Hな美人エルフは宇宙人?! 【せっかく異世界に転生したのに「魔法なんてない」と言われても、納得いくわけないだろう!】
なつきコイン
第一部 トワ村編
第1話 異世界なのに
「うわーん!」
俺は泣きながらトワ村の中心にある教会から、村の外れの丘の上にある家への帰り道をひた走っていた。
そもそも、俺がなぜ泣きながら走っているかというと、事の起こりは教会での日曜学校でのことであった。
― 少し前の教会 ―
「シスターアリア、終わったぞ」
教会の日曜学校に参加していた俺は、用意されていた全ての問題を解き終えると、その解答用紙をシスターに手渡した。
俺の名は、アッシュ・ヒルフィールド。この世界に生まれてから、今年で十年目になる、一見悪ガキといった見た目の九歳児だ。だが、俺はただのワンパクな少年ではない。
「アッシュ君もう終わったの?! いつも早いわね」
シスターは、俺から解答用紙を受け取ると答え合わせを始めた。
「うん。今回も全問正解。アッシュ君は本当に天才ね」
彼女は解答用紙に花丸を付けると、それを俺に返してくれた。
「天才だなんて、そんなことないさ」
そう、天才などではない。問題がすらすら解けるのは「この世界で生まれてから」と前振りしたとおり、俺にここではない世界の記憶があるからだ。
だから、もう花丸で喜ぶ歳でもないのだが、それでも天才と言われるのは少し気恥ずかしい。俺は照れ隠しに渋い顔をするのも申し訳ないので、なんとかクールな笑顔をつくって彼女からそれを受け取った。
「アッシュくん、すごーい! また全問正解だったの」
ピンク色のモフモフな髪をしたルルが、走り寄ってきて俺に笑顔を向けてくる。
ルルは隣の家に住む一つ歳下の女の子で、家が近いということもあり、幼い頃からよく一緒に遊んでいる幼馴染である。コロコロ変わる表情がとても可愛らしい。
「ふん! 私だって、あと一年経てば、それぐらいできるようになるわよ」
一方、少し離れた所から、金髪カールヘアの女の子がこちらを睨んでいる。彼女はルルと同じく、俺より一つ歳下で、村長の娘であるイザベラだ。何かにつけ、俺に突っかかってくる厄介な女の子である。
「しかし困ったわね」
シスターは俺の方を見ながら、右手で左腕を掴み、左手を頬に当て、首を少し傾けた。
俺は、何かシスターを困らせるようなことをしただろうか? 今までの行動を思い返してみても思い当たる点がない。
「何が困ったの?」
ルルが心配そうにシスターを見上げた。
「いえね、実はアッシュ君に教えることがもう何もないのよ」
何かと思えば、そんなことで困っていたのか。
「それなら是非、魔法を教えてくれよ」
俺は、これ幸いとシスターに詰め寄った。
年齢制限でもあるのか、なぜか誰も俺に魔法の使い方を教えてくれない。
「うーむ、魔法ね……。アッシュ君は小さい頃から魔法に興味を持ってたわね」
せっかく異世界に転生したのだから、ぜひ魔法を使ってみたい。それは、俺がこの世界に転生したと気付いた時からの願いである。
「はい! 俺は将来絶対に魔法使いになりたいんだ」
「そうなの? でもそれは考え直したほうが……」
元気に返事をする俺に対して、なぜかシスターは煮え切らない態度で困り顔だ。
「あははは」
「むっ! なんだよイザベラ」
イザベラが突然、俺のことを指差しながら笑い出した。なんなんだこいつ、人を指差し笑うなんて失礼だな。俺は少しイラッとしながら彼女に食ってかかる。
「あははは。アッシュったら、その歳になって、まだ魔法使いになりたいとか言ってるの? 魔法なんて、絵本の中だけのお話で、本当はありもしないのに、まだ信じてるなんて、アッシュは、まだまだ、お子ちゃまなのね。あははは」
何を言っているんだこいつ? ここは異世界なんだ、魔法がないわけないだろう。
「イザベラさん、笑っては駄目よ」
「そうよ。アッシュくんは、いつまでも子どもの心を忘れない、純真な人なんだから」
あれ? なぜだか、シスターアリアとルルの俺を見る視線が生暖かいのだが……。
「アッシュ君、魔法というのは空想で、現実にはないのよ」
「え? ちょっと待って、この世界には魔法ないの?! そんなの嘘だよね」
俺は必死になってシスターにしがみついた。しかし彼女は目を逸らして何も答えてくれなかった。
「そんな……」
「あははは。見てあの顔、魔法がないと知って絶望してるわよ。天才とか持て囃されていたのにザマぁないわね」
「イザベラちゃん、アッシュくんにあまり酷いこと言わないでよ。いいじゃない、魔法使いになりたいって、子どもみたいな夢をみてたって。アッシュくんはそういうところが可愛いんだから」
イザベラに指差し笑われる俺を、ルルがかばってくれる。が、歳下の女の子に、可愛いと言われて居た堪れない。それにルルも魔法はないと思っているようだ。
「魔法がないなんて、そんなの、嘘に決まってる!」
俺は、そう叫ぶと、踵を返し教会から駆け出した。
「あ! アッシュくん、どこいくの?」
「あははは、アッシュの奴逃げ出したわ」
「アッシュ君、待ちなさい」
ルル達の声が背中から聞こえたが、俺はそのまま振り返らずに、その場から走り去ったのだった。
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