第15話 ​🌪️ 奥州北辺の風、小十郎の竜巻

 1. 安東愛季への「死の外交」

​ 神崎亮平は、安東愛季の元へ向かうため、伊達輝宗の許しを得て米沢城を発った。彼の任務は、表向きは伊達氏と安東氏の和睦の仲介だが、真の目的は、津軽為信を脅かす安東氏の**「心臓を止める」**ことだった。

​ 神崎の自動拳銃には、ニキータから回収した銃の部品を組み込んだことで、わずかに連射性能が付与されていた。そして、残る現代の正規弾は、通常の銃弾としては威力は絶大だった。

​ 彼は、安東愛季の居城である**湊城みなとじょう(秋田県秋田市)へと潜入した。そして、愛季との謁見の場で、黄金の物質変異ではなく、「死」**を暗示するデモンストレーションを行った。

​「安東殿。津軽への攻撃をやめられぬならば、貴殿の身に天罰が下る」

 ​神崎は、愛季の足元の絨毯に弾丸を放った。弾丸が着弾した瞬間、絨毯は腐食し、周囲の空気が強烈な毒ガスのような刺激臭を放った(物質変異による毒素生成)。愛季と家臣たちは、咳き込みながら顔を覆った。

​「これは、伊達氏からの忠告だ。津軽の地は、もはや貴殿の手に負えぬ。これ以上、兵を出せば、安東氏そのものが滅びる」

​ 神崎の**「死の外交」**は、安東愛季に深い恐怖を植え付けた。愛季は、為信への攻撃を一時中断し、今後の戦略を練り直すことになった。

 2. 野辺地のへじの戦火、小十郎の出陣

​ 神崎が安東愛季への外交を終え、伊達氏の元へ戻る頃、奥州の北辺では新たな戦いが勃発していた。

 ​天正十年(1582年)頃。南部氏の一族である七戸家と、陸奥湾沿岸の要衝を巡って争っていた南部宗家の重臣九戸氏の争いに、津軽為信が介入。これに対抗するため、南部宗家は、南部氏に忠誠を誓う野辺地のへじ氏と共に、津軽勢力と激突した。これが野辺地戦争(あるいは野辺地七戸合戦)である。

​ 伊達輝宗は、神崎の不在中に、片倉小十郎景綱を援軍として南部氏に派遣していた。伊達氏の目的は、北の南部氏と津軽氏の力を削ぎ、奥州統一への足がかりとすることだった。

​ 片倉小十郎は、南部氏の援軍として野辺地の戦場に立っていた。彼の指揮する伊達勢は少数精鋭だったが、その士気は高かった。

​「皆の者、聞け! 我らは伊達家の誉れを背負う者! 敵は津軽の逆賊と、南部の一族の争いに乗じた者どもだ! 存分に力を示せ!」

​ しかし、戦況は津軽為信軍の優勢で進んでいた。為信は、神崎が残した情報戦の知識と、奇襲戦術を駆使し、南部氏を追い詰めていたのだ。


 ​3. 小十郎の奇策、竜巻の咆哮

​ 片倉小十郎は、戦況の悪化を冷静に見極めていた。彼の哀川翔似の精悍な顔には、焦りの色はなかった。

​(このままでは、南部勢は崩れる。神崎殿の**「異能」があれば…いや、あの御仁の「発想」**ならば…)

​ 小十郎は、神崎が「龍の工房」で語った**「自然の力を利用する」という発想を思い出した。そして、神崎が魔弾で「微細な竜巻」**を起こしたことがある、という話も。

​ 小十郎は、伊達軍の鉄砲隊に特殊な指示を出した。

​「全隊、聞け! 火薬を通常の二倍込めよ! 狙いは、敵の大浦為信の本陣の左翼、風下の茂みを狙え! そこで、一斉に発砲せよ!」

 ​小十郎が狙ったのは、火薬の爆発力が生み出す急激な気流の乱れだった。当時の火薬は燃焼時に大量の煙と熱を発生させる。それを一点に集中させれば、もしかしたら竜巻に近い現象を引き起こせるのではないか、と考えたのだ。

​ 伊達鉄砲隊が一斉に火縄銃を発砲した。

 ​ズドォォン!

 ​通常ではありえないほどの大音響と、膨大な量の黒煙が、為信軍の左翼、風下の茂みから巻き上がった。

​ そして、その黒煙の中から、巨大な竜巻のような風の渦が突如として発生した。巻き上げられた土と枯れ葉が、為幅軍の左翼を襲った。

​「な、なんだ、あれは! まさか、神の怒りか!」

​ 竜巻は、津軽為信軍の左翼を混乱に陥れた。兵士たちは吹き飛ばされ、隊列は完全に崩壊。さらに、煙と土埃で視界を奪われた為信軍は、戦意を喪失していった。

​ 片倉小十郎は、この好機を逃さなかった。

​「今だ! 総攻撃! 敵は神罰を受けている! 続け!」

​ 小十郎の采配により、伊達勢と南部勢は一斉に攻め込み、津軽為信軍は総崩れとなった。野辺地戦争は、片倉小十郎の奇策と、神崎の魔弾が起こす**「竜巻」**を模した自然現象の利用により、伊達氏と南部氏の勝利で終結した。

​ 神崎亮平が伊達氏の元へ戻った時、片倉小十郎は彼に報告した。

​「神崎殿。貴殿の**『竜巻』の着想、見事に野辺地の戦況を変えた。この伊達家には、貴殿の知恵**が不可欠である」

​ 神崎は、自分の魔弾が発現させるランダムな現象が、この時代の戦術に新たな可能性をもたらしていることに、改めて驚きと確信を覚えた。彼の視線は、いよいよ梵天丸、後の伊達政宗へと向けられていた。

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