を身体を持ち上げた時、ローブの内側から何かが落ちてきた。


一旦男の人を寝かせ、落ちたものを拾うと一口かじられたあとがあるきのこだった。見た目からしておそらく食べてはダメなんだろうけど、どうやらこの人は食べてしまったみたいだ。


一口と言ってもほんの一欠片みたいだし、試食して当たっちゃったってところなんだろうけど、当然解毒薬なんて持ち合わせていない。


とりあえず、もう少し空気がいいところに連れていかないと。



(ここら辺でいいかな)



男の人を引きずって、さっきより少し広い場所に連れてきた私は、そっと男の人を寝かせた。

ついでに私もひと休憩をするために、男の人の隣にゆっくりと腰を下ろした。


というか私、いつまで制服姿でいればいいんだろう。


多分もう一人のあの人は既に新しい服を貰ってるはず。しかもかなり高いやつに違いない。私なんてこの世界に巻き込まれただけの人間なのに、異国の服なんて着てたらますます怪しく思われそう。


もしこの人が目を覚ましたら、相談してみるのもありかもしれない。なんて思いながら男の人の額に手を乗せた瞬間、"ふわっ"と手のひらが光った。



「えっ……!?」



その光は優しくて温かくて、光が当たると男の人の表情はさっきよりだいぶ良くなって、ただ眠っているみたいだった。


このままずっとそばにいてもやることがないから、薬草らしきものたちを入れるカゴでも作ろうかな。木の枝と蔓だけでどこまで作れるか分からないけど、とりあえず材料取りに行こう。



「ん……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る