第14話叱られ保育士の庇護と恋の芽生え
まひる先生に対する徹底した緘口令が敷かれた新年度の日々は、異常な静けさを保っていた。
私の支配者たちは、まひる先生の前で私の性癖を刺激するような行動は一切取らない。
だが、それは「普通の叱り」が消えたわけではない。
むしろ、それは理不尽さを増していった。
その理由は、私の暴走を防ぐためだ。
園長先生は以前、こう忠告していた。
「良介先生は叱られない期間が長引くと、性癖が満たされず、業務に重大なミスを誘発する可能性がある」
つまり、私が理性を保つために、普通の叱責を与え続ける必要があるという、私のためという名目のコントロールだった。
さくら先生は、園全体に聞こえる声で私を立たせる。
「良介さんの指導案は先週提出期限だったわね、一週間も遅れるなんてありえない」
みなみ先生は、公衆の面前で冷たく断罪する。
「良介先生のクラスで今日また忘れ物がありました。あなたの注意力散漫のせいです」
これらは、私の性癖とは無関係の、純粋な職務上の叱責に見える。
しかし、その実態は、まひる先生の「正義感」を揺さぶるための、計算された舞台だった。
案の定、叱責が理不尽なものであるほど、まひる先生は私を庇うようになった。
ある日の朝礼後。
しおり先生が、私の保育室の掃除が行き届いていないと命令口調で難癖をつけ始めた。
「は?良介先輩、この棚の裏、ホコリが残ってるじゃない。本当に使えない先輩ね。
私に言われるまで気づかないなんて。今すぐ屈んで、私が納得いくまで拭きなさいよ!」
しおり先生の命令は、本質的には調教と同じだが、表面上は「指導」だった。
私が床に屈もうとした瞬間、まひる先生が前に出た。
「久遠先生、やめてください!良介先輩は昨晩遅くまで作業していたんです。
それに、その態度は先輩に対して失礼ですよ!そこまで厳しくする必要はありません!」
まひる先生は、しおり先生の鋭い視線にひるむことなく、真っ向から対立した。
しおり先生が面白がるように口角を上げて退いたのを見て、まひる先生は安心したように息をついた。
しかし、その直後、さくら先生が静かに口を開いた。
「朝比奈先生、久遠先生の言葉は厳しかったかもしれませんが、間違いではありません。
良介さんは、最近注意力が散漫です。彼の業務への集中を維持するためにも、厳しく指摘する必要があるのよ。
あなたの優しさは理解しますが、彼の指導に関しては口を出さないでね」
さくら先生の言葉は、表向きは指導の擁護だが、まひる先生の介入を明確に禁じるものであり、まひる先生は戸惑いを隠せなかった。
まひる先生は、私に心配そうな顔を向ける。
「良介先輩、大丈夫ですか?久遠先生もさくら先生も、ちょっと厳しすぎます。
私がちゃんと園長先生に話を通しますから!」
まひる先生が私のために他の先生と対立するたび、私は胸が締め付けられるような罪悪感と、同時に抑えきれない甘美な快感に襲われた。
彼女は私の秘密を知らない。
純粋に、理不尽な仕打ちから私という「弱者」を守ろうとしている。
その行為こそが、私の性癖を「無垢な愛情による庇護」という最高の形で満たしていた。
私が本当に叱られたい対象である先生や保護者たちが、まひる先生との関係を深めるための「演技」を続けてくれる。
彼らは、私の秘密の愛慕を最高の調教材料にしているのだ。
まひる先生に庇われる回数が増えるほど、私の彼女に対する感情は、純粋な先輩としての愛着や尊敬を超え、本気の恋心へと変わっていった。
私は、彼女の正義感と優しさが、私の倒錯的な欲望を満たす唯一無二の要素であることに、
そして同時に、彼女の愛を裏切っているという背徳感こそが、自分にとって最大の悦びであることに気づいたのだ。
ある日の夕方。
まひる先生は、またみなみ先生に私のミスのことで冷たく責められていた私を、会議室の外に連れ出した。
「良介先輩、もう我慢しなくていいんです。
先輩は、仕事も熱心で、いつも優しい。
なんでみんなあんなに理不尽なのかな…」
彼女は、涙ぐみそうな瞳で私を見上げた。
私は、この純粋な愛情と庇護の眼差しを前に、もう嘘の仮面を被っていることができなくなった。
「まひる…ありがとう。でも、俺は…」
私は、このまま秘密を告白し、彼女の愛を失うかもしれないという恐怖に襲われた。
しかし、彼女の無私の優しさが、私の理性と欲望をすべて凌駕した。
「先輩…私、先輩のことが好きです。
ずっと、学生時代から見ていました。
周りが先輩が男だからって、年上だからって、雑な扱いをするのを見て、ずっと胸が痛くて…。
理不尽に責められている先輩を、見ているのが辛いんです。
私が先輩を支えます」
まひる先生の真剣な告白に、私の心は決まった。
性癖も、秘密も、支配者たちの存在もすべて頭から消え去った。
「まひる、俺も好きだ。ずっと、まひるの優しさに救われてたんだ」
こうして、私は、私の倒錯的な性癖を一切知らず、
その性癖を最も深く満たしてくれる女性、まひる先生と付き合い始めることになった。
その夜、園長先生から私に送られてきたメールには、たった一文だけが書かれていた。
【件名:最高の獲物/本文:おめでとうございます。最高の『舞台』が整いましたね。】
私の恋は、私を支配する者たちにとって、
「秘密の愛慕を利用した公衆の調教」という、最高の娯楽として始まったのだ。
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