あの空の彼方へ
ストーリー製作部
本編
第1章
声を聞いた、優しい声を……今でもその声を覚えている。
私は、幼い頃から街中を歩く冒険者に憧れていた。
私は昔から病弱で泣き虫で、他人から馬鹿にされていた。
『冒険者になどなれるか』
と。
自分でもそう思っていた。しかし、違った。
夢を自分の言葉で声を大にして叫ぶその大切さを学べた。
あの日見た空は、私の旅を祝福していた。
アズリシア暦5082年私は生まれた。
その日は雷に満ち。雷の轟音と共に生まれ轟音と共に産声を上げた。
しかし、そんな事があった為なのか病弱に育ってしまった私は、常にベッドの上だった。でも憧れがあった。夢があった。
私は、外を歩く冒険者の姿に憧憬の眼差しを向けた。
私は、両親に話した。
「私ね?おっきくなったら冒険者になって世界を見るの!!」
両親は認めてくれた。幼かった私はそれだけで嬉しかった。
そうして日が経つに連れ、身体も育ち、病も去った頃。修道院で、神学やその他の勉強に励んでいた。そこでも私は夢を語った。
しかし、私とともに勉学に励んでいた者は皆、私の夢を蔑み笑った。
「お前みたいな、ちびっ子がどうやって戦うんだよ」
そう言われ。目が会う度に馬鹿にされ、蔑まれた挙句虐められた。
時に理不尽な暴力を振られたり。私物が消えたり。と子供がイタズラできる範囲のいじめが私を襲った。
私は耐え切れず。何度も自室や修道院の懺悔室で泣いた。
しかし、その度に外から聞こえる冒険者たちの笑い声に希望を持った。
いつか私も外の景色を見るのだと。
アズリシア暦5100年
私は遂に成人を迎えた。
遂に冒険者の規定年齢になったのだ。
冒険者になるには、18歳以上でなければならず。私はその歳を迎えたことに喜びを感じた。遂に夢が叶うのだと。しかし現実は甘くなかった。
冒険者登録のために金貨2万枚程払う必要があったが、そんな大金を払える程の余裕はなかった。
私の家は裕福ではなかった。私自身もそうだった。
私は迷い、悩み、そして決めた。
私の身一つしか、売れるものはない。
それは苦渋の選択で、魂が削れるような日々だった。
身体中を虫が走るような痛み。事の辛さに勉学を学んだ修道院の懺悔室に懺悔しに行った。
それでも、あの日の夢だけが私を支えていた。
アズリシア暦5102年
身売り最後の日、その日はいつになく長く感じた。
ことあるごとに人が出入りし、私は心身ともに擦り切れていた。
それでも、終わりが来たのだ。
ボロボロの身体を清め、震える手で髪を結い、私は冒険者登録所へと向かった。
その日もまた、私が生まれた日と同じように、雷鳴が轟く豪雨だった。
私は、自分の体で稼いだ金貨二万枚を抱え、雷の下を急いだ。
けれど、世界はそれを許さなかった。
闇が私を見つけ、濡れた手を伸ばしてきた。
雷鳴がすべての音を呑み込む。
私の叫びも、その中に消えた。
しかし、その瞬間——。
稲妻の光が、闇を裂いた。
雨の中、誰かが立っていた。
その人は私に手を差し伸べ、私の金貨を奪った男たちを追い払った。
「……大丈夫か」
雷の音にかき消されそうなその声が、確かに私の胸に届いた。
彼と共に私は、冒険者登録を行い、幼い頃からの夢だった冒険者になることができた。
アズリシア暦5103年
私は、あの夜に私を助けてくれた彼と共に旅をしていた。
彼は、元々冒険者だったらしく、私から見れば先輩の冒険者だ。
野宿の仕方、魔獣との距離の取り方、食料の保存まで
彼は一から十まで丁寧に教えてくれた。
私は、そのすべてに感謝していた。
自分にできることは少なかったけれど、それでも何か返したかった。
だから私は、かつて“身を削って”覚えた気遣いの仕方で、
彼に小さな温もりを返すように努めた。
けれど、彼は静かにそれを拒んだ。
「なぜ貴方は、影に戻ろうとするのか?
冒険者は陽の下に立ち、風を受けて歩く者だ。
貴方のやろうとしていることは、また日陰に身を沈めるのと同じだ」
その言葉に、私は息を呑んだ。
私にとって“尽くすこと”は、唯一の生き方だった。
それ以外を知らなかった。
けれど、彼はそれを、まるで“生き方ではない”と言うように否定したのだ。
胸の奥で、雷が鳴った。
かすかに、あの日の音と同じ響きがした。
私はその時、あの優しい声を思い出した。
『貴女は貴女のままで居て。あの空のように、変わらない姿でいて』
そう語られた声を思い出した。
アズリシア暦5103年
私は、彼が行こうとしていた街に着くと、そこで別れを告げた。
「ここからは、私一人で歩いてみたいの」
そう言った声は、震えていた。
けれど、彼はただ静かに頷き、背を向けて去っていった。
その背中が小さく見えなくなるまで、私はずっと立ち尽くしていた。
やがて、私は森へと足を踏み入れた。
木々のざわめきが、まるで私の足音を試すように鳴っている。
修道院で学んだ魔物学の記憶が頭を過ぎる。
この森には、夜に目を光らせる獣がいる。
草の音一つにも怯えながら、それでも私は歩いた。
雷鳴の夜に救われたあの日から、
今度は、自分自身の足で進むために。
数日歩き続け、ようやく森を抜けた。
しかし、森の先に待っていたのは、私が思い描いた“世界”ではなかった。
痩せた畑、ひび割れた井戸、崩れかけた家々。
人々の目は、まるで光を忘れたように濁っていた。
私は勇気を出して声をかけた。
「旅の冒険者です。少し、水を——」
しかし、返ってきたのは言葉でも水でもはなく、冷たい視線だった。
「出ていけ。旅人なんかに構う暇はねぇ」
そう言って、彼らは私を追い払った。
胸の奥で、何かが静かに軋んだ。
冒険者とは、夢を叶える者のはずとそう信じていた。
しかし、この世界の“現実”は、夢よりも残酷で過酷だった。
それから私はその村を離れる事にした。
情も何も貰うこともできずにそれどころか、人によっては私の存在否定をした。
しかし、子供は違った。その村にいた子供は私を見て、目を輝かせ。好奇の光を浮かべていた。
「ねぇお姉さんは冒険者なの?」
そう尋ねてきたのは、貧困しているのだろう痩せこけた少女だった。
私は肯定し、どうして尋ねたのかを問おうと口を開いた瞬間。村の大人たちが。割り込み。少女から私を離した。
「うちの娘に手を出すな!!よそ者はさっさと出てけ!!」
そう大人たちは口々に言い私を貶す。
少女は何か言いたそうな顔をしているが頑なに大人たちは私と少女の間に立ち塞がっていた。
その光景は、私が冒険者になるのを拒む大人たちの様だった。
その刹那私の脳裏に幼少の私を否定する。大人たちの声が雷鳴のように轟く。
少女を見ていると、私を見ている気分になった。
どうか私のような汚れても尚、陽を浴びて生きるような子にはならないで欲しい。
そう思った瞬間。私はその村に背を向けていた。
アズリシア暦51XX年
故郷を去って。先輩冒険者や少女と別れ何年が経っただろうか。
遂に私はこの世界の殆どを旅した。
険しい山々や焼き切れるような砂漠を乗り越えて、今私は最果てにいる。夢に見た景色を今私は私の足で辿り着き私の瞳で最果ての地で見ている。ベッドの上では想像もつかない。言葉に出来ないほどの感動が押し寄せてくる。
私はその場に崩れ落ちて感動から涙を流した。
この景色を見せるために語りかけてくる声は私を度に駆り立てたのだろうか。
私は、最果てのこの地に根を下ろそうと思う。
紆余曲折あった私の人生はこの景色を見る為といえば。余りが生まれる程に辛いものだった。
存在否定され、嘲られ、常に闇が私を襲った。しかし、それは、おそらく私をこの地に立たせる為の試練だと思う事にした。
そう思うと今目の前で輝く大海と青空はあまりにも眩しかった。
アズリシア暦51XX年
私は最果ての地に小さな小屋を建てた。
そして、私は旅をやめ、この小さな小屋で残りの人生を過ごす事にした。
すると、戸を叩く音が小屋に響いた。
私は、ゆっくりと戸を開けると。昔私を助け、励ましてくれた先輩がそこに居た。
「君だったのか。それで?君は眩しい光の下を歩けたかい?」
街で別れた時と変わらない優しい人だった。
アズリシア暦51XX年
それからは私と先輩は共に小屋に住み、ゆっくりと景色と共に過ごした。
アズリシア暦5157年
彼女はこの地を去った。静かに優しい光に包まれて。
きっと彼女の人生には幾つの試練があったのだろうか。
それでも彼女は優しい笑顔で、最後まで微笑んでくれた。初めて会った頃とは全く違う成長を遂げていた。きっと彼女はこの旅は彼女を豊かにしたのだろ。
僕は彼女と出会えて良かったそう思いながら
彼女の隣に骨を埋めよう。
アズリシア暦5159年
小さい頃に見たお姉さんに憧れて、自分の頭の良さを使って冒険者になり、お姉さんが目指していた最果ての地に辿り着いた。
そこには、寂れた小屋と2つの墓があった。
墓には、女性のような名前ともう1つには名前は掘られていたけど風化が激しかったのか読めなかった。
きっとあのお姉さんはこの地に辿り着いたんだ。そう思いながら。2基の墓に私は花を手向けた。
そして、お姉さんの思いを広めるため自分は再び旅路を辿った。
――――
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