記憶を失くした少女の生きる道
あまね
#001 記憶を失くした少女
山村あずかは九州のド田舎に住んでいた。あずかはまだ十四歳。真面目で可愛らしくて友達も多くて家族の 仲もいい。将来医者になりたいという夢を持っていて、その夢に向けて勉強を頑張っていた。
しかし、あずかはある日突然姿が消えた。家から歩いて二十分ほどの林で散歩をしている姿を見られたのが最後だった。
・・・・・・
・・・
・
私はふと目が覚めた。窓の外を見ると、外はまだ暗い。
「ふあぁぁぁ~~~」
あくびをしながら、起きて背伸びすると、窓を開ける
「みんなおはよう〜」
私は毎日のように窓際にいるリスちゃんたちと鳥ちゃんたちに挨拶する。この子たちが『チュッチュッ』などと私に可愛く鳴き、挨拶を返してくれた。
私はベッドから降り、軽く体操をして顔を洗ってから小屋を出た。
「みんなおはよう〜」と、今回は小屋の前で私を待っているブランちゃんという大きくて真っ黒な熊ちゃんと三匹の鹿ちゃんに挨拶し、一緒に川まで歩いて水を汲みにいく。
私の名前はリーマ・クーリッジ。デリュキュース国の西部にある『西の辺境村』のものすごく小さな村の小屋でクレスおじいちゃんと一緒に暮らしている。
私の朝は早い。
毎日日が昇る前に目覚め、その日一日分の準備をしなければならない。
この小屋に暮らし始めた時、私は早起きができず、何度もおじいちゃんに叩き起こされて、無理矢理早起きを身につけさせられたのだ。
三年前のある時、外が真っ暗で、「起きろ!夜まで寝るつもりか!」とおじいちゃんに叩き起こされたことがあった。
私は目覚めて外が真っ暗だったから本気でもう夜だと思い込んでしまい、ベッドから飛び降りておじいちゃんに深々と頭を下げ謝った。
「夜まで寝ちゃってごめん!すぐ晩ご飯を作るよ!」と私は必死に謝って顔を洗いに行って、食材を準備して、晩ご飯を作った。
おじいちゃんがキョトンとして笑いを我慢していたよね、あの時。様子がおかしいなと思ったよ。私が夜まで寝たからぷんぷん怒っているんだと勘違いしたよ。
そして日が昇り、きれいな輝かしい太陽をボーっと見た私を見て、おじいちゃんが狂ったように爆笑した。
そんな大爆笑したおじいちゃんを見た他の村の人たちがおじいちゃんに私の出来立ての歴史を聞かされ、他の村の人たちも私に微塵も遠慮もせず大爆笑した。あの日、一日中おじいちゃんを拗ねた。
そんなこんなで鍛えられるうちに、いつの間にか早起きが身につき、空が明るくなる前に目が覚めるようになった。
私はえらいのだ。
この水汲みは私の早朝の日課の一つ。最初は一人でやって、十周以上で川と小屋を行き来していた。ものすごく疲れた。朝ご飯を食べるとまた眠ってしまうくらいものすごく疲れた。両手で重い二つのバケツを十周以上歩き運ばなければいけなかったからだ。
でも今はお手伝いさんのブランちゃんと鹿ちゃんたちがいるから、四周ぐらいで終わる。私がバケツを一つ持ち、ブランちゃんがバケツを二つ持ち、三匹の鹿ちゃんがバケツ四つ載せた台車を引っ張ってくれる。すごく助かるから、朝食後の仮眠もなくなった。
水汲みの仕事は重労働だから、私はおじいちゃんにはさせない。おじいちゃんはもう六十三歳だから、お年寄りに重い水のバケツを運ばせられないし、おじいちゃんにたくさん休んでほしい、と私がそんなことをおじいちゃんに話したら、ちょっと文句を言われた。
「おまえ、わしを老人扱いするな。私は二十年間ずっと自分で水を汲んでいたぞ」
「何を言っているの?二十年前だとおじいちゃんはまだ四十歳ぐらいだったでしょう?でも今はもう六十三歳でしょう?もう老人でしょう?膝に負担をかけすぎちゃダメだよ?ギックリ腰になったりしたらもっと大変だよ?意地っ張りしないでよ、おじいちゃん」
「老人ってはっきり言うな!貫禄があるって言え!わしの膝とか腰とかおまえが心配することじゃない!ぎっくり腰になったこともないわ!六十三歳を舐めるな!自分でもできるわ、水汲みぐらい!」
おじいちゃんはいきなり怒鳴った。私の言葉が心に刺さったようだ。
「はいはい、わかったわかった。じゃ私ができない日はおじいちゃんがやってね。私ができる日は私がやるよ」
そんな日は来ないと思うけどね。私はおじいちゃんが大好きだから、こんな重労働作業をおじいちゃんにはさせないよ。
「はいも、わかったも、一回で言いなさい。うるさがられているみたいじゃないか」
「はいはい、わかったからわかったから」
「まったく、おまえは」
私はおじいちゃんに老人とかギックリ腰とかちょびっと失礼なことを言ったけれど、おじいちゃんの体格はしっかりしていて筋肉質で力強い。白髪混じりの髪と髭だけど、見た目では六十三歳に見えず、四十歳だと言っても誰にも疑われないぐらい若くカッコよく見えるのだ。そんなおじいちゃんに対して、確かに私は心配しすぎかもしれない。でも六十三歳は六十三歳だから、おじいちゃんは六十三歳らしく休んでくれればいいのだ。
私は川に着くと水を汲み、川面に映る自分を見て寝癖を直して自分を観察してついでに髪の毛を軽く整える。
黒目、黒髪。目がくりくりしていて鼻筋が奇麗に通っている、と村の人たちがいつも私をそう褒めてくれる。
私はよく村のおじいちゃんおばあちゃんに『ますます奇麗だね~』とか『美人さんだわ』とか褒められるけれど、村で私が一番年下だから、恐らく私が自分の姪っ子でも娘でもと思ってそんな風に褒めてくれると思う。でも褒められると嬉しいし照れる。私は本当に美人さんかな〜。気になるね〜。えへへ〜。
今日の水汲みが終わると、朝ご飯の時間までまだ時間があるから、薪の準備もしておいた。鹿ちゃんたちが森に戻り、ブランちゃんが村の近くへ朝ご飯を探しに行く。私は小屋で朝ご飯を作る。
「おじいちゃん、おはよう。朝ごはんができたよ〜。顔を洗ったら一緒にご飯を食べよう~」
おじいちゃんは自分の朝の日課の薬草畑の土いじりから小屋に戻り、私はおじいちゃんにいつも通り元気よく挨拶する。
「リーマおはよう。ちょってまってな」
「ブランちゃんと鹿ちゃんは今日も水を汲むのを手伝ってくれたんだ〜。なんか今日いつもより早く終わっちゃって薪まで準備も終わっちゃったよ」
「そうか。なぜブラックベアとフォレストディアがおまえの言うことを聞くのか不思議でならんな」
「そこはやはり・・・・・・私が天才なんだろうね~ふふふ~」
「ふーん、そうかもしれんな。ブラックベアは凶暴だよ。人間の言うことなんか聞かないんだよ普通」
「そう?すごくお利口で可愛い熊ちゃんだよ~」
「フォレストディアだって人間嫌いで絶対に人間に懐かない動物だ」
「そう?いつもデレデレしてお手伝いしてくれて優しい鹿ちゃんだよ~」
「そう思うのがお前だけだろうな」と毎朝こんな他愛無い話をする。
今日もいつも通り平和だね。
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