第8話 『ギロチン処刑殺人事件』

僕は鍵を開けて302号室に入った。

奥へ向かって真っ直ぐ廊下が伸びていた。

廊下の左右にドアが2つずつ並んでいて、

手前の右側が僕の部屋、

左側が兄の白露の部屋だった。

そして僕の部屋の隣がトイレで、

白露の隣の部屋は

洗面所と風呂になっていた。

廊下の突き当りにある

リビングキッチンのドアは閉まっていた。


僕は部屋に入ると

机の上のパソコンの電源を入れてから

服を着替えた。

それから机に座って

「はぁ」と1つ大きな溜息を吐いた。

父はなぜあの親子を

202号室に住まわせることにしたのか。

きっと幻夜は勉強机や本棚の揃っている

立夏の部屋を使うだろう。

それが何を意味するのか・・。

僕の心の中で小さな不安が芽生えた。


僕は頭を振ってからマウスを握った。

そして検索サイトを開いた。

ニュース欄の見出しの中に

「死刑執行人と

 現代に蘇るアンリ・サンソン」

という文字を見つけた僕は

その記事をクリックした。


記事の内容は数年前から続いている

連続猟奇殺人事件に関するものだった。

この事件は

宿禰市、稲置市、臣市、真人市、連市の

5つの都市にまたがって起こっていて

これまでにわかっているだけで

13人が殺害されていた。

被害者は全員男性。

年齢は15歳から80歳までとバラバラ。

遺体はすべて首を切り落とされていて、

その頭部は持ち去られていた。

そのことから事件は

『ギロチン処刑殺人事件』

と呼ばれていた。

持ち去られた頭部は

見つかっていなかったが、

体格や指紋、

行方不明者の照会などから

被害者13人の身元は全員判明していた。

さらに。

残された胴体からは

ほぼすべての血液が抜かれていて、

中にはミイラのように

干からびたモノまであった。

この点において警察は

「被害者達は別の場所で殺されて

 首を切断された後で、

 胴体だけが発見場所に運ばれた」

との見解を示していたが、

どちらにせよ

犯人がなぜそんな面倒なことをしたのか、

その理由は不明だった。


そして。

13番目の犠牲者に

真人市長の松平守が選ばれたことは

人々の記憶に新しかった。

半年前の12月25日の金曜日。

クリスマスの早朝。

真人市役所の裏手を流れる清原川の川岸に

投げ捨てられていた首なし死体を

ジョギング中のカップルが発見した。

当時。

松平は疑惑の市長として

世間を騒がせていた。

7年前に40億円という

巨額の税金を投じて真人市の山奥に

『森の泉博物館』

の建設を強行したものの、

その交通の不便さや

博物館としての魅力に欠けることから

開館当初から入場者は減少の一途を辿り、

わずか5年で休館となった。

そして昨年。

ついに経営破綻が明確化し、

松平の弟が経営する学校法人

『松平学園』に僅か2億円で売却された。

このことが週刊誌に掲載されると、

松平市長の退陣を要求する

市民の声が高まった。

その最中の出来事だった。

それ故に。

殺された松平に対する世間の声は

「自業自得」

「税金を使い私欲を肥やす豚は

 死んで当然」

などとその死を肯定するかのような意見が

多くみられた。


さらに。

松平の死から3か月後。

別の週刊誌により

他の被害者達が過去に何らかの

犯罪に関わっていたことが

明らかになった。

彼らの中にはその罪を償った者もいたが、

中にはその理由が明かされないまま

不起訴になっていたり、

証拠不十分で釈放された者もいた。

また少年法により守られた者もいた。

この記事が出たことによって世間では

殺人犯を擁護する声が

さらに増えていった。

そしてネットでは殺人犯のことを

『死刑執行人』

『アンリ・サンソンの末裔』

と呼んである種のダークヒーローとして

扱う者達まで現れていた。

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