反逆者の花たち

私達は階段を駆け上がって最上階を目指す

ゼラは左の通路から地下へ向かっている。


二階へ足を踏み入れた瞬間

そこは真っ暗で空気が重く

広い空間だった。


足音だけが響く

背後からマリーの足音がついてくる

中へ踏み込んだその時

まるで待っていたかのように

一斉に壁の蝋燭に火が灯る。


部屋の中心、闇の中に影が立っていた。


八本の足…

高さは五メートルほど

黒い皮膚で覆われたサソリのような異形

脚が一本動くだけで

地面がミシミシと音を立てる。


背中からは尾が伸び

その先端の毒針が揺れている。


「あれは…解呪異形…」


そう呟いたとき、マリーが息を呑んだ

「そうか…やっと分かった

この建物、壁が分厚くて…外の窓は全部ダミー…

最初から毒を前提に造られてる…!」


なるほど…

さっきから感じていた違和感はそれか。


マリーの声は震えているが分析は冷静だった。


「マリー、下がっていろ。解呪異形は危険だ」

私は視線を外さないまま言う。


異形は唸り声を上げ

八本の足で地面をえぐりながら

一直線に突進してくる。


床が揺れ、視界が震える

正面から受ければそのまま押し潰される。


私は迎え撃つように正面へ走り込み

そのまま床を滑った。


甲殻の関節、柔らかそうな部分へと

身を滑り込ませるように潜り抜け

斬撃を叩き込む。


刃が硬い殻を避け、その下の肉を断つ手応え

異形の動きが一瞬止まり巨体が体勢を崩す。


すぐさま立ち上がり、その背後へ回り込む。

振り向きざまに振り下ろされる巨大な脚を

身を屈めて避け、再び腹の下へ

柔らかい肉が見える

甲殻の隙間めがけて斬りつけた。


浅くはあるが確かな手応え

動きを鈍らせるには十分だ。


「斬りやすい大きさで…助かる!」

自分に言い聞かせるように呟く。


その時だった。

異形が、顎を鳴らしながら大きく口を開いた。


嫌な直感が背筋を走る。


次の瞬間、異形の喉奥から

濃い紫色の煙が噴き出した。


それは、毒ガスだった。


油断した…尻尾に集中しすぎた

まさか吐いてくるとは…!


逃げ場のない広間

煙は一瞬で視界を覆い尽くす

避けきれず、肺にそれが入り込んだ。


喉の奥が焦げるように痛く視界がにじむ

足元がふらつき、片膝をつきそうになる。


~~~~~~~~~~


町長室では、ブラムが口元を歪める

「クク…私のペットよ…

反逆者の花達を…喰ってしまえ」


~~~~~~~~~~


部屋全体に毒が満ち

息を吸えば即座に内臓が焼ける感覚。


「息を…止めないと…!」


しかし

呼吸をしなければ戦うことはできない

酸素が切れていく

頭がくらくらする。


異形が再び動いた

八本の足が床を叩き、重い音が響く。


足を踏み込もうとするが

毒でしびれ、力が入らない。


それでも

剣を握り直し、技を放つ。


"桜閃おうせん"


閃光のような一撃のはずだが…

毒によって思うように動けない

異形の足を斬ったものの

毒が体内で暴れ、足に力が入らず

着地に失敗し床を転がる。


肺が焼けるように痛み、剣を持つ手が震える。


(この程度に…苦戦していては…)


(国は…倒せん…!)


異形がゆっくりと口を開く

今にも私を噛み砕こうとしている。


そのとき

「ロジェロ!」


振り返ると、マリーが必死の形相で飛び込む

そのまま短剣で、異形の口元を斬りつける。


マリーは毒を感じて突然咳き込みながらも

短剣を構えて立ち向かおうとしていた。


助かったが…マリー一人では…


私は震える手で剣を拾い上げる。


毒で視界が歪む

音が遠くなる

それでも前に出る…


その瞬間

異形の長い腕が勢いよく振り下ろされた──

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