第五話 俺は魔物の魔法しか使えないらしい。
宿に戻った俺は、まず、無料で貰った基礎魔法の事が書かれている本を読破する事にした。
案外読破するまでに時間を要しなかった。
それで、この本に書かれていた事を説明すると。
火、水、風、土、命が魔法の基本となるらしい。
あくまで基本で、そこから派生させる事も可能だとか。
当然マジックを使うためには、魔力という物が必要で、その魔力は大気中にあるらしい。
そのため、呼吸から魔力を取り込み、その魔力で魔法を使う。
やはり、魔力を取り込める量は人それぞれ違うが、無限ではない。
一定量を超えると呼吸から排出されていく。器に溢れ出した魔力は毒なんだろうね。
そして、魔物の事も書かれてあった。
魔物の体は95パーが魔力で占めているらしく、魔物が使えるマジックは人族が使えるマジックよりも多種多様らしい。
魔物は95パー魔力で出来ている分維持をするため、呼吸も人族より発達している。
だから、魔力の回復が早いんだとか。
それと、人族と魔物のマジックは根本的な話で少し違うらしい。
人族は聖のエネルギーを、魔物は魔のエネルギーに魔力を変換し、マジックで出す。
加えて、この二つのエネルギーは共存出来ないらしいのだ。
これについては、ピンとこなかったから無視するか。
まぁこれが、本の内容を俺なりに要約したものだ。
というわけで、俺は今草原に来ている。
人目につくとこで魔法をぶっ放したくないしな。
それに、人里からあまり遠い場所に居なければ、魔物には遭遇しない。
マジックの練習をするのにはうってつけの場所っていうわけだ。
というわけで、異世界の定番中の定番『ファイアボール』を人生初の魔法として、使ってみる事にした。
詠唱は、使いたいマジックの正式名称を言えば良いらしく、慣れれば無詠唱でも可能という事だ。
魔力の使い方は、騎士から逃げる時になんとなく感覚を掴んだ。
まず、血を体中に巡らす事を意識する。血の中に魔力があるからね。
そして、巡っている血を手に集中させ、感覚を研ぎ澄ます。
来た!
「ファイアボール!!」
……ってあれ? 何も出ない。
何故だ? 確かに魔力が手に来るのを感じたし、正式名称で詠唱を行った。
何かおかしい点でもあったのか?
その後も俺は、水、風、土、命ーー全ての魔法を試した。
だが、火と同じでどれも出来なかった。
ギフトマジックと違って、マジックは魔力を持っていれば誰でも出来る。
勿論俺は魔力を持っているのだ。出来なければおかしいと言ったものだろう。
これに対しては転生者とか全くもって無関係と考えても良い。
なら何故だ?
頭をフルで使っていると、違う事を俺はふと思い出した。
そう言えば、ガルリロスのギフトマジック使ってなかったな。魔物にもギフトマジックっていう物があるだろうし、使ってみるか。
俺は手を真っ直ぐに上げると、魔力を手に集中させ唱えた。
「ディクリクション!!」
そうすると、手から漆黒の魔法が、決して一直線には出なかったが、膨大な魔力をギフトマジックとなって出てきた。
やった……! 使えた。魔法が使えた。
異世界転生したらやってみたいことランキング上位に入るであろう魔法を使う!が今使えたのだ。
心臓の鼓動がうるさく、風で揺らいでいる草や木の葉っぱの音は、まるで俺を祝福しているような、そんな気がした。
それにしても、俺はこのマジックの正式名称を知らない。
しかし、咄嗟に出た言葉だった。ガルリロスの記憶が脳にあるから出たのだろう。
だが疑問だ。
ガルリロスのギフトマジックは使えて、“基本のマジック”は使えなかったか。
俺は考えていると、あることを思い出した。
――『聖のエネルギーと魔のエネルギーは共存出来ない。』
いまいちピンと来なくて無視してたが、そういう事だったのか。
つまり、一つの体に一つしかエネルギーを使えないと言う意味だったのだ。
俺の場合、転生者で、聖のエネルギーか魔のエネルギーかまだあやふやになっていたのだろう。
その状態で、ガルリロスとの契約で魔のエネルギーが体に刻まれた。
つまり――俺は魔物のマジックしか使えないということだ。
最悪だ。
俺って人族の社会で生きてんだぜ……誰にも相談出来ないし、誰も魔物のマジックの使い方を知らない……。
俺はガルリロスのギフトマジックしか使えないわけだ。
この能力は強いんだが、魔力が一気に削られ使い勝手が悪い。
魔物で唯一の知り合いのガルリロスとのコミュニケーションはあれ以来してない……いや、出来ないのだろう。
ガルリロスは自分の身を俺に預けた。だから、ガルリロスは自由に体を使えないのだろう。
ていうか、こいつ魔物のマジックとか使っていなかったのか?
使っていれば、ディクリクションみたいに知らない詠唱でもパッと知る事が出来るのに。
いや、待て。
俺のギフトマジック『奪う者』があるじゃないか!
これで魔物のギフトマジックとマジックが奪える。
なら、今してた心配は全て不要だろう。
結果的に、マジックの種類が豊富な魔物のマジック……魔のエネルギーを体に刻めて良かったってわけか。
にしても、俺に都合良すぎる程上手く話が出来てはしないか?
いや、それで良い。転生ものの主人公はこうでなくては困る。
「よっしゃぁ! 俺はこの世界を謳歌するぞ!」
こうして、俺の異世界を謳歌する話は一歩前進したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます