第43話 テキストデータ

「テキストを送っただって?」

 黒井が一瞬、虚を突かれたような顔になって、

「まさか、あれか……?」と言葉を零すように、コンピューターの自分へ向かって訊ねた。

「アア、ソウダ。衝突型加速器ノ実験ノタメノ計画メモ。ボクナラ、アレヲ無視デキナイ。ムシロ、自分ガ無意識ノウチニ、書キ留メタモノダト思ウハズダカラナ」

 コンピューターの極彩色の光の粒が煌めいた。


「何のことだ?」

 俺は黒井に訊ねた。

「ボクのPCにあった実験の計画メモ。確かに、今考えると自分で書いたものかどうか、違和感はある。だが、あの時のボクには完璧なプランに見えた。だから、実験をあの日に早めたというのもある……」

「何?」


「御岳もそうかは分からないが、インスピレーションが降ってくるような経験は無いか? ボクは結構あるんだ。それで、研究が大幅に進んだりな。あのメモもそういうインスピレーションをいつの間にか書き留めたものだとそう思い込んでいた」


「PCノセキュリティハ厳重ダカラナ。マサカ、自分以外ノ者ガアクセススルトハ思ワナイダロウシ、マシテヤ未来ノ自分ガ、PCニテキストデータヲ送ルトハ思エナイダロウ?」

「まあ、そうだな」

「……計画メモニハ、魔震ニ合ワセテ実験ヲスルヨウニ、実験ノ日時ヲ記載。ソシテ、衝突型加速器ノパラメータノ数値モ、事細カク指定シタンダ」


「魔震の発生日時に合わせたのは、魔震のパワーそのものをも利用するためか?」 

「アア、ソノ通リダ。コノ世界ノ魔族タチヲ倒スタメニハ、護雷神ト護雷狼、ソシテ御岳モ、コノ世界ニ連レテ来ル必要ガアッタカラナ。未来ニ物ヲ送ルノハ時間軸ノ流レヲ利用デキルガ、サスガニ多クノエネルギーガ必要ダッタンダ」


「だが、ちょっと待て!」

 俺は叫んだ。

「ドウシタ?」

「元々の計画では、魔族たちのことを伝えて対策を取らせようとしたのでは無いのか? 何で、計画を変えたんだ?」


「お前は馬鹿か!?」

 黒井が俺の頭をはたきながら叫んだ。

いてえよ」

 俺が文句を言うと、

「仮に、魔族のことを魔震が来る前にテキストデータでPCやスマホに送られてきたとして、お前は信じるか? 何か対策を取るか?」

 と、黒井は言い、俺の目を見た。


「いや。それは……」

 確かに、何かのいたずらだと思うかもしれない。

「未来から過去の狙った時点へ、あの衝突型加速器のパワーだけで何かを送るにしても、テキストデータくらいが関の山なのだ。時の流れを逆らって時間を飛び越えるには多くのエネルギーが必要だからな。そして、時の流れに乗って飛び越えるにしても、狙った時間へ狙った質量を送るためには、多くのエネルギーが必要だ。そのために精緻な計算が必要だった……」


「アア、ソノ通リダ。ボクハ永イ時間ヲカケテ計算ヲ行イ、計画ヲ実行シタ。特ニ魔震ノパワーヲ正確ニシミュレーションスルノハ大変ダッタヨ。……ダガ、ボクノ計画ハ成功シタノダナ。素直ニ嬉シイヨ」

 コンピューターの黒井はそう言って、表面の極彩色の粒を煌めかせた。


「今、護雷神ハ動カナイト言ッタナ? ダガ、私ノ話ノ中ニヒントガアッタノデハ無イカ?」

「はい。私たちの知らない呪文や真護雷王に施したという魔方陣や魔法文字、記号の記載……。それが分かれば」

 紫織が言うと、

「……確カ、御岳モ訊ネテイタナ。コノ後、御岳ノ研究室ラボニ行ッテミルトイイ。色々ト残サレテイルゾ」

 と、コンピューターの黒井は答えた。


 俺たちは大きく息を吐くと、頷いた。

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