処刑人と少女の三日間
ミミササ
一日目
今日、ここに大犯罪を犯した少女がやってくる。俺は上司からそう聞いた。
時刻は午前七時、俺は仕事である死刑執行の役目を果たしにとある監獄に来ていた。
『おはようございます』
正面入り口、武装した警備兵の行列が俺を迎える。
「おはよう」
「ずいぶんとお早い到着ですね」
「たまたまだよ、たまたま」
仕事自体は三日先なのだが、たまたま道が空いており悪天候にも見舞われなかったので三日早く着いてしまった。
「それではお部屋に案内いたします」
警備兵の一人が列から抜けて宿泊先の部屋へと案内してくれる。
「こちらが本日より三日間、処刑人様の宿泊部屋とさせていただいています」
「随分とボロいな……」
案内された部屋は監獄の外観とはに着かないような藁?と木で骨組みされた薄っぺらい紙のドアの部屋だ。
「こちらは東の国にある伝統を元に作られた和室と言う部屋です」
「伝統って……何百年前の伝統だよ」
「お気に召し内容であれば急遽新しい部屋をご用意いたしますが、いかがなさいましょう?」
「いや、この部屋でいい」
これよりひどい部屋に案内されてはさらに機嫌が悪くなるだけだ、処刑人たるもの感情を表には出さない様にしなくてはいけない。
「さようでございますか」
「それより
「要望があればいつでも可能です」
「なら今すぐ会いたい」
「それでは面会の準備をいたしますのでお待ちください」
警備兵が外へ出る。一人残された部屋で荷物から手帳とペンを取り出す。
手帳には私の名前であるグラム・コルニクスのイニシャルが書かれている。手帳を開き、新しく書いたページを開く。
そこにはこれまでに処刑した人物の一週間にわたる記録が書かれている。
記録は人によってバラつきがあるが、基本的に最初は優しく徐々に徐々に刑が近くなるにつれ狂っていく。
「少女の記録は初めてだな」
「処刑人様、面会の準備ができました」
ノックの向こうから警備員の声がする。
ポケットにメモ帳とペンを持って面会室に向かう。
「どうぞ」
案内された部屋を通ると顔を除く全身を拘束された少女が張り付いた笑みでこちらを出迎えた。
「それでは面会時間は五分ですので」
席に座り少女と目を合わせる。その瞬間だった、少女の瞳の奥からギラギラとした眼差しが真っすぐこちらを見つめ返したのだ。
「っ!!」
一瞬にして背筋が凍る。今まで出会って来た罪人とは明らかに違う。
今、目の前にいる少女が死刑になった理由がなんとなくわかる程、不気味な感情が情報に流れ込んでくる。
虚勢で目をぎらつかせる奴は何人もいたがこれは違う。まだ足りない、諦めていない目だ。
「ねえ」
先に口を開いたのは少女。
その声は可愛らしく、瞳の奥に眠る確かな殺意を感じさせない程の妖艶さがにじみ出ている。
「お兄さんが私を殺すの」
「…………ああ、私が君を殺す処刑人だ」
向けられている殺意に答える。今までの経験に無い程、少女に狂気性を感じる。
「なーんだ……」
一瞬、瞳の奥の殺意が消える。すぐにまたギラついた目に戻り、視線を動かし天井を見上げる。
「大した事ないじゃん」
「…………え」
「もっと凄いのが来るかと思ったけど、案外つまんなそうなんだね」
少女の言葉に一瞬戸惑う。つまんなそう、この子はこの状況で自分の死を理解しながら言っているのか……?。
どちらにせよ、私のやる事は一つだ。大人として、処刑人として少女の心に語り掛けること。
「お嬢ちゃんはどうしてここに居るかわかるかい?」
「さぁ?」
キョトンとした顔で答える。一見、表情豊かに見えるが目は変わっていない、少女の目から視線を決して離さない。
「国を襲って多くの人を殺したのはわかるかな?」
「うん、いっぱい殺した」
「……殺した時どう思った」
「ん?なんか死んだなーって」
淡々と答える少女からは罪悪感がまるで感じられない所か本当にやったのか疑わしい程の無邪気ささえ感じ取れる。
「そうか……心は痛まなかったのかい?」
「なんで?私が痛いわけでもないし苦しいわけでもないよ?」
罪悪感が無いのはよくあることだ。けっして普通ではないが、特に珍しいことでもない。だが、この子は違う。
目の奥に殺意が芽生えている。その上で罪悪感が無いのは何か恨みがある可能性がある。
「お嬢ちゃん、なんでもいいから嫌な事があったら教えてほしい」
「嫌な事?今のこの状況かなー」
「そう……か」
(やっぱり、この子は何か嫌な事があってこの状況になったのか……今の状況が嫌と言う点から見ても気が短いか暴れたがりかのどちらかだな)
「お時間です」
少女の分析をしていると丁度時間が来たらしい。
とりあえず、ある程度確定したことだし明日も色々と聞くことにするか。
「またね、お兄さん。私、待ってるからね」
振り返って少女を見る。その目は加虐心を持った子供の様な目立った。
再び背筋が凍った。不気味に思いながらも面会室を出て部屋に戻る。
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