心が男で、体は女で、恋は君で。

森の妖精

第1話

自分改革

 

毎朝7時に鳴るアラーム


1発で起きれるのは、毎晩寝るのが早いから。


 毎日、大学へ行って、帰ってきて、食べてシャワーを浴びて寝るだけ。

 入学してから2年余計な事はせず、ずっとそうしてきた。

友達もいなければバイトもしていない。

 

ただ、1つだけ日課はある。

 

夜に1時間ほどランニングをする。いわゆる夜ラン。

 これはストレス解消にもってこいだった。


 (…今日の講義、10時からかぁ。やった!コミュニティの清水先生だ。午前中はゆっくりできるな)

  

そんな事を考えつつベッドから起き上がり、大きく伸びをする。

「んーー!今日も頑張るかー」

 カーテンを開けて窓をそっと開けると、朝のひんやりとした空気が部屋に入ってくる。


  

――私の朝の支度はちょっと変わっている。

 

 シャワーを浴びて、朝食を済ませる。 

ロングの髪を束ねて器用に後ろで纏めて留める。で、その上からウイッグをかぶる。

色はダークブラウン。髪型はネオウルフ。

 ネオウルフとは、簡単に言えばはマッシュの丸みは残しつつ、サイドや後ろを少し長めにして、中性的で柔らかい雰囲気を出せるような髪型。


 それが済んだら、1番大変な作業に取り掛かる。

 タンスの引き出しを開けて、数枚あるうちの1枚を取り出して器用に巻いていく。


 ――『サラシ』は、昔から実家に沢山あったものだった。

 両親が地元の御神輿の会に入っていた事もあり、私も子供の頃はよく巻いてもらっていた。

 それが、大学生活で役立つ事になるとは面白い。


 私の胸は大きい。

いや、全然嫌味とかではなくて。

それは次第に私の中でコンプレックスとなった。


 人の視線がとにかく嫌だった。相手はすぐに視線を逸らすが、それが本当に不快でならなかった。

私自身、考え過ぎているのも、自分でちゃんと分かっていた。


 中学1年の4月、部活を決めなくてはならなかった。

 あの時は成長前だったし、何となく新体操部に入った。

 それが間違いだった。3年の引退まで最悪だった。

 大会はレオタードを着用しないとならない。

 普段の練習や壮行式…視線が刺さり消えてしまいたくなった。

スタイルが良いと、自信に繋がり得意げになる人もいれば、注目されてほとほと嫌な人だっている。まぁ、稀ではあるが。

私は後者だった。

 

高校に進学し、部活でスポーツ部には入らなかった。

 スポーツは大好きだったけど、胸が邪魔で思うように動けないのが理由だった。

 その頃私は、Fカップ。

自分で言うと本当に嫌味っぽいのは分かっている。

 顔ははっきりしたタイプ。モテる要望をもっていた。何度も言うが、別に嫌味でも自慢でもない。

 そんなのはひとつも嬉しくはなかった。



 そんな私は、高校でも目立っていた。

 そして、トラブルに巻き込まれる事もしょっちゅう。

 連絡先が書いてある手紙が机や下駄箱に入っていたり、直接呼び出されたりもしたけど、全て無視していたし、断っていたのも、他の女子の反感をくらう。


「私が〇〇君の事、好きなの知ってたじゃん!」

 私の机をドンと叩き、怒りを露わにされて感情をぶつけられる。

…そんな事が結構あった。私は何もしていない。何なら男子とは、目すらも合わせようとしなかっなのに。

 理不尽に嫌われているのに、何も言い返せなかった自分が悔しかった。


 一度も誰とも付き合ったりはしなかった。

 私の何を見て近づこうとしてるのか?何も知らないくせに、バカなんじゃないの?ほっといて欲しい!


 …そんな事を思っては、毎日をイライラして過ごしていた。

 一部の女子からは何もしなくても心底嫌われていたが、普通に友達はいたし、恋愛とスポーツ以外なら学生生活は、まぁそこそこ楽しかったと思う。


 うんざりする方が圧倒的に多かったけど。



 

 ――よいしょ、これでオッケー!

 サラシをキツく巻いて、その上からなぞると胸はほとんどなくなっていた。満足の仕上がりだ。


慣れれば苦しくない。


 洋服タンスには、ワイドパンツ、カーゴパンツ、ミリタリーパンツ。そして、襟付きの白や黒やチェックやデニムのシャツ。緩めのパーカー……

「今日は……っと」

 少ない中から選んで無難な服を着る。

 今日は水色のデニムシャツに、ワイドなチノパンを選んだ。


 そう。私は大学から、自分をこんな形で着飾る事を始めたのだった。

 ウイッグを被って、銀縁のメガネをかけて、ゴツいG-SHOCKをつけて、スニーカーを履いて、大きめのリュックを背負う。

 これが私の大学スタイル。

 化粧はしない。甘い香りもさせない。爪も伸ばさない。

 別に男装趣味ではないけど、これが目立たなくて凄く良い!

 別に男装をしたかったわけじゃない。

ただ『女』を全面出す自分が一番しんどかった。

 

 地方から東京の大学進学を決めた時、中性的なタイプになろう!と、考えた私にとっての最高の作戦だった。






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