第10話
セレジェスタに3対0勝利した翌週。
俺たち柏ブルースターズはそのままの勢いで
3戦目へ挑んだ。
ただその試合は、俺は出場しなかった。
理由は単純で、コーチから言われたからだ。
「陽斗、3戦目は温存だ。無理して使わない。お前は次の試合で絶対必要になるからな」
(次の試合?)
コーチに意味深にそう言われた。
とりあえずベンチから仲間を応援した。
試合は開始早々、葵先輩のロングシュートが決まり、チームに勢いがつく。その後も中盤の連携が冴え、2点目を取る。相手の反撃を海斗先輩やDF陣がしっかり抑え込み、終始危なげない試合運びで、結果は2対0で勝利した。
これで県大会もいよいよ決勝のみとなった。
その翌週に向けて俺達はいつも以上に真剣に練習をしていた。
俺たちはコーチにグラウンドに集められていた。
「いいか、決勝の相手は成東レイヴンズ。去年の県大会優勝チームだ」
その名前だけで、チームに緊張が走る。
千葉の強豪チームの中でも、特に強いと評判のチームだ。
「まず気をつけるべきは、9番の九条練だな」
海斗先輩が「あぁ…」と声を漏らしていた。
どうやら名前だけでわかるほど有名らしい。
「九条はな、速さもそこそこあるが、本当に厄介なのはドリブルだ」
「ドリブル?」
俺が思わず口から漏れると、コーチが頷いた。
「小学生とは思えない緩急の付け方をする。
フェイントをするんじゃあなくて、相手の重心を見てから動くんだ。読みづらいぞ」
「去年の全国で、全国トップレベルDF二人を抜いてたな」
海斗先輩が少し遠い目をしながら言った。
「そう、それだ。しかもそれだけじゃあない。
ボールを失わないんだ。奪いに行くと逆にかわされる」
実際に知っている先輩の言葉だからこそ、リアルに感じて背筋が冷える。
「そして、もう一人。11番の三園(みその)健だ」
コーチが名前を地面に書きながら言う。
「全国でもトップクラスのDFだ。去年もレギュラーで、1対1でほぼ抜かれたなかった」
「マジかよ…」
誰かがそう小さく呟いた。
コーチの説明に海斗先輩が補足するように言った。
「ガタイが良いから当たりが強いし、ポジショニングも上手い。寄せられたら終わりだ。ボールを持った瞬間に距離を潰してくる。俺も去年やられた」
実際に対戦経験がある海斗先輩言うのだからやばいのだろう。
「だから、三園相手に真正面から突っ込むのは絶対ダメだ」
コーチは棒を地面を指す。
「当たられた瞬間、体ごと持っていかれる。特に陽斗とか年齢的に小柄は1発で止められるぞ」
その言葉に俺は思わず肩を震わせた。
「九条のドリブルと三園の守備。普通のチームならまず突破できない」
コーチがそう言った瞬間、皆の空気が重くなる。
だが、コーチがすぐに続けた。
「けどな、俺はお前たちなら勝てると思っている。今年のブルースターズは、去年までとは違う」
葵先輩が俺の肩を叩き言ってきた。
「特に陽斗、お前がキーになる。三園に捕まる前に仕掛ける判断と、九条みたいなドリブラーへの守備どっちも必要だ」
葵先輩に続いて海斗先輩が皆に言う。
「九条は足元が異常に上手いから、真正面で待つな。こっちが寄せるフリをして、コースを絞れ」
俺たちは深く頷いた。
強豪を倒すために、俺たちの練習はいつも以上に熱を帯びていった。
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成東レイヴンズとの決勝が一週間後に迫ったある日。
俺は決勝の為に「シュート力△」のスキルを取得しておいた。
点を取る事を期待しているとコーチにも言われたのもあるがFWとしては必要だろう。
それとは別に俺は1人でグラウンドの端に残って、ボールを足元で転がしていた。
(九条さんのドリブル、大会の動画で見たけど速いわけじゃあないのに抜ける…確か相手の重心を見てるんだよな)
コーチが言っていた言葉を思い出す。
(だったら、俺も相手の重心をずらす技があれば)
スキルも重要だがスキル以外の技も必要だろうと考えた。
ドリブルを繰り返しながら、何度も何度もタッチを変えてみる。だが、どれも普通のフェイントになってしまう。
「陽斗、まだ残ってたのか」
葵先輩がこっちにペットボトルを片手に歩いてきた。
「…ちょっと、自分の武器を作りたくて」
そう言うと、葵先輩がニヤリと笑った。
「いいじゃん。そういう自分だけの武器って、かっこいいよな」
葵先輩がペットボトルの水をひと口飲んでから、俺の足元のボールを指した。
「で、何を作りたいんだ?」
「九条さんみたいに、相手の重心をずらして抜けるような技です」
葵先輩が軽くリフティングしながら言う。
「陽斗はスピードがあるし、タッチも柔らかい。
あと、相手の動きに敏感だろ?」
「敏感…ですか?」
「お前、DFが寄ってくるときのタイミングとか、人より早く気づくタイプだよ。試合でも、寄せられる瞬間にスッと方向変えてるし」
自分ではわからないが葵先輩が言うならそうなのだろうか。
「ならさ、その気づく速さを技に変えちまえよ」
「技に?」
「そう。例えば…」
葵先輩が突然、俺の前に立った。
「俺がDF役をやる。陽斗、フェイント掛けてろ」
軽くドリブルしながら葵先輩に近づく。
葵先輩の足がわずかに動いた瞬間、俺は左にボールを動かした。
「あ、今のだ」
「え?」
「俺が寄ろうとした瞬間にタッチしたろ? あれをもっと極端に、もっとギリギリまで待つんだ」
ギリギリまで待つ。寄せの瞬間に。
今まで何となく使っていた感覚が、言葉になると、頭の奥でカチッと噛み合う。
「じゃあ陽斗、もう一回。今度は俺が寄るタイミング、よく見てろよ」
再び葵先輩に近づく。
葵先輩が前に踏み込もうとする
(ここだ!)
その瞬間、俺はボールをつま先で軽く押し出すように触った。スッと、相手の足元を滑り抜けるような小さなタッチ。
それに葵先輩の足が空を切る。
「おお!?今の、抜かれたわ」
「やった!」
「今のタッチ、変だったぞ。普通の外側でも内側でもない…なんか滑ったみたいな動きだった」
俺自身も、ボールの触り方に違和感があった。
つま先で押すように、ほんの少し触れただけ。
でも相手が動く瞬間だけ、ボールがスッと逃げる。そんな感覚があった。
「もう1回やってみろ」
それから葵先輩に付き合ってもらい何度も繰り返す。タッチを変え、タイミングを変え、失敗しながらも試す。
そして何十回と試しているとあの時の感覚を掴んだ。相手の寄るのが始まる瞬間だけ、ボールを滑らせる。
「うわ、また抜かれた」
葵先輩が苦笑しながら後ろを振り返る。
「陽斗、それ多分、武器になるぞ」
俺は心臓がドクン、と跳ねた。
「俺なんか、出来たかもしれないです」
「うん。スピードに乗りすぎず、細かく触って、で、寄られた瞬間だけ滑らせる。九条のフェイントとは全然違う。陽斗専用のドリブルだ」
「俺だけの…ドリブル」
俺は自分の足元を見つめた。
ボールが、今まで見たことないルートで動く。
「…スリップしてるみたいだな」
葵先輩がぽつりと呟いた。
「スリップですか?」
「相手の寄りをすべって外す。そんな感じだ」
葵先輩の言葉が、胸にストンと落ちた。
滑るように抜く。寄せを外す。
「じゃあ、スリップタッチですかね?」
「お、名前まで付けるのか?」
「その方が、技っぽいと思いまして」
俺の言葉に葵先輩が笑う。
「最高じゃん。決勝でも使ってみたらいい。そのスリップタッチ」
俺は葵先輩の言葉に小さく頷いた。
決勝の相手は、去年の王者・成東レイヴンズ。
九条練の魔法みたいなドリブルに三園健の鉄壁の守備。
だけど俺は、俺だけの武器を手に入れた。
スリップタッチ。
相手の寄る瞬間に、ボールを滑らせるタッチ
練習グラウンドの端で、俺は拳を握った。
「決勝、絶対勝つぞ!」
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スリップタッチ分からなかった人用に説明すると
相手が近づいてきた瞬間、ボールを足の裏でスッと引いて、相手の体の向きをずらす。その一瞬で相手の反対側に抜けるみたいな感じです。
次決勝戦です。
敢えてネームドを増やさないようにしてるせいで葵先輩が過労になりそうです!
小学生編はネームド最小限にしたいのです。
そういえば昨日1話も投稿してないのにPVが1日で1000超えてました!
星も少し増えてて嬉しかったです。
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