私たちに明日はない
ながさきちゃも
東間凛 十一月
どくどくと血が出てくる。白いワイシャツが赤黒く染まっていく。
わたしの手は真っ赤に染まる。その手で西澤ちゃんの白くて綺麗な顔を触る。ぺたりとくっつく。赤い手形が頬に残る。西澤ちゃんは目をほとんど閉じかけている。とろんとした目で気を失う前の顔だ。腰を撫でるように触る。ザラザラとした紺色のブレザーの感触だ。ボックスプリーツのスカート、濃紺のローファー、緑のネクタイ。そして血。
滅多に人が来ない地下駐車場の個室トイレで、西澤ちゃんを壁にもたれさせて座らせていた。足は若干開かせ、その足の間にわたしは腰掛けていた。
抵抗はしなかった。なぜなら西澤ちゃんは殺されることを望んでいたからだ。声も出さずに、わたしは包丁でゆっくりと西澤ちゃんのお腹に刺した。緊張こそはしたが、トマトを刺すように。決して良い包丁ではないが、とてもよく切れる。
人間ってなんて無力なんだろうと思った。
西澤ちゃんを見つめる。瞼を閉じて眠っているように見える。開いた左脚をわたしの右手で持ってみる。重い。無抵抗で、なにも力が入っていない人体というのはこんなにも重いのか。
疲れて寝ている女子高生のようにも見える。しかし床を見てみるとおびただしい量の血が流れている。カーディガンの下から流れ出る赤黒い血は、ボックスプリーツのスカート、その下の白くて綺麗な足からくるぶしまでの靴下を血に染めていた。
少し近くまで寄って、髪に触れる。黒い髪。センターで分けられた前髪。触角のように顎下まで続いている。後ろの髪はお団子でまとめられている。彼女が言うには、ポニーテールが上手くいかなかった時はこうしていると言っていたが、わたしはこの髪型が一番好きだ。毎日してほしい。
しばらく西澤ちゃんの顔や体を見て、満足していると
「もう…いいですか?」と瞼を閉じながら、西澤ちゃんは言う。
あ、うん!とわたしは返す。瞼を開けた西澤ちゃんは、床に溢れた赤い血糊を見て言った。
「これ…どうするんですか?」
さ、さぁ?どうしようかな?
女子高生を殺したい欲求があると、西澤ちゃんに伝えたら、限りなく現実に近いこのシミュレーションをさせてくれた。血糊が入った袋をカーディガンの下に仕込む姿は映画の撮影前のようで面白かった。カメラを残しておけばよかったかな?とにかく、西澤ちゃんはやさしい。
西澤ちゃんを抱擁する。暖かい。ブレザーは血糊でだいぶ濡れているが、それでも暖かい。西澤ちゃんもわたしの身体に手を伸ばす。西澤ちゃんをわたしの膝の上に乗せ、ふたりで座り込みながら、体を寄せ合い、何やってるんだろうねと笑いながら言い合った。この温かさをずっと覚えていたいと思った。トイレで抱き合っていた。十一月だった。
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