【カクコン11短編】ハネハエール(10包入り)

七月七日

第1話

「羽があったらなぁ」

 俺は、つい口に出していた事に自分でも驚いた。


 ああ、これは俺の本心だ。

 羽があったらどんなにいいだろう。


 まず、満員電車に乗らずに済む。あれは地獄だ。毎日毎日よく我慢出来てるもんだ。自分を褒めたいよ。


 今は冬だからまだいい。夏は最悪だ。オッサンの加齢臭、年寄りの老人臭、デブの汗の臭い、女のキツイ香水が周りから漂ってきて、俺の鼻の機能を狂わせる。


 近くに女がいたら、痴漢に間違われる恐れがある。何回か女に睨まれた事があるが、カバンをリュックに替えて前に背負い、いや背負いは違うのか?とにかく前リュックにして、両手は吊り革を持ってるから俺は無実だ。


 若い奴のイヤフォンから漏れて聞こえるシャカシャカ音。デブの鼻息。

 時々足を踏まれる。踏んだ奴は知らん顔。


 あの地獄のような三十分のせいで、俺のストレスは朝からマックスで、会社に着く前からもう帰りたくなってる。それが毎日だ!


 羽があったら、俺は空を飛んで会社に通うぞ!


 空からの景色はサイコーだろうな。地上の人間どもを見下ろして、誰にも邪魔されずにスイスイと何処へでも行く。


 彼女に逢いたくなった時も、羽があればすぐに飛んで行ける。


 彼女のマンションまでここから電車で二駅だが、羽があれば部屋着のまま飛んでも構わないだろ?マンションのベランダから入れてもらえば、すぐにイチャコラできるし。


 ああ、羽が欲しい!羽が生える薬とか、売ってないかな?




 アマ◯ンで検索してみたら、『ハネハエール(10包入り)』てのがヒットした。

 え、マジ? 嘘!


 ハネハエールってダジャレじゃん。まぁ、日本の薬の名前ってダジャレ多いからな。カロナールは鎮痛剤だし、ヨーデルは便秘薬だし。のどぬーるとかコムレケアとかサカムケアとか、挙げたらきりがないくらいあるよな。


 ただ、羽が生えるって、そんなの現実的じゃねぇよ。毛が生えるのとは訳が違う。元々遊び心で検索したんだし、まさかヒットするとは思わなかったし。


 三万六千円ってのも微妙だなぁ。三十六万だったら買わないし、三千六百円じゃ信用できねぇし。いや、本当に羽が生えるんなら三十六万でも安いか。


 先払いじゃないから、届いた品物を見てから払えばいい。

 俺は、ポチッと押してしまった。


第二話に続く

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