第28話 歪なチームワークとランク昇格試験
シアが「所有物」となってから数週間。
学園は前期の山場である**『ランク昇格試験』**の時期を迎えていた。
これは全学年の生徒がパーティーを組み、学園が管理するダンジョンに潜って成果を競う実技試験だ。
成績優秀なパーティーには学生ランクの昇格と、多額の報奨金、そして図書館の閲覧権限拡大(これが本命だ)が与えられる。
大講堂に集まった生徒たちの熱気は凄まじい。
Sクラスのカイルやエリスも、それぞれの取り巻きとパーティーを組んで気合を入れている。
「よう、アルス! お前、あの地味な子と組んだんだって?」
カイルが声をかけてくる。彼の視線の先には、俺の背後に隠れるように縮こまっているシアがいる。
「ああ。彼女は優秀だよ」
「へぇ……。まあ、お前の選んだ相手なら間違いねぇか。負けないぜ!」
カイルは爽やかに笑い、自身のパーティー(剣士、武闘家、僧侶のガチムチ構成)の元へ戻っていった。
一方、エリスはこちらをジロジロと見て、鼻を鳴らす。
「ふん。寄せ集めのパーティーでどこまでやれるか、見物ですわね」
彼女のパーティーは、取り巻きの令嬢たち(魔法使い特化)で固められている。火力は高そうだが、前衛が薄いのが弱点か。
「……うぅ、あんな凄い人たちと戦うなんて……」
シアが青ざめて震えている。
俺は彼女の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「大丈夫だ。君には俺がついている。今日も『補給』で、魔力供給頼んだよ」
「ひゃぅ……っ! は、はい……身体の奥が、まだ熱いです……」
シアの頬が朱に染まり、トロンとした目つきになる。
彼女はもう、俺の「吸血」と、それに伴う快楽なしでは精神が安定しない体になりつつある。
「よし、行くぞ。俺たちの力を見せつけてやる」
***
試験会場は、学園の地下に広がる**『訓練用大迷宮』**。
人工的に魔物を放った広大なダンジョンだ。
俺たち『チーム・アルス』は、順調に階層を下っていた。
「そこだ、フェル!」
「ガアアッ!」
フェルが『ウェアウルフ(Lv22)』に飛びかかる。
彼女の装備は、俺が先日調整を加えた最新型だ。
【Item Info】
名称: 銀狼の爪甲・改 (Silver Wolf Claws Custom)
等級: 良質+ (High Quality+)
効果:
攻撃力+20
敏捷性アップ(中)
スキル付与: [裂傷] ……攻撃時、確率で出血ダメージを与える。
解説: ミスリル銀と魔獣の革を用い、『携帯型・融合装置』で再錬成した格闘武器。フェルの野生的な戦闘スタイルに合わせて軽量化されている。
鋭い爪がウェアウルフの喉を切り裂き、鮮血が舞う。
フェルは返り血を浴びながら、獰猛な笑みを浮かべた。
「血だ! もっと血を出せ!」
彼女の中で眠っていた獣の本能が、戦いの中で歓喜の声を上げている。
屋敷では「待て」を覚えさせたが、ここでは解き放つ。
その奔放な暴力性が、前衛として頼もしい。
「左から増援です!」
後衛のレイラが警告する。
壁の隙間から、『ゴブリン・アーチャー』の群れが現れた。
「レイラ、氷壁で射線を切れ! シア、俺に接続!」
「はいっ!」
シアが俺の背中に抱きつく。
柔らかい感触と共に、彼女から流れ込んでくる膨大な魔力。
俺のMPバーが一瞬でオーバーフローする。
「あぁ……んっ、吸い出されてる……うぅ……」
シアが甘い声を漏らす。
戦闘中だが、この魔力供給こそが俺たちの生命線だ。
俺は溢れる魔力を右手に収束させる。
「『シャドウウィーブ』・サウザンド・ニードル!」
俺の影が爆発的に広がり、無数の針となってゴブリンたちを貫いた。
本来ならMPを大量消費する広範囲攻撃だが、シアという外部タンクがあるおかげで、コストを気にせず連発できる。
ドガガガガッ!
ゴブリンたちが蜂の巣になり、絶命する。
圧倒的だ。
「この規模の魔法を制御するとは……すごいです、アルス様。」
レイラが感嘆の声を上げる。
彼女の手には、俺が新調したレイピアが握られている。
【Item Info】
名称: 氷華の細剣 (Ice Bloom Rapier)
等級: 希少 (Rare)
効果:
魔法攻撃力+15
氷属性魔法の威力・範囲拡大
スキル付与: [凍結] ……クリティカル時、対象を凍結させる。
解説: 『赤の峡谷』で採取した氷結石を核に、レイラの魔力特性に合わせてチューニングした魔剣。
「君のサポートのおかげだよ。……さて、次だ」
俺たちは止まらない。
フェルが暴れ、レイラが守り、俺とシアが殲滅する。
歪だが、噛み合っている。
絶対的な信頼を置ける身内と、支配下にある有能な道具。
これぞ、俺が求めていたパーティーの形だ。
***
迷宮の最深部。
そこには、試験のボスである『キマイラ(Lv35)』が待ち構えていた。
獅子、山羊、蛇の頭を持つ合成獣。
Sクラスの生徒たちでも、パーティーで連携しなければ苦戦する相手だ。
だが、俺たちは違った。
「フェル、正面から噛みつけ! レイラは蛇の頭を凍らせろ!」
「肉ぅぅぅッ!」
「承知しました!」
二人が左右に展開し、キマイラを翻弄する。
キマイラが炎を吐こうとするが、フェルの突進がそれを阻害し、レイラの氷矢が蛇の口を封じる。
その隙に、俺はシアから魔力を限界まで吸い上げる。
「んくっ、あっ、あぁぁ……ッ! 全部、持ってってぇ……!」
シアが快楽に白目を剥き、腰砕けになる。
俺の体内魔力が臨界点に達した。
「終わりだ。『ダークエッジ』・ギロチン!」
俺は跳躍し、巨大な闇の刃を形成してキマイラの首を断ち切った。
獅子の首が宙を舞う。
巨体が崩れ落ち、光の粒子となって消滅した。
『Boss Defeated.』
『Exam Cleared: Rank S Assessment』
試験終了のブザーが鳴り響く。
俺は着地し、へたり込んでいるシアを抱き起こした。
「よくやった、シア。君のおかげだ」
「あ、アルスさん……。私、役に立ちましたか……?」
「ああ。君は最高の『燃料』だ」
俺が頭を撫でると、シアは恍惚とした表情で俺の手に頬を擦り付けた。
その様子を、フェルがジト目で、レイラが少し冷ややかな目で見ている。
「……アルス、あたしも頑張ったぞ。肉は?」
「アルス様。あまりその子ばかり使うと、私の出番が減ってしまいます」
俺は苦笑し、二人の頭も撫でてやる。
「ああ、分かってる。フェルもレイラも、最高の働きだった。二人のおかげで勝てたんだ」
シアは便利な道具だが、フェルとレイラは俺の背中を預けられる大切な仲間だ。
その区別は、俺の中で明確にある。
図書館の『禁書庫』への扉は、もう目の前まで開いている。
【Current Status】
Name: アルス・ブラッドベリー
Level: 32
Job: ブラッドロード / [偽装: バトルメイジ]
Party:
アルス (Leader)
レイラ (Sub)
フェル (Tank)
シア (Healer / Battery)
Key Items: 携帯型・融合装置, 炎竜の魔核(B), 銀狼の爪甲・改, 氷華の細剣, 聖銀の短剣, 抑制の杖
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