国王を埋める

自分の家に戻り旅の支度を始める

ロジェロの仮屋は崩れ血に塗れ

もう住める状態ではなかったため

彼女も自宅へ招いた。


「旅って…二人でしてたんですか?」


「ああ。だが人数は多い方がいい

二人だと苦労が多かった

この村の西の川を越えた先の町に酒場があってな

そこで仲間を探すつもりだ」


その言葉を聞いた瞬間…幼馴染の顔が浮かんだ

僕の知り合いに、頼りになる男がいる

誘ったら力になってくれるはずだ。


相談してみた。


聞いた途端、ロジェロの表情が曇る

「それ…男だろ?」


「そ、そうですけど…」


…………


「絶対に嫌だ!

この二人きりでも我慢してるくらいなのに

なぜ野郎と二対一で旅をしなきゃならん!」


さっきまで覚悟に満ちていた女騎士が

突然の駄々っ子に変貌し、目が点になる

屈強で頼もしい女性だと思っていたが…


すごく頼りになる人だから

一度だけ会ってみてほしいと懇願する。


「女の子を連れて

ハーレム旅をするのが私の夢なんだ!」


その台詞は本来、僕のものだ…

半泣きで睨んでくるが

どんな旅になるか分からない以上戦力は欲しい

なんとか説得し

「一度だけ会う」ことで彼女は折れてくれた。


~~~~~~~~~~


僕らはその幼馴染がいる建物付近まで歩く。


ロジェロが不安げに周囲を見回しながら言う

「おい…なぜ村の外なのに

ここまで来るとき

"異形"と出会わなかったんだ?」


(たぶんそれは、ここがヤクザの本拠地だから

異形も寄り付かないんだろう…)と思ったが

言わない

言ったらロジェロが引き返しそうだからだ。


門の前のベルを鳴らすと、大きな扉が開き

中から傷だらけの大男が二人出てきた。


「なんだ…テメェ…」

「ここがどこだかわかってんの?」


正直、怖すぎて帰りたかった。


ロジェロは青ざめながら叫ぶ

「おい!こんなとこに知り合いがいるのか!?

不老不死の能力を確かめにきたのか!?」


僕は震える声をなんとか押し殺し、名乗る

「アスノさんの幼馴染のシルです。

アスノさんに…会わせて下さい!」


大男達は顔を見合わせ、大笑いしだした。


「ハッハッハ!おい小僧…

何があったかわかんねェーけどよ…

アスノさんってのはこの双竜組の最強格だぜ…

そんなやつがお前の知り合いなわけ…」


そのとき誰かの影が立ち上がり

場の空気が変わった。


笑っていた大男たちが凍りつき

次の瞬間には

巨大な手に頭を鷲掴みにされ

情けない声を漏らしていた。


そこに立っていたのは

僕の幼馴染 アスノ・ヤマモト。


腕は丸太の様に太く、肩や背中、大胸筋…

全身のあらゆる筋肉が発達している

大男よりも大男だった。


この辺りを縄張りとする

ヤクザ「双竜組」のNo.2


ロジェロも思わず情けない声を漏らし慌てる。


「おいお前ら…こいつは間違いなく…

シル坊じゃねェかァ~!」


その姿からは想像できない笑顔だ

こいつは見た目は強面で近寄り難いが

根は優しいやつなんだ。


アスノは俺の手を握り締めた。

たぶん手の骨が折れた気がするが…

夜叉ヴァンパイアの治癒能力で治った。


「兄弟!中で話そうぜ!」


アスノが提案してくる。


僕は良いが、ロジェロは…


チラッと顔を見ると体が固まっていたが

僕が様子を見てることに気付き

覚悟を決めた顔で頷いた。


~~~~~~~~~~


双竜組の建物内に案内される。


長い机に食べ物が並び歓迎される雰囲気だが

周囲を囲む大男たちの視線は鋭く落ち着かない

内装は豪華に飾られていて

どこから金が出ているのか不安になる。


「俺は双竜組のアスノ・ヤマモト

シルの幼馴染だ」


ロジェロに自己紹介をするアスノ

彼女の顔には警戒しかない。


「シル坊そっちから来るってことは

何かあったんだろ?聞かせてくれよ」


こっちから会いたいと言うのは滅多にないから

察しは早かった

僕は力を得た経緯、ロジェロのこと

この国を変えるため

反逆者になるという話をすべて打ち明けた。


そして、アスノに同行を頼む。


その瞬間、場の空気がピリッとした…


よく考えたら

ヤクザは国と裏で繋がってたりするのか…?

この話マズかったか!?

と今更になって気付き、冷や汗を流す。


するとアスノは

「…おい、シル坊。なんだよそれ…」


「めちゃくちゃ面白そうじゃねェーか!!」


見たことない満面の笑み

周りの大男達もみな目を輝かせていた。


「今まで何人もの"人間"埋めてたけどよォー…

いいのかよ!?"国王"埋めても!?」


周囲の大男たちも一斉に叫ぶ

「うォォォォ!!!」


その様子を見たロジェロは僕の服を掴み

別室に引きずり込んだ。


「おい!どういうことだ!

なんだあの物騒なやつは!聞いてないぞ!」


…言ったら断られるだろうし。


「言っておくが私はこれでも王女だぞ!

なんであんな輩と貴様の二人で

旅しなきゃならんのだ!」


怒り狂うロジェロ

でもここまで話した以上、後戻りはできない…


その時

重い扉が音を立てて開いた

冷たい空気が一気に流れ込んでくる。


「お前たちか…アスノと話していたのは」


年老いていながら

只者ではない風格を放つ男が入ってきた

声は低く、手や顔には皺が入っているが

背筋が伸び目つきは鋭い。


「私の名は双竜組組長…キョウゴク」


それは双竜組の頂点に立つ男だった。


「アスノの幼馴染…シル…と言ったな…」


どうやら

さっきのやり取りは全て聞かれていたらしい

僕は頷く。


組長キョウゴクは少し考え数秒沈黙する。


そして口を開く

「国を変える…と」


ゆっくりと僕らを見回し

目をしっかりと見つめて聞く。


「面白いことを言う。

…だが口だけならいくらでも言える。

お前にどれほどの覚悟があるか…

聞かせてもらおう」


ここで下手なことを言えば

アスノの同行話は終わる…

そう悟った僕は自分の中にある覚悟を

この人に全力でぶつけた。


「僕は…この身がどうなろうが構いません

この旅で何を失おうとも

どんな困難が待とうとも

決して折れずにやり遂げてみせます」


「…それが、この能力を与えられた

僕に出来る唯一の役目です」


たとえ最後の一人になってもこの役目を果たす

国を敵に回す…その恐ろしさは分かっている。


組長キョウゴクは表情ひとつ変えず

しばらく僕を見つめていた。


その瞬間、視界が傾き

地面がこちらに向かって倒れてきた

いや…僕の「頭」が地面に落ちていた。


いつの間にか組長キョウゴクは刀を抜き

僕は首を斬られていた。


ロジェロが叫ぶ。


首が熱い…そう思った瞬間

首の断面から肉と骨が盛り上がり

胴体と繋がった

痛みが遅れてやってきて、嗚咽が込み上げる。


僕は首元を触る

確かにさっき斬られたはずなのに…

何も無かったかのように戻っていた。


「噂の能力は…本物か」

組長キョウゴクは呟く。


それは単なる好奇心による試し斬りではなかった

鞘に刀を収めると低い声で言った。


「何を失ってもいいなどと…

軽々しく口にするな」


「守るべきものを守れぬ者が

国など変えられるものか。

"何も失わず"に戻ってくる覚悟を持て」


その言葉は刃よりも鋭く胸に突き刺さる。


「アスノと共に明日の早朝ここへ来い」


「ヤツを連れていくのは構わん…が

組を抜けるための試練ケジメを受けてもらう」


勢いよく扉が蹴り開けられる

「おいオヤジ!

ケジメなら今いくらでも指切るぜ!?」


組長キョウゴクはアスノに視線を向けることすらせず

そのまま部屋を出た。


僕は…

国を敵に回すことの重さは

分かっていたつもりだった

そのために何かを失うのは

当たり前の代償だと思っていた。


"何も失わず"に戻る…


守るべきものをすべて守り抜き

なお前へ進み続ける強さを持つ…


僕はそのときようやく

自分の覚悟が

どれほど未熟だったのかに気づいた。

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