第4話
――数週間後。
光る端末の表示が眩しく跳ねた。
『本日のBランクダンジョン踏破者:アリサ・フォン・レインハルト!』
心臓が早鐘のように打った。
視界の奥で、あの女の映像がちらつく。
(Bランクをソロで……!? なら、私も……)
「無茶だ! 初ダンジョンがBランクでしかもソロなんて――」
「私の魔力なら……問題ないわ」
私はアランの静止を振り切った。
* * *
訓練棟で磨いた魔力制御、戦闘服の感触、身体に染み込んだ空間操作――すべてが、今ひとつの軌跡となった。
深呼吸をひとつ。私は穴の入り口に足を踏み入れる。黒く、うねる闇。以前とは違う、この世界のダンジョン特有の緊張感が胸を刺した。
――光と風が、魔力に応えた。
華奢な体がしなやかに動く。罠を瞬時に見抜き、モンスターの攻撃を空間操作でかわす。光の刃が敵を翻弄し、風の渦が道を切り開く。
特殊な手袋に刻まれた魔法陣によって、無詠唱で魔法を自在に操れる――この世界の叡智の凄さに、私は改めて息をのんだ。
* * *
――最深部。
広間に足を踏み入れた瞬間、天井の魔導灯がぱちん、と弾けた。
闇が落ちる。
だが、問題ない。私の“光”は、闇にこそよく映える。
そっと手を掲げる。
光の輪が静かに回転し、薄闇を照らした。
その中心にいたのは――
黒い甲殻に覆われた六脚の魔獣。
蜘蛛のようであり、人の腕のようでもある、不気味な異形。
ギョロリ、と赤い瞳が向けられる。
(ボスでも、この程度か)
失望に近い静けさが胸に広がった。
六脚の異形が咆哮し、闇を割って突進してくる。
甲殻は金属のように硬く、毒の霧を撒き散らし、床を腐食させながら迫る。
けれど――遅い。
私は軽く指を鳴らした。
空気がビキリと音を立てて歪む。
周囲の石床が凹み、砂塵が中央へ吸い寄せられていく。
異形が動きを止めた。
本能で理解したのだろう。
“逃げても無駄”だと。
私は掌を前に出し、そっと魔力を押し込む。
空間が一点に押し潰され、次の瞬間――衝撃波が
音もなく、ただ存在が削ぎ落ちる。
残ったのは――何もない、円形の
「……終わり?」
私は肩をひとつすくめた。
その時だった。
ピコン、と端末が震え、突然画面が光る。
『――現在配信中!
視聴者数が一万人を突破しました!!』
魔導カメラが私の背後へと迫る。
「これが……配信ってやつなのね」
画面には、先ほどの空間破壊を見た視聴者のコメントが洪水のように流れはじめる。
『え??? 何今の!!』
『空間歪んだよな!?!?!?』
『新人でBボス瞬殺ってバグ???』
『この技、アリサ様でも無理だろ……』
『ていうか美人すぎだろ、誰だこの女!?』
『やばい、完全に新星の誕生だわ』
私は端末に視線を落とし、ゆっくりと笑った。
「初めまして。“セリーナ”よ。
ソロでも余裕ね――私が“No.1”じゃないかしら?」
コメント欄が爆ぜる。
『アリサ様煽ってて草』
『いや実際強すぎるわこの人』
『新人最強ってマジ???』
『これアリサ様の立場やばくね?』
(立場がなくなる? ――それでいいのよ)
胸の底が甘く満ちていく。
復讐の感覚は、こんなに心地いい。
* * *
その夜。
大都市の一角にある高級マンション。
アリサはソファに座り、膝に置いた端末の画面を睨みつけていた。
画面には――
『新人セリーナ、Bランクソロ踏破』
『空間系の大技!?』
『アリサ様を超える逸材現る』
そんな文字が並ぶ。
「……嘘、でしょ?」
アリサは爪を立てるように端末を握りしめた。
胸に湧き上がる感情は、嫉妬。
焦り。
そして、恐怖。
(私より……強い……?
私より、注目されてる……!?)
耐えられなかった。
全てを奪ったはずのセリーナ。
過去の世界で処刑したはずの女。
その女が、また自分の前に立った――そんな悪夢。
アリサは震える唇を噛んだ。
「……見てなさいよ。
私が一番だって、証明してやる」
端末を操作し、最新のダンジョン情報を開く。
『Aランクダンジョン:現在、踏破者なし』
『推奨:4〜6人のパーティ』
『危険度:高』
だが、その警告をアリサは無視した。
「私が……先にAランクをソロで踏破するのよ……!」
その行動は衝動的過ぎた。
だが、嫉妬は理性を簡単に溶かす。
* * *
――Aランクダンジョン内部。
アリサは息を荒げながら壁に倒れ込んだ。
「はぁっ……はぁっ……嘘……でしょ?
なんで、こんな……強いのよ……」
敵はBランクとは桁が違った。
動きも速く、魔力も濃く、攻撃も容赦がない。
アリサの腕はすでに裂傷だらけ。
魔力も半分以上使い果たしていた。
「……あいつのせいよ……全部」
足取りはふらつき、視界はかすむ。
最深部に辿り着くはずもない。
そこで――轟音が響き、巨大な影がアリサに覆いかぶさった。
「……あ……」
悲鳴すら出る前に、アリサの身体は宙に舞った。
意識が途切れる寸前、
アリサは確かに聞いた。
――『Aランクダンジョン内部で、アリサ様の救難信号を確認!』
救助要請システムが赤く点滅した。
SNS、配信サイト――
街中の巨大スクリーンへ速報が走る。
『【速報】人気探索者アリサさん、Aランクダンジョンで遭難』
『無茶な単独突入か?』
『新人セリーナの登場で焦ったかとの声も……』
そして――セリーナは静かに笑う。
「……また、負けたわね。アリサ」
その笑みは、復讐が“始まった”ことを確信する笑みだった。
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