ゼロサムの運命

私の人生というの不可思議なもので、与えられた幸運の分、不幸が降り注ぐ。だから人前で向ける意外に笑顔は浮かべないし、過度な悦楽に縋る事も控えなければならない。


ある日の正午過ぎ、多くの人々が昼食を取るであろう時間に、俺達は純喫茶にいた。此処に連れて来た相方はやや落ち込んだ様に悄気返り、差し出される珈琲を大人しく待っていた。

「……あと一歩のところで足元掬われるの、お前らしいな」

「うっ……わかってるよ……もう」

彼奴が落ち込んでいるのは食べたかったスイーツが食べられ無かったからだ。連休の翌週という事で、予約無しでも入れると踏んでいたらしいが、訪れた先は『いっぱい』、だから第二プランとして、この行き付けの純喫茶が選ばれる事になった。

「うぅ……前にもあった……。平日限定ケーキが食べたくて行ってみたら、その時だけ何故か売ってなくてぇ……穴堀ケーキ食べたぁ……」

「SNSで確認しろってその後忠告したろ」

前の事も引き摺ってウジウジし易いのは、ある意味で此奴の欠点であり、利点てあった。失敗を忘れければ、同じ鉄は踏まないのだから。

鏡花は俺の話を聞いているのか居ないのか、適当に指先を弄ってそっぽを向いている。そして何気なく口を開いた。

「過剰な程に心が動くと、均衡を保つ為に不幸が降り注ぐ。私の人生小五からずっとこんなん。笑って道を間違えたら、ものすごい」

その言葉に惹かれ、俺は顔を上げる。しかし鏡花は此方の気を知ってか知らずか、指先を弄り続けている。

小五、まだ到底大人とは言えない程の年齢。まだ大人の囲いが必要な年齢。そんな時からこの世の理を受け入れるのはやや酷な話では無いだろうか。

それでも彼奴は受け入れて来たし、此処まで生きてきた。得体の知れない罰則と共にただ道を歩く。

「あの時宿題を忘れたのは必然なのか、偶然なのか、私にはよく分からない。ただ塾の先生はずっとイライラしていたね。そんなに嫌なら『次から忘れないで』で良いはずなのに」

そう言って届けられた珈琲を一口啜ったあと、僅かに眉間に皺を寄せた。

「ちょっと苦いかも」

「苦いの上等だろ」

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