第30話 生き抜く(4)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』『容姿向上』
『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
アクションスキル なし
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ウッドデッキに置いた揺り椅子に座って空を眺める。いくら目を凝らしても星や月が見えることはない。いつもの暗黒大陸の光景だ。
地平線に目を向けた。草原の一軒家に相応しい眺めに浸る。海の底にいるような静けさも気に入っていた。
その穏やかな流れが乱れる。背中越しに怒鳴り声が響いた。
「アンタ達、摘まみ食いはダメだって言ってるでしょ!」
大声で長女が追い掛ける。逃げ回る小さな足音に長男の控え目な声が重なった。その中に妻のマルロットの声は含まれていない。
サイドテーブルを挟んだ揺り椅子に目を移す。妻の背丈に合わせて小さめに作られていた。
流行病で亡くなるなんて、思わなかったよ。
かなりの年数が経っていた。それでも小さく咳き込む妻の姿を思い出すと胸に悲しさが溢れ出す。これも歳のせいなのだろうか。
テーブルに食器を置くような音が聞こえてきた。料理が完成したようだ。
扉が軋んだ音を立てた。危なっかしい足音が近づいてきてサイドテーブルにトレイを載せた。
「ジージ、みんなと食べないの?」
孫娘は青い瞳を丸くして首を傾げる。若い頃のエプロンドレス姿の妻を思い出し、慌てて目頭を揉むフリをした。
「今日はバーバの命日だから静かに、味わって食べたいんだよ」
「めいにち? わかんないけど、わかった!」
孫娘は笑顔で戻っていった。
賑やかな声を背中に聞きながら皿を
一口で当時を思い出し、涙が溢れた。ボロボロの身体で食べた、あの一皿と同じ味がした。長女に感謝してゆっくり飲み進める。濃さが増して濃密な過去を引っ張り出した。
七代目の会長に就任した俺は商人として多忙な日々を過ごした。手持ちのスキルは、ほとんど役に立たない。二つの大陸があるこの世界にモンスターの類いは生息していなかった。
商会の主力であるギャンブルが下火になった時に備え、まずは製造に力を入れた。生前の知識で再現できる物を率先して選んだ。その中でカンテラは最大の売り上げを叩き出し、主にインテリアとして好まれた。
あとは少々の駆け引きが勝負の分かれ目となった。優秀な人材に何度も助けられ、商会は急成長を果たす。
自身の身体の異変に気付いたのも、ちょうどその頃で俺は速やかに会長の席を長女に譲った。長男は手先が器用なので製造全般を任せた。今も拡大の一途を辿り、商会の未来は明るい。
少し風が出てきた。俺は軽く咳き込んだ。当てた
マルちゃんに会えたらいいな。
胸の中に温かいものが広がる。自然と空を見上げた。
「あれは……」
白い点が見える。強い瞬きをしても消えず、輝きを増した。
神々しい十字を形作り、周囲の闇を押し遣る。初めて目にした現象に息苦しさを感じた。胸の動悸が早くなる。
「これが、達成ガチャ」
輝かしい光に手を伸ばす。空は白い炎に包まれた。地上にも範囲が及び、意識ごと呑み込まれた。
俺は仰向けの姿で黒雲に手を伸ばしていた。その手を微笑む女神が掴み、引っ張り起こした。
「今回は頑張ったね。おかげで女神ポイントがかなり増えたよ」
「それはいいのですが、達成ガチャは?」
「ないよ。逆になんで?」
ベージュのトータルネックを着た女神がアヒル口で頭を傾げる。
「最期は病気ですが、誰にも殺されずに生き延びました」
「うん、そうだね。でも、それって普通のことだよね。ハードな世界で老衰まで行けたらワンチャンあったかも、だけど」
「……はい」
その事実に打ちのめされた。悲惨な最期が多すぎて正常な判断ができなくなっていたようだ。
それでも言わずにいられない。
「空に見えたあの光は、なんだったのでしょう」
「意識が混濁すると見えることがあるらしいよ」
軽く流された。反論の余地が見つからず、ただ頭を下げた。
「そんなに落ち込むことはないって。今までの最長記録を更新だよ。おめでとう、パチパチパチ。女神ガチャも、あと少しで回せるんだよ」
「そうですか。頑張った甲斐がありました」
「それで
女神は自ら創造した扉に目をやる。誘惑するかのように胸を両腕で挟むような格好をした。俺はさりげなく視線を下げた。
「女神様の配慮は嬉しいのですが、次の世界に挑戦したいと思います」
「えー、なんで『女神様』なの~。プリンちゃんって呼んでよ。向こうの世界では『マルちゃん』って呼んでたくせに」
「そ、それは新婚の時だけで、いつもじゃないです」
すっかり忘れていた。女神ガチャで得た力は異世界を覗き見できる。どこまで知られているのかはわからないが。
「子宝にも恵まれたよね。あれだけ毎晩すれば」
「ガチャを回しましゅ!」
もろに舌を噛んだ。俺は涙目となってカプセルトイへ走っていった。
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