第32話 魔線組の闇2
「お前たちもどうだ? せっかくスキルを手にしたのに力をつける前に死ぬようでは馬鹿らしいだろう? 俺たちが力の使い方を教えてやる。だから」
「やめろレンジ!」
さらに勧誘しようとするレンジを、なんとか止めるオミ。2人に微妙な空気が流れているのを感じ、アオはごくりと喉を鳴らしてしまう。
「止めるか、オミ。スキルを取った後の新人のことを東雲さんも気にしていた。せっかく強くなるチャンスを得たのに、道半ばで死んじまうのはかわいそうだってな。だからこそ俺たちが」
「こんなやり方は感心せん。あいつらの不安にかこつけて勧誘しようなんてな。自分の道は自分で決めるべきだ。訳の分からんままに道を決めてしまっては後悔するだろう。そんな真似、俺は認めん」
「俺は!」
オミの言葉を遮ったのはミナトだった。
「俺は、その人たちと行く! せっかくスキルを取ったのに死んじまうなんて御免だ。俺は強くならなきゃいけねえ! スラムの死んだような奴らと一緒にされてたまるかよ! 強くなって、誰よりも強くなって俺の力を認めさせてやる!」
「そ、そうだ! せっかくスキルをゲットしたのに死んじまうなんてもったいないことできるかよ! 魔線組じゃあスキルの鍛え方も知ってるんだろ? だったら!」
「私だって魔線組に行ける! 私だってできるってことを証明しなければなんないのよ!」
ミナトだけじゃない。周りにいた2人もレンジについていくようだった。
「待て! よく考えて・・・」
「いいじゃねえか。本人が来たいってんだからよ。個人の意思を尊重するのはお前のやり口だっただろう? なあ、オミよ」
3人を止めるオミを、嘲笑を持って遮るレンジ。口元が笑っていて、楽しそうな雰囲気を感じる。
「他の3人もどうだ? 今なら特別にお前たちの育成に力を貸してやってもいいぜ」
「ぼ、僕も・・・」
残りの3人は迷っているようだ。特に、内気そうなカイト少年はレンジについていきそうだったが・・・。
一人の少女がカイト少年の前に素早く躍り出た。
「私たちは、もう少し考えます。もともとスキルを得られるだけでこの場で将来のことを決めなきゃいけないってわけじゃないですし。すぐに結論は出せません。それくらい、魔線組は待ってくれますよね?」
強気に言い返したのはアイカだった。これまでにないくらいの強い目でレンジを睨んでいる。ヨースケは意外なものを見たようだが、それでも楽しそうに笑った。
「もちろんさ。存分に考えると言い。だが、チャンスというヤツはいつまでも転がっているわけじゃない。今日より明日のほうが困難になることもある」
「それでも。私たちの将来のことだからちゃんと考えたいんです。勢いだけで決めるようなことはしたくない。そうでしょ?」
アイカにそう言われ、カイト少年は操られるようにこくこくと頷いた。レンジは不機嫌そうだがヨースケは本格的に楽しそうだ。そんな彼を見てヤヨイが溜息を吐いていた。
「ちっ。・・・。おい! その3人は俺たちと来るんで良いんだな!」
「あ、ああ! せっかくスキルを取ったのに死んじまうなんてありえないからな! 俺は、あんたたちと行く!」
「わ、私も行く! 誰にも邪魔できない強さを手にして見せるから!」
そういうと、レンジはヨースケ達と3人を連れて街へと帰っていった。テツオも「ふん」と言って彼らについていく。その後姿を、オミが睨むように見つめていたのが印象的だった。
◆◆◆◆
「オミ。どういうことだ? お前ら魔線組の手先にするために新人たちを勧誘したのか?」
「シュウさん! 違うよ! あたしたちは本当に街の人たちを思って! 組の手先を増やすことが目的じゃなかったのに!」
アキミが必死で言い訳するが、シュウの顔色は変わらない。鋭い目でオミを睨みつけている。
「俺たちはな。お前が街を助けるためって言ったから協力したんだ。だがなんだこれは。これじゃあ、魔線組の手先を増やすために協力したみたいじゃねえか」
「そうだな。俺の読み違えだった。まさかヨースケまでが加担するとは思わなくてな」
ヨースケの名を出したオミ。確かに、あのヨースケと言う男は異様な雰囲気を纏っていた。彼が全身から出していた雰囲気も気になる。気のせいか、あの男が現れたせいでアキミやシュウの発言が目に見えて減っていた気がする。
「ヨースケ、か。あいつも、魔線組の精鋭部隊を率いている隊長なんだな」
「ええ。あいつ事態も腕っぷしが強いけど、それだけじゃない。私たち以上に連携が取れていると言われているわ。その理由はあいつのアビリティよ。なにせ、あいつの手にかかれば人間を簡単に誘導できるんだから。さっきのようにね」
サナの嫌悪交じりの声に思わず振り向いた。
「あいつのアビリティは『感情誘導』。一から思想を作り出せるわけじゃない。でも、もともとの感情を大きくすることができる。もしかしたら新人たちにあったスキルを育てることの不安や見下された時の悔しさを際立たせて、あいつらの思うように行動させたのかもね」
「あのアビリティ、かなり厄介かも。あたしも口を挟もうとしてたのに何にも言えなかったもん。もしかしたらあのアビリティは私たちの言動を遮る効果もあったんだと思う」
アキミの説明にシュウは納得したように何度もうなずいている。
「だが、確かに多いんだ。有効なアビリティを持っていたのに早々と死んじまった奴はな。成長する前に命を落とすケースが少なくないのは有名な話さ。その不安を突かれた感じだな。それにしても、お前らはよくアイツらについていかなかったな」
「え? いや、僕と言うよりアイカちゃんが」
そういうと、カイト少年はアイカを振り向いた。なにかを考え込んでいたアイカはみんなの視線に気づくと慌てて手を振った。
「い、いえ。なんかあのレンジって人、あからさまにあやしかったし。というか、なんでみんなあんなチンピラみたいな人の言うことを聞くんだろうって疑問に思ってました。そっか。ああいうアビリティもあるのね」
「アイカ。相変わらずね。ま、今回もそれで助かったことだし。それよりも、どうする? スキルを鍛えなきゃなのは私たちにも言えることだけど、あのレンジって人は怪しいよね?」
新人の一人、フジノの言葉はもっともだった。
確かに、スキルを鍛えるのは必須だろう。見た感じ、探索者達と新人の戦力には随分と差があるように感じる。スキルを得たとはいえ、彼らがその力を発揮するにはまだまだ時が必要だと思う。
「で、どうするつもり? レンジってチンピラは信用できないけど、私たちが訓練する必要があるのは同じよね?」
「うーん。私は・・・。オミさん。力を貸してくれますか? 私たち、ちゃんと戦えるようになりたいんです」
アイカの発言に、全員が驚いた。
「ア、アイカちゃん。オミさんも魔線組の人なんだけど」
「もう。カイトくん。魔線組とか正同命会とか、それだけで人を判断したらダメだよ。ちゃんと人を見ないと。オミさんは魔線組でも信頼できる。この人なら、魔線組の利益に囚われずに私たちを鍛えてくれると思うから」
アイカの言葉にカイトはバツの悪そうな顔をした。アキミまでもが視線を反らしている。
「ま、いいだろう。だが、俺たちが力を貸す代わりにお前たちにも働いてもらうぞ。なにせ、俺のパーティは割れちまったからな。あの分じゃあ、レンジとテツオはこっちに戻ってくる気はなさそうだしな」
「はい! やった! カイトくん、フジノちゃん! うまくいったみたい!」
認められた3人はわあわあと騒いでいる。
「おおう。レンジとテツオが抜けた代わりに3人の新人たちが加わるのか。これはアキミさんも忙しくなりそうだね。6人超えちゃうけど、それは何とかするのかな?」
「いや。新人たちの育成は俺とサナとサトシでやる。お前には別に頼みたいことがある」
オミがタバコをふかすと、アキミが焦ったように反論した。
「あ、あたし! 役に立つよ!? あたしのオリジンを使えば、新人たちの育成だってスムーズにできると思うし」
「いや。お前の存在に慣れすぎるのは良くない。お前は斥候として優秀すぎるんだ。誰よりも早く魔物の存在に気づいちまう。それじゃあ、新人たちの警戒心を育てるのには向かないだろう」
首を振るオミに、アキミは泣きそうになりながら反論した。
「で、でも! あたしだって!」
「お前にやってほしいことがある。これはお前にしかできないことさ。シュウ。アキミを連れて行ってくれないか? こいつは勘がいいし、動きもいい。オリジンもあるし、決してお前らの足を引っ張ることはないはずだ」
急にそう提案されてシュウは一瞬だけ戸惑った。しかし次の瞬間人の悪い笑みを浮かべた。
「なるほどな。確かにそうするならアキミはうってつけかもな」
「すまんな。お前たちを信用していないわけじゃねえけどよ。念のためってやつだ」
シュウとオミは理解しあっているようだが、アキミは訳が分からないような顔をしている。
「あ、あたしがシュウさんたちと?」
「ああ。そうだ。これは勘だが、シュウ・・・。と言うか、アオだな。アオには何かある。俺たちの生末を変えてしまうような何かがな。組織に縛られた俺たちにできないことができるようになるかもしれん。それに手を貸すことは、巡り巡って俺たちの力になるはずだ」
オミが説得するがアキミの戸惑いは変わらない。
「で、でも。あたし」
「俺が信頼できる奴は限られている。同じ魔線組でも背中を任せられないやつがいることは、さっきのやり取りでわかっただろう? お前なら、安心して任せられる。お前の目で、こいつらを見届けてくれ。そして判断するんだ。こいつらが、本当に俺たちのためになるのかをな」
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