断罪は突然に!〜ロリコン王子を添えて〜

火猫

第1話 まさかの天啓

 魔法学園の広い講堂は、春の陽光に照らされてきらきらと輝いていた。


 入学式特有の緊張と期待が入り混じる空気の中、セシリア・マーモットは軽く深呼吸する。


 黒髪黒目、165センチの長身。

 曲線の豊かな体つきときつめの眼差しが相まって、同年代の女子からは「近寄りがたい美女」とささやかれる。


 だが実情は、溺愛する両親の下でぬくぬく育った箱入り娘である。


(今日から、学園生活か……王子妃教育も終わったし、あとは普通に過ごせればいいのだけれど)


 そんな風に考えていた時期もありました。


 二つ歳上である婚約者、第二王子のレイル様に会うべく彼のいる生徒会室に伺った時の事。


「殿下はお忙しく、学院内の取り仕切りをなさっておいでです。ですのでしばらくはお会い出来ないとの事です」

入り口にいた生徒会役員を名乗る方にすげなく断られました。


(デビュタントにはお会い出来るでしょう)

 この学院では5月に貴族子女のお披露目会を兼ねたデビュタントがあり、その日は学年問わずに出席します。


 ですからその日には会えるでしょう。


 …そう思っていました。




 その当日。


「セシリア・マーモット!!」


壇上から響いた怒声に、会場がざわめく。

呼ばれた名に驚き、セシリアは顔を上げた。


第二王子――レイル・ロイヤル。

幼い頃からの婚約者であるはずの男が、

高らかに宣言した。


「貴様との婚約を、この場で破棄する!!」


「……は?」


セシリアは素で声が漏れた。


「僕は、天啓を受けたのだ!」


何の天啓だよ?とこの場の全員が思った。


レイルの隣には小柄な少女がぴったり寄り添っている。


ピンクブロンドの髪。

幼児そのもののような小さな体と、ストンと平たい胸元。

身長は140センチほどだろうか。


伯爵令嬢スリムス・エレハント。

涙目でレイルの袖を握っている。


あっ、そう言う(ロリコンの)天啓ね。


会場は一気に騒然となった。

国王は苦虫を噛み潰したような顔。

王妃は扇をミシ、と音を立てるほど強く握りしめている。


(え、え? ちょっと待って。

 なんで今日、このタイミングで婚約破棄?)


戸惑うセシリアをよそに、レイルは言う。


「スリムスをいじめた罪! 魔法暴走もお前の仕業!このような悪女と婚約していては、僕の未来が台無しだ!」


「……そんな事実、ありませんけど」


「黙れ!僕は真実しか言わない!」


(いや、嘘しかついてないじゃない……)


セシリアは呆れすぎて怒りすら湧かない。

そんな彼女をかばう者が、会場後方から進み出た。


「弟よ。その言葉、証拠はあるのか?」


冷静な声。

黒髪の青年がゆっくりと壇上へ歩む。


第一王子、ハイル・ロイヤル。

レイルの双子の兄でもある。


「ハ、ハイル兄上!? なぜここに……!」


「デビュタントだからだ。お前を監視しにきたわけではない」


ハイルは淡々と言い、スリムスを一瞥する。

その瞬間、少女はビクリと肩を震わせた。


「スリムス嬢。あなたの証言は三日前の事件と矛盾している。あなたの言う“暴走魔法”は、あなた自身が誤作動させたものだ」


会場がざわめく。


ハイルはさらに続けた。


「レイル。王家の婚約者を、根拠なく誹謗したとなれば……」


レイルの顔が青ざめる。


「廃、廃嫡……?」


「当然だ」


扇がバキィッ!! と音を立てて折れた。

王妃の手の中で。


「あら、ごめんあそばせ。つい力が……」


誰もが気を失いかけた。


一方、セシリアはぽつりと呟く。


「……え、私、今日からどうなるんでしょう」


その疑問の答えは、まだ誰にもわからなかった。







✴︎ちなみに、第一王子のハイルは一年目の最終試験で卒業資格を獲得しています。

だから実質卒業しており、基本的に王室の仕事をこなしています。

セシリアはその事を知っています。

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