第49話 新たなオリジンの使い手

「こ、これがオリジン。うん。分かる。アビリティとかスキルとは全然違う。私の・・・。私だけの力なんだ」

「うん。これ、ちょっとおもしろいね」


 アイカとカイトはワクワクしているようだ。


 一方で、アシェリとフジノは不満げな様子だ。


「オリジンってやっぱりアビリティやスキルよりずいぶん使い勝手が悪そうね」

「うわ。魔力が全然まとまんないし、発動させるだけで一苦労じゃない。 どうすんの? ねえ、パメラ?」


 不満を口にする2人に対し、パメラは感無量のようだった。「植草先生と、同じ力!」と涙ぐんでいる。


 ちなみにアキミはうつむいたままだ。青い顔をして何かを考えこんでいる。


「よし、改めて説明するぞ。ワシの今までの研究成果だがな。オリジンは新しいことができるわけではない。今ある能力を強化するだけだ」

「えっと。私はオリジンでアビリティを再現しているんですけど。これは力の強化とは違いますよね? 日本にいたときは魔法なんて使えなかったし」


 手を上げたのはサナだった。アキミを心配そうに見ていたが、イゾウの言葉に思わずと言った感じで口をはさんだ。


「うむ! しかし、アビリティを使ったとはいえ、お前が成し遂げたのには変わりない。アビリティやスキルが何にせよ、模倣することも難しくはないということだな」

「模倣、ですか?」


 強烈なファン、もといパメラがそう漏らした。


「そうだ。模倣は何も悪いことではない。すべての道は模倣から始まる。ワシとて最初は模倣から始まった。先達の技を見て、あのようになりたいとな」

「さすがです! 先生!」


 パメラが嬉しそうに追従する。魔線組の新人たちだけでなく、聖女とアシェリもドン引きだ。パメラ自身はやけにキラキラした目でイゾウを見つめている。


「事実、お前はアビリティをうまく模倣できておるではないか。それはオリジンで再現できることの証しよ」

「私の場合は髪が乱れるのが嫌だっただけですけどね。威力も起動までの時間も全然かなわないし。スキルに至っては発動にすら失敗してる」


 サナが髪をかき上げた。コロは楽しそうな目でサナを見つめている。


「オリジンはアビリティやスキル以上に各々の資質がものをいう。相性の悪い技は作り出すことできぬ。ワシの場合も技の強化以外はろくなことができなんだ。アビリティやスキルの模倣も、な。長い間それらを使ってこんかったことが仇になったようなのだ」

「そんな! 先生!」


 落ち込むイゾウに、パメラが手を伸ばした。イゾウが気にするなと言った具合に微笑むと、パメラは感動した様子だった。


「ま、ともかく、オリジンとはあくまでワシらの可能性の延長でしかない。スキルを模倣するにせよ、自分の力を強化するにせよ、お主らが独自に考えるとよい。自分に合った方法を」

「がう!」


 遮るように手を上げたのはアオだった。


「がう! がうがう!」

「ん? どうした? 何か異論でもあるのかの?」


 アオは思い出していたのだ。アゲハのことを。


 アゲハは、自分の魔力でトンボを作り出していた。あれもオリジンなのだとしたら、オリジンで生物を模倣することも可能なのではないか。


「うん? さすがにワシにはアオが何を言いたいのかは具体的に分からんの」

「アオは、オリジンには生物を模倣する能力もあるって言ってる。夢で会った女の子がトンボを作り出したって」


 困っているとアキミが翻訳してくれた。反応してくれたことに安心したけど、やっぱり声に抑揚がない。本格的に落ち込んでいるようだ。


「夢、ですか? えっと、それはどういう」

「ほう。あの少女たちがそれを見せたのか。ならば信ぴょう性もあるかもしれんの。だが、それはその少女が思い入れのある生き物だったのではないか?」


 聖女であるケイは、イゾウの言葉にも懐疑的なようだ。


「こちらにもいろいろあるわけだ。でもアオの夢は信じるに足るものだ。その少女の言葉にもな。まあ、詳しく説明するには時間が必要だがの」

「ああ! イゾウ様がそう言うなら信じます! 植草先生のお言葉なら、何時間でもお聞きいたしますので!」


 笑顔で言うパメラに、イゾウすらも気圧されたようだった。イゾウはパメラのワクワクする目を見て溜息を吐いた。


「これはしっかり話すまでは納得せぬな。ワシはここに残ってしばらくオリジンの指導をせねばならぬ。アオも街には行けぬだろう? シュウとアキミは、その間に買い物を済ませておくように」

「・・・。うん。そうだね。買い物は私が言い出したんだから、私が行かないとね」


 やはりアキミの声に元気がなくて、アオは心配になってしまう。シュウはサナをちらりと見た。サナは心得たもので頷きを返した。


「じゃあ、私も行こうかな。久しぶりにアキミと一緒にショッピングをしたいしね」

「そうですね。私もお邪魔してよろしいでしょうか。私も女ですし、少しはアキミさんのお役に立てると思いますよ」


 サナだけではく、ケイもそう言ってくれた。アキミの様子にほおっておけないものを感じたらしい。


「なんだよ。女二人がついてくるってか? 俺も男一人だと気まずいな」

「そうだな。護衛としてはシュウだけでは不安があるの。コロ。すまぬがお嬢の買い物に付き合ってはもらえぬか。ワシはもう少し、オリジンについての指導をやっておきたい」


 イゾウの言葉に驚いた様子のコロ。しかしイゾウは優しく微笑んでいた。


「こ奴はの。見ての通り力が強いし、まあ武術の心得はある。シュウなどよりよっぽど頼りになる」

「まあ、大将に比べられると、俺じゃあちょっと力不足だわな」


 シュウにまで言われ、コロは戸惑ったようにきょろきょろしている。


「先生・・・。でも僕は第1形態で」

「形態など関係ない。お主は十分によくやってくれている。アキミやサナ嬢の護衛も安心して任せられる。無論、聖女もな。時間は、明日の昼頃でよいか。それまで、しっかり護衛するように」


 戸惑いながら頷くコロ。一方でいきり立ったのがアシェリだった。


「じゃあ私もケイについていこう。やっぱりケイの護衛をほったらかすのは不安だし」

「ううん。私は大丈夫。コロさんやシュウさんもいるしね。それよりも、アシェリは植草先生の言葉をしっかり聞いてほしい。その、パメラはいつもより興奮しているみたいだし。あとで私にもオリジンのことを教えてほしいのよ」


 ケイがいうと、アシェリが悔しそうな目でパメラを見た。興奮冷めやらぬパメラは異様にキラキラした目でイゾウを見上げている。


「た、確かに今のパメラだけに任せるのは不安だけど、でも!」

「大丈夫。街に行くだけだから。あそこは衛兵もいるし、危険は少ないと思う。頼りになる護衛もいることだしね」


 ケイに言われ、ますます緊張するコロ。ケイといられないのは残念だけど、正直アキミの様子は心配だった。彼女が信頼する聖川先生に同行してもらえるとなると、アオとしても安心できる。


「それではコロ。街では頼んだぞ。ワシはお前たちが戻るまでオリジンの指導をお済ませておくからの」

「は、はい! 先生にまでそう言っていただけると緊張するな。僕、頑張ります! 必ず彼女たちを無事に送り届けて見せますから!」

「ま、俺としても大将が来てくれると安心だし。ちょっくら行ってくるわ。爺さんたちもしっかりやれよ」


 シュウに憎まれ口を叩かれて、あきれたように手を振ったイゾウだった。


 こうしてアオたちは、2手に分かれて行動することになったのだった。

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