第27話 リフレッシュ

「よし。色々分かったから現状把握をしよう。木渡さんも呼んで会議だ」


「いや。寝なさいって」

 有川さんから軽いチョップをもらう。

 不思議なほど痛くない。


「今日1日の自分の疲労を考えなよ。元ホストをこの部屋に通したら姫さんに取り憑かれて辛い記憶を見せられた。それだけじゃ飽き足らず情報のために今度は意図的に異空間にダイブした。ここでガッツリ休んどがないと倒れちゃうよ」

 んなもん関係ないと言い返そうとしたが、有川さんの表情が思ったよりガチだ。


 パートナーが、真剣にこちらの身を案じてくれているんだ。お言葉中甘えて、少し休憩させてもらうか。

 その場に横になったが、脳と目が冴えてとても眠れそうにない。


「全然寝れん。どうしよう」


「えー……。じゃあ、リフレッシュしてみたら? なんかあるでしょう? 音楽を聴くとか本を読むとか」


「無い」


「即答……」

 やめろ。可哀想な奴を見るな。


 だって、仕方がないだろう。優弥がいなくなってからの俺の人生は、ただ漫然と生きていたのが半分で、後の半分は優弥を追うことに集中していたから娯楽と呼べるものに長らく接していないのだから。


「有川さんのリフレッシュ方法を教えてくれ。参考にする」


「……」


「……」

 気まずい沈黙が流れる。


 考えてみれば有川さんも遊びが得意なヒトというわけではない。

 俺に負けないくらいに暗い過去を持った彼女は、失礼を承知して言うと陰キャだ。


 大学でも木渡さんしか友達がいないし……。

 ん? 木渡さん?

 あのギャルなら、そういうのに詳しいのではないだろうか。

 よし。あのヒトを呼ぶか。


「木渡さんに頼ろう」


「きーちゃんに来てもらいましょう」

 俺と有川さんは、ほぼ同時に言う。

 同じことを考えていたことが妙にくすぐったく、互いにヘラヘラしてしまった。




<あ! じゃあ、丁度観たい映画があったから一緒に行こうか!>

 木渡さんにリフレッシュのやり方を教えてくれというメッセージを送ってから3分もしないウチに返信がきた。


 真の陽キャラは異常に連絡が早い。

 せっかく案を出してくれたのに申し訳ないが、映画はあまり気乗りしなかった。

 常日頃からホンモノと渡り合っている俺達が、果たしてニセモノを楽しめるだろうか。


<新人の監督さんなんだけどね、なんとあのアンリー・ガードナーも認めてるらしいんだよ!>

 どのアンリー・ガードナーを知らないから、それがどれだけ凄いことなのか分からなかったが、木渡さんの熱は伝わってきた。

 考えてみれば、木渡さんはホンモノの幽霊と同居している。そんな女が面白いと言うなら説得力はあるのか。


<分かった。それを観に行こう>

 このまま何をするか迷い続けるよりは、よっぽど良いと俺は了承した。




「何? 今はスマホでチケットが取れるのか?」


「あはは。先生情弱ー。ねぇ、有川ちゃん」


「え? あ。そうね」

 近くの映画館前で合流してから開口一番で「3人分予約しておいたから」と言われて、最初は何を言っているのか分からなかった。

 映画のチケットってのは販売機に並んで取るもんじゃないのか? と。


 その疑問をぶつけたら情弱扱いされた。別にいいが有川さんよ。その口ぶりだとアンタも知らなかっただろう。


「先生が最後に観た映画って何よ?」

 木渡さんからの質問に、記憶を掘り起こす。


「……ドラ⚪︎もん」


「お。いいね。最近のやつ?」

 馬鹿にされると思ったが、意外にも好感触。やらひドラ⚪︎もんは偉大なり。


「いや。のぶ代時代」


「おー。私はわさび時代からだからなぁ。でも、サブスクでのぶ代さん時代も観てるよ。有川ちゃんはドラえもんの映画みたことある?」


「あ。うん。えっと……ド⚪︎えもんね? うん。知ってるよ。青くて丸い可愛いやつだよね?」


「「……」」

 木渡さんと俺は目を合わせる。


 もしかして、日本1有名と言っても過言ではないあの作品を読んだことも観たこともない?

 俺もヒトのことは言えないが、結構な衝撃だった。


「……有川ちゃん。今度私の部屋でドラえもん観ようか。日本誕生とか面白いよ」


「う、うん。楽しみ」

 是非とも俺も混ざりたかったが、女子同士の方が気やすいだろうと黙っていた。


「センセーも一緒に観ましょう」

 しかし、そんな気遣いを知らない有川さんが言う。


「え。あぁ……木渡さんが良ければ」

 どうやら、場所は木渡さんの自宅らしいので、家主の顔色を伺う。


「別にいいですよー」

 一応、俺も男ってことを忘れていないだろうか。

 まぁ、この2人に欲情を抱くことはあり得ないから大丈夫なんだけどな。

 

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