第3話、ミニスカメイド襲来
「誰かな」
僕が玄関に向かうと後ろからミハルが付いてきた。
チェーンを外してドアを開けると、そこに立っていたのはミニスカメイド。
「こちらはサトウタカシさんのお宅ですか」
アニメオタクが喜びそうな萌え声。
「はい、そうですけと。夕子さんは、その服で町を歩き回ってきたんですか?」
「ああ、あなたは公園にいた人……。ええ、皆が私に注目するので変だと思ったんですが、この服飾は特別な物だったようですね」
「ええ、まあ……」
特別ですよ、特別ですとも。バストを強調したスカート丈の短い、ハイソックスタイプのメイド服。それが目立たないのはメイド喫茶くらいのもの。
「サトウタカシさんはいらっしゃいますか」
やはり、僕を探していたのか。
「はあ、僕が貴志ですけど」
夕子さんは小さくため息をついた。
「コンピュータはターゲットの近くに転送してくれていたんですね。思考プログラムのデータが不完全なので、うっかりしました……」
彼女は目を伏せてから視線を上げて僕を見る。
「人類軍のリーダーか最終確認いたします」
不意に彼女の顔が迫ってきた。
僕の唇に暖かくて柔らかいものが押し当てられている。
夕子さんの両手が僕の肩を引き寄せていてキスされていた。これは生まれて初めてのこと。女性特有の甘い香りがした
「何をやってんのよ!」
ミハルによって二人は引きはがされる。
僕は廊下に尻もちをつく。夕子さんの赤い瞳が赤く光り、点滅した。
ああ、本当にロボットだったんだ。僕のファーストキスの相手は機械ということか。
「DNA配列参照。99.99パーセントの確率でリーダーのサトウタカシと確認しました」
夕子さんは両手を胸の前で組む。
「量子エンジン起動。金属製の武器を生成」
彼女の前の空間にボンヤリと光るボールが現れ、銀色の長いナイフに収束した。夕子さんはパシッとナイフを右手に取る。
「これより抹殺シーケンスに移行します」
そう言って刃渡り30センチくらいのナイフを横に構えた。
「そんなことはさせない!」
ミハルは僕の前に立ち、両手を胸の前で組む。
「量子エンジン起動。近接的な武器を生成」
彼女の手にもナイフが出現した。夕子さんは目を細めた。
「あなたの顔はデータにあります。近衛兵の戦士ミハルでしたか」
「あんたのことも知っている。殺人アンドロイドのUKO-800よね」
「その通りです」
言い終える前にミハルめがけて切りかかった。
鋭い軌跡が喉元に迫る。ミハルは顔の近くで受け止めた。
金属音とともに火花が散る。
ギリギリと刃先が鳴って両者は睨み合う。ミハルがナイフを跳ねのけると、すかさず腹を蹴った。
夕子さんは少し後退するが、表情は変わらない。痛みを感じていないのか。
僕の出る幕ではないと確信したので、廊下に座った状態でカサコソと居間に逃げ込んだ。
何度か切り結んでから夕子さんは下がって間を取った。
「埒があきませんね」
メイドさんはナイフを捨てて両手を胸の前で組む。
「量子エンジン起動。電磁ソード生成」
すると、リレーのバトンくらいの棒が出現。
夕子さんが棒を握ると、ブーンという振動音がして光る刃が現れた。
星間戦争の映画に出てきた物と似ているなあ。
ミハルも電磁ソードを生成し、ナイフと持ち替えた。
夕子さんは下段に構え、間髪入れずに襲い掛かる。ミハルは後ろにジャンプして、それをかわしてからソードを振りかぶって素早く切り込む。
だが、夕子さんは紙一重で避けたので勢いよく振り下ろしたソードは床にめり込んだ。木の床からブスブスと煙が出て焦げ臭い匂いが漂う。
ソードが上段からミハルを襲った。すんでのところで受け止めると、矢継ぎ早に夕子さんの攻撃が繰り返される。
防戦一方になったミハル。右手で攻撃を受け止めると、左手で近くにあった花瓶を握って投げつけた。
夕子さんがソードで花瓶を割ると、中の水が彼女に飛ぶ。電磁ソードの光る刃が消え、ガチガチと音を立てて根元から火花が出ている。
電磁ソードは水に弱いのか。
「もらったあ!」
ミハルのソードが頭上から一閃。しかし、紙一重でかわされる。夕子さんの黒いスカートが裂けて白いパンツが見えた。
夕子さんは電磁ソードを強く振り、水滴を飛ばす。振動音とともに光る刃が復活した。
メイドさんの素早い連続攻撃。3度目の下段からの光る円弧がスク水の胸の部分を切り、名前が書いてある白い布がパラリと垂れた。スクール水着が切り裂かれてミハルの豊満な胸の谷間があらわになる。
さらに剣劇が続行されて、それは僕が退避している居間になだれ込む。僕は部屋の角に逃げた。
天井の照明が壊され、イスが吹っ飛び、机は両断された。もう、メチャクチャだよ。
「ちょっと待ちなさい。UKO-800」
ミハルが左手を前にして夕子さんを制した。
「私の名前は夕子。夕方の子供と書いて夕子です。この世界では、そのように名乗っています」
「ああ、はいはい、ゆうこ……夕子ね、分かったわ。少し休戦しようよ」
ミハルはソードの刃を消す。
「休戦?」
夕子さんは構えを崩さない。
「この時代で騒ぎすぎると因果律が変わってAIコンピュータが自我に目覚めないことになるかもしれないでしょ」
パンチラを披露していたメイドさんはソードを下げた。ギュンという音がして光る刃が消える。
「それもそうですね……」
「もっと広い場所で決着をつけようよ」
そう言ってミハルは庭に降りた。
「量子エンジン起動。ワームホールを生成」
すると庭木の前に丸い光る輪が出現した。人間の身長くらいの直径で、円の中は水面のように波打っている。
「さあ、ワームホールを別の場所に繋いだわ。影響の出ない場所で戦いましょ」
ミハルがワームホールを指さすと、夕子さんは小さくうなずく。
「分かりました」
彼女は少し身をかがめて波の中に入っていった。
胸の部分が大きく切り開かれたスク水の前でミハルが両手を組む。
「ワームホール終結」
すると光る輪は次第に小さくなってプシュッという音を立てて消えた。
ニッコリと笑ってミハルは僕のほうを見ている。
「あれ、君は行かないの」
「うん、だって無理して戦う必要はないじゃない」
夕子さんをだましたわけか、かわいい顔して策士だな。
「あいつは知能データの修復が完成していないみたいだから引っかけてみたのよ。うまくいったね」
ニコニコと笑っている。
一応、戦いは終わったのか。ところで……。
「ところでさあ。部屋の中がメチャクチャなんだけど、これは何とかならないのかな」
部屋はリフォーム業者に依頼するレベルの壊れ方。両親が見たら何と言うだろう。
「ああ、大丈夫です。今、修復します」
両手を胸の谷間の前に組む。
「量子エンジン起動。修復モード」
すると、居間が振動して壊れた破片が舞い上がる。
その破片は、それぞれに収束して天井の照明やイス、花瓶、それに机の形になった。
「修復、完了しました」
「ああ、そう……」
ガラス戸に近寄って観察してみたが、ガラスにひびの一つもない。居間は元通りになっていた。
「生成よりも復元のほうが簡単なんですよ。創出する必要がないので」
「ああ、そうなんだ」
便利だよなあ。僕の体にも量子エンジンを埋め込んでもらいたい。
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