第16話 放課後の密談
放課後。
校門を出たところで僕は足を止めた。
「どうしたんだ?」
「早く帰るんだなぁ」
前を歩く圭太と良司が振り返った。
「ごめん。
教室に体操着を忘れたから
取ってくるよ。
2人は先に帰ってていいよ」
僕はそう告げると
走って校舎に引き返した。
2階へ上がり教室のドアを開こうとして、
僕は咄嗟に手を止めた。
「ま、真面目に掃除をしてよ・・」
「はぁ?
誰に向かって口を利いてるの?
あたしはあんたみたいな
卑しい身分の人間が
容易く話しかけていいような
人間じゃないの」
声の主は小林と円だった。
僕は聞き耳を立てた。
「い、何時までも女王様気取りは、
や、やめろよ・・。
こ、これまでは・・。
つ、妻鳥さんが、
み、身代わりになってくれてたから、
お、お前は奴隷にならずに、
す、済んでただけだ。
し、知ってるんだぞ。
お、お前が・・。
く、久瑠さんと雲泥さんに命じて、
つ、妻鳥さんを奴隷にするために
そ、組織票を入れ続けてたことを!」
「はぁ?
何の証拠があるの?
そんなことより。
あたしも知ってるのよ。
あんたがあの日、
屋上であの子と会ってたことを。
あんた。
あの子のことが
好きだったんでしょう?
残念ながらあの子にはそんな気は
まったくなかったようだけど。
あっはっはっは」
「ふ、ふざけるなっ!
お、お前の戯言は聞きたくない!
お、お前が妻鳥さんを・・。
い、イジメて・・。
そ、それで彼女は・・」
「ちょっと!
こっちに来ないでよ!
キモいのよ、あんた!」
円の怒号と共に目の前のドアが開いた。
「な、何よ・・盗み聞き?」
顔を真っ赤にした円の鋭い視線に
僕はたまらず後ずさった。
「ち、違うよ。
忘れ物を取りに・・」
「ふんッ!」
円は僕の言い訳を最後まで聞くことなく、
頬を膨らませて廊下を駆けていった。
教室を覗くと、
小林が肩で大きく息をしていた。
「あ、ありがとう。
て、手伝ってくれて」
校舎を出たところで小林が呟いた。
「別に。
お礼を言われるようなことでも
ないけどさ」
結局あの後、
1人で掃除をしている小林を
不憫に思った僕は、
一緒に教室の掃除をしたのだ。
「と、冬至くんは・・
ど、どう思う?」
ふいに小林がそんなことを口にした。
僕は言葉の意味がわからず首を傾げた。
「つ、妻鳥さんのこと・・。
さ、さっきの会話を、
き、聞いてたんだよね?」
前髪に隠れていたものの、
黒縁眼鏡の奥の目が
真っ直ぐに僕を捉えているのが
その雰囲気からわかった。
「どうって言われても・・」
僕は頭を掻いた。
「つ、妻鳥さんは
ほ、本当に自殺したと思う・・?」
僕は大きく息を吸って
小林を正面から見据えた。
「・・警察はそう断定した。
それとも小林は何か知ってるの?
そう言えば・・」
「う、ううん。
ご、ごめん・・変なことを聞いて。
き、今日はありがとう」
小林は僕の言葉を遮って早口でそう言うと
駆け足で去っていった。
僕は小さく息を吐き出してから
歩き出した。
校門に差し掛かったところで
僕は一度立ち止まって振り向いた。
校舎の向こうには
マゼンタ色に染まった空が広がっていた。
その時。
屋上に佇んでいる人影が見えた。
僕は軽く頭を振った。
ふたたび屋上に視線を向けると、
その人影は消えていた。
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