第5話

影狼は怒りに身を震わせ、低く唸る。

肩から流れた黒い血が、地面に落ちるたびに煙を上げた。


模倣された怒りか、

それとも“人間離れした異常”への恐怖か――

その瞳は完全に殺意を帯びていた。


「グルルルル……ッ!!」


影狼が地を蹴る。

先ほどよりも速い。

黒い残像が一直線にこちらへ――。


「危ないっ!下がって!!」

ミリアが叫ぶ。


だがユウは動かなかった。


(……まただ)


影狼の軌跡。

空気の流れ。

爪に集まる黒い魔力。

“次の闇刃の角度”。


すべてが、頭の中で一本の線となる。


(あそこ……ッ!)


影狼が飛びかかる直前、ユウは半歩だけ横に滑り、

腕を影狼と同じ軌道で振った。


――ガキィンッ!!


黒い刃同士が衝突し、闇の火花が散る。


(まずい……押し負ける……!)


相手は本物の魔物。

こちらの刃は“形だけ真似た”不完全なもの。


それでも――


ユウは刃の角度をとっさに変えた。


「……っ、そっちだ!」


模倣した闇刃が、影狼の爪へ滑り込むようにぶつかり――


――ズバッ!!


影狼の前足が深く裂けた。


「ギャアアアッ!!」


影狼は体勢を崩し転がる。

立ち上がろうとするも、脚が震えて支えられない。

そして次の瞬間――森の奥へ逃げ去った。


完全に恐怖していた。

“自分の魔法をコピーした人間”を。


森に静寂が戻る。


「……っ、大丈夫……?ケガは……?」

ミリアが駆け寄る。


ユウは震える手を見つめた。

黒い光はもう消えて、ただの自分の手になっていた。


「……なんで……俺、こんなことが……」


ミリアは息を呑み、震える声で言った。


「いまの……魔物の《闇刃》を……そっくりそのまま……

 しかも魔力の痕跡が……まるで無い……

 そんなこと、人間に……できるはずがない……」


二人はまだ互いの名前すら知らない。

だが、森で同じ死線を経験した――

その短い瞬間だけで、確かな絆のようなものが芽生えていた。


冷たい風が森を吹き抜ける中、

ユウの“模倣の異能”は、静かにその存在を主張し始めていた――。

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