この世界は全てダンジョンとなる ~願いが叶うコインに選ばれた君と共に、俺は現代ダンジョンで覚醒する~
黄緑のしゃもじ
序章「君の願いが叶うコイン」
第1話「行方不明」
◇◇◇
夕方の日が暮れ始めた頃。小学校の校門の前で髪をポニーテールにした女性が電話をしていた。
「もしもし梓ちゃん、美香ちゃんは見つかった?」
『まだ、見つかってない』
「そっか……わかった。じゃあ、今からダンジョンに入るから、何かあったらそっちはよろしくね」
『わかってるよ』
それを最後に女性は電話を切り、スマートフォンをポケットにしまう。
そしてその代わりにポケットから『銀色に光るコイン』を取り出した。
「倖輝くん。準備はいい?」
「ああ。大丈夫だ」
女性は何かを強く決心した表情をしながら隣に居た男性に声をかける。
そして頷いた男性から小学校に目線を戻し、女性はコインを弧を描くように校門に向かって投げた。その『銀のコイン』は弧を描き校門に吸い込まれる様に凛と高い音を立てて……消えた。
その瞬間、この世界から2人は取り残されたように五感全てが希薄になる。
音が消え、匂いが消える。
そして目の前はコインが消えた場所から波紋上に白い光が広がり始め、小学校全体を白く埋め尽くす。
2人の目の前にできたのは白い空間。それが手招きしている様に見えて、より異様さを生み出している。
何かを願うように手を合わせていた女性は手を離し、ハーフアップしていた髪を一度解いてポニーテールに結い直す。その付け根には赤と白の花が付いた簪を着けていた。
「じゃあ行くよ、倖輝くん」
「ああ、結愛」
そして二人は白い空間に、一歩踏み出した。
◇◇◇
「お疲れ、
「あっ、
結愛と呼ばれた黒髪をハーフアップにした小柄な女性に倖輝と呼ばれた青年が声をかける。
ここは街から離れた山の中。周りには青々とした木々が生い茂り、清流が近くに流れている。いわゆる河原キャンプ場だ。
そこでボランティア団体のメンバー達とキャンプをしている結愛と倖輝は盛り上がってるメンバー達を見ていた。
すると、二人の後ろから女性が声をかけてきた。
「ゆあちゃんも、こうき君も盛り上がってる?」
「梓ちゃん。うん、盛り上がってるよ」
「そうだぞ。お前らを見て楽しんでた」
「なにそれ! まあ、こうき君は別にいいけど、ゆあちゃんは代表なんだからもっと率先して盛り上げないと」
「そう言うのは、梓ちゃんに任せるよ」
そう女性二人が仲良くワイワイと話している。それを横で見ている倖輝は手元の飲み物がなくなり、別の飲み物を取りに行こうと目線を外した。
すると、足元に衝撃が走った。
「ん!?」
下を見ると、ピンクのスカートをはいたツインテールの少女が痛そうに額を抑えている。丁度ポケットに入れていたスマホに頭をぶつけたようだ。
「だ、大丈夫っ!?」
それを見た結愛がすぐにしゃがみ込み、少女を心配する。
「だ、だいじょうぶ」
少し涙目になっている少女が結愛の顔を見る。
「
「ままっ!」
すると、その子の母親が駆け寄ってきて頭を下げた。それを見て結愛も否定する様にぶんぶんと手を振る。
「いえいえ、大丈夫ですよ。キャンプ場ですから。それに子供達は走り回って元気なのが一番ですから! だからキミもいっぱい楽しんでね!」
「うん!」
遠くで「みかちゃーん!」と少女の友達たちが呼んでいる。
「まま。みんな呼んでるから、いこっ!」
「そうね。ごめんなさいね」
「いえいえ」
そう言って母親と少女はみんなの輪に戻って行った。
「いつでも子供は元気じゃなきゃね」
「だな」
さっきの子供達が楽しそうに川に入って遊んでいるのを眺めていると、後ろから「おーい」と声が聞こえた。
「おっ。あいつら来たみたいだな」
「みんな来たみたいだよー」
「おっ! 新しいお肉とお酒が来たようだよ! よし! じゃあーみんな! まだまだ盛り上がるよー!」
「「おー」」
そして、残りのメンバーが合流して本格的にバーベキューが開始された。
◇
日も暮れ始め、夕焼けの空にカラスの鳴き声が聞こえる頃。
「さて、縁もたけなわですが、もうそろそろお開きの時間になりました」
「「えー」」
「えーじゃないです。では、
「はい」
まだ23歳にしてこのボランティア団体の代表を務める『
そしてみんなの前に立つ。
「では、いつも通りですが……」
と言った瞬間に言葉を止めた。何か聞こえたのかじっと聞き耳を立てている様に遠くを見ている。
「代表?」
「ちょっと待って」
メンバーがどうしたのかと声をかけるが、結愛は右手を前に出してそれを制する。
「みかー! みかー!」
聞こえてきたのは誰かを呼ぶ声だ。
その声の元を見ると昼間倖輝にぶつかった少女の母親だった。その母親が必死に子供の名前を叫んでいる。
「……」
その様子を結愛がじっと見る。
すると、
「梓ちゃん。ちょっとここまかせる」
「了解」
その一言だけ残して結愛はその母親の所に向かって行った。
その様子を見て新人が隣に居た女性に質問をする。
「ど、どうしたんですか?」
「あー、代表のいつもの行動だね。今から少し忙しくなるよ」
「は、はあ……?」
困惑する新人を横目に倖輝も結愛に続き母親の元に向かって行った。
倖輝が着いた時にはすでに結愛が母親に声をかけていた。
「すみません。どうされましたか?」
「えっ、あっ。美香が……娘が、いなくなって……ほんの少し、目を離した隙に……」
「娘さんがですか。私も探します。ツインテールの女の子ですよね」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ!」
「倖輝くん。聞いてた?」
「聞いてた。動くぞ」
「うん。ありがとう」
結愛と倖輝が梓達メンバーの所に戻る。
その場には梓が仕切っていたのか、ボランティア団体のメンバー20人程が待機していた。
「ゆあちゃん、指示を」
「ありがとう。みんな手伝ってください。探すのはピンクのスカートとピンクの靴を履いてるツインテールの女の子。小学2年生で身長は130センチぐらい。2人ペアで捜索」
そして結愛が梓の目を見る。
「梓ちゃん、いつも通り全体の指揮をお願い」
「了解」
「じゃあ、一刻を争うから。開始!」
「「はい!」」
結愛の言葉で全員が2組に分かれて捜索し始める。
さっきまでお酒が入り騒いでいたメンバーとは全く違う人物達に見えるぐらい行動が迅速だ。
梓に至っては人が変わった様にしっかりした口調でその場を指揮する。
「お酒飲んでるから危ない所は行かないように! 可能性がある場所を見つけたらゆあちゃんかこうき君に連絡を。率先して見てもらうようにするから。メンバー同士連絡取り合っていくよ。あたしは親御さんと管理人と連携して、警察に連絡するから。少しでも、何でもいいから気づいた事があったらすぐに報告! わかった?」
「「はい!」」
小規模だが訓練された様に連携が取れている動きを見せるメンバー達。新人はそれを初めて見るようで少し戸惑っているが、周りに合わせてすぐに行動を開始する。
これが結愛が率いるボランティア団体である。
しかし、捜索時間は刻々と過ぎていった。
美香はまだ見つからない。だから結愛は……ポケットの中の『コイン』に触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます